いつものこと×2
七夕? 家に引きこもってましたが何か?
そんなこんなで、ついに北の山脈へと到着したユウシア達。
「護衛、ありがとうございました、義兄さん」
「いや、結局何事もなかったしな」
「大勢の騎士が威圧になってたんでしょう。義兄さん達がいなかったらどうだったか分かりませんよ」
「……どの道任務だ。礼を言われるようなことではない」
「素直に受け取ってくれてもいいのに……」
尚も礼を受け取ろうとしないハイドに、ユウシアは苦笑する。
「そうですわ、お兄様。任務だろうとなんだろうと、私達を守ってくれたのは確かなのですから」
「兄上はもっと人の好意を素直に受け取れるようになるべきだ」
と、そこに妹二人からの援護射撃が。これには隠れシスコンであるハイドも言葉に詰まる。
「む、ぅ……」
「ほら、お兄様。お礼を言われたら、どういたしまして、ですよ?」
まるで子供でも相手するかのように教えるリル。
「そうだぞ、兄上。ほら、りぴーとあふたーみー。どういたしまして」
そこにニヤニヤしながら追撃するフィル。
「フィル、面白がるのはいいが、調子に乗るのはよせ……分かった、礼は受け取っておく。ではな」
それだけ言うと、さっさと立ち去ってしまうハイド。
「……少し意地悪しすぎたでしょうか?」
小さく笑いながら首を傾げるリルに、ユウシアはそういえば、と話しかける。
「すっかり苦手意識はなくなったんだな」
「そういえば……姉上はハイド兄上が苦手だったな」
「……悪い方ではないことも、私達を大事に思ってくれていることも分かりましたから。ユウシア様のおかげです」
「いや、俺がいなくてもその内打ち解けられてたんじゃないかな?」
「そう、でしょうか?」
「うん。何せあの人かなりのシス――いや、なんでもない」
ハイドの名誉のため、口を慎むユウシア。重度のシスコンだなんて言えない。だって、去ったはずのハイドが顔だけ覗かせてこちらをジッと見てるんだもの。
(分かった、分かりましたから、何も言わないから見ないで怖い)
「ユウシア様?」
「なんでもないです」
「はぁ……?」
若干冷や汗を流すユウシアにリルが首を傾げるが、とりあえず首を振っておく。ハイドに笑顔を向けておくことも忘れない。リルが更に不思議そうにしているが、知ったことじゃない。
納得したのか、念を押すように軽く一睨みしてから今度こそ去っていくハイド。ユウシアはホッと息を吐いた。
++++++++++
ハイド達護衛の騎士と別れたのは、山の麓。対して、今回の合宿――もとい修学旅行において拠点とするのは、山脈の中でも高めの山、その中腹だ。と言っても、クラスによって山は変わり、高めの山なのはユウシア達フェルトリバークラスがSランクのクラスだからなのだが。
ともあれ、そんな山を数時間かけて中腹まで――一部を除いてハァハァと息を切らせながら――登り、持参したテントを設置。ここで輝くユウシアの【収納術】。個人用で小さめのものとはいえ嵩張るテントを、なんの変哲もないポーチの中にスッポリだ。ちなみに、クラスメイト全員分入っている。
「はーい、皆、自分のテント持っていってー」
見るからに一つだけで容量大幅オーバーのテントをホイホイ取り出すユウシアだが、クラスメイト達は慣れたもので、どこか呆れた顔をしつつも礼を言って受け取っていく。
で。
「ユ、ユウシア君……? あの、はぁっ、どうして僕の荷物は、ふぅっ、持ってくれなかったんです……?」
一人、荷物を何一つとして持ってもらえず地味に息を切らしてきたヴェルムが、何故か無駄に量の多い荷物を背負い、抱え、引っ張ってくる。
「……いや、絶対余計なもの持ってきてますよね?」
「そ、それとこれとは」
「なんで必要もないもの持ってくるような人の荷物持ってあげなきゃいけないんですか」
「うぐっ」
「それに、自分で持ってこれると判断したからそんな無駄に持ってきたんでしょう?」
「いやまぁ、そうですけど……」
「だったら自分で持ってくださいよ。余計な荷物に割くスペースはありませんから」
「そんなぁ……」
「あとは単純に先生の荷物を持ちたくない」
「酷くないです!?」
「いつも通りじゃないですか?」
「うわぁぁあんっ!」
ヴェルムは走り去った。
「……うん、いつものこといつものこと。さ、テント張ろ」
ユウシアが呟く。周りの皆も、何事もなかったかのようにテントを張っていた。
ヴェルム先生の扱いが酷いのはいつものことなのです。