炬燵の魔力
短いです。
なんだかんだで二日目も、雪合戦にその全てを費やした。
「先生、マトモに鍛える気あります?」
「……それなりに、楽出来ればいいかなぁって」
「あんたぶん殴るぞ本気で」
「ユウシア君が凶悪にっ!?」
そんなやり取りがあったとかなかったとかいう話もあったが、少なくとも誰一人気にはしなかった。
「うぅ、寒い……凍え死ぬ……」
例によって――と言うべきか、学園の寮と同じように、ユウシアのテントに集まるリル達。その中のアヤが、体を抱きながら言う。
「調子に乗ってはしゃぐから……ほら、炬燵あるから入りな」
「へっ? こ、炬燵っ? 何で!? まぁいいや、わーいっ!」
テントの中だというのに、何故か当然のように置かれている炬燵。アヤは疑問に思いつつもすぐに飛び込んだ。炬燵は偉大なのだ。
「リル達も、早く入りなよ」
ユウシアが、炬燵を見て不思議そうにしているリル達に声をかける。が、
「あの、ユウシア様……コタツ、とは?」
「……はい?」
リルの問いに、ユウシアは間の抜けた声を漏らす。
「えっと……炬燵、知らないの?」
リル達は一瞬お互いに顔を見合わせてから頷く。誰も知らなかったらしい。
(そういえば確かに、これはまだラウラと暮らしてた時に自分で作ったやつだからなぁ……まさかこの国に炬燵がないとは思わなかった。これ作った時にラウラが微妙そうな顔してたのって、もしかしてそれが理由……?)
などと考える霧也だが、今更遅い。ならばいっそ広めてやろう、とユウシアは考えを変える。
「まぁまぁ、入ってみなよ。きっと気に入るから。……人を堕落させるこの悪魔からは、誰も逃げられないのさ……」
「ユ、ユウシア様? 気に入ると言いながら、何故そんな不穏なことを……?」
「だが、姉上。見てみてくれ、ユウシアが誘うように広げる、コタツとやらの入り口を……どうしようもなく、体が吸い込まれそうに……」
「こ、これは……あたしも吸い込まれる……」
「た、確かに……! 何故だか勝手にそちらへ向かってしまいますわ……!」
「ふっふっふ、それが炬燵の魔力というものだ。さぁ来い、堕落してしまえ! はーはっはっは!」
「ユウ君、ノリノリだねぇ……あぁ、ぬくぬく気持ちいい、眠くなってきた……」
割と真面目に話していたリル達なのだが、ユウシアやアヤからすれば茶番もいいところで。
ふざけて高笑いを始めるユウシアに、次第に目をとろんとさせ始めるアヤ。そんな二人にはお構いなく、ついにリル達三人が炬燵の中へ。
直後、
「「「ふへぁ」」」
緩みきった声が三人の口から漏れる。
「これは、なんて暖かい……冷えた体をゆっくりと溶かしていってくれるようだ……」
「確かに、これは人を堕落させるわね……だめよ、こんなものが広まったら、冬の間は誰も炬燵から出なくなっちゃう……」
「ですが、これは個人的に……ユウシア様、私に一つ頂けませんか?」
「これより少し小さいけど、練習で作ったやつなら余ってるよ。それでよければ」
「是非……」
この日はその後、皆炬燵に入ってダラダラと過ごした。




