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“元”暗殺者の転生譚!  作者: 浅野陽翔
修学旅行? いいえ、ただの地獄です。
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天の川

 前半書いて、さぁ後何書こうかと考えてたときに思い出したんです。そういえばこれ更新日七夕だなって。ぶっ込んでみた。

「で、なんでここにいるんです?」


 あれから一週間。ついに修学旅行当日、朝早くから移動のための馬車の周りに集まっていた学園の生徒達。そこから少し外れたところにいるユウシアが、どこか呆れ気味にそう問いかける。

 その相手は、普通ならこんな口をきくことなど絶対に出来ない相手。つまり、


「義兄さん」


 この国の第三王子、ハイドだ。


「護衛だ。一応な」


 ユウシアの問いに、いつも通りぶっきらぼうに答えるハイド。見ると彼はしっかりと武装しており、他にもあちこちに完全武装の騎士達が見受けられる。


「あー……学生だけで行かせるには危険ってことですか」

「それもあるがな。それでも例年は、教員達だけでどうにかなるということで護衛の騎士などはいなかった。ただ今年は……」


 そう言って、ふとある方向に目を向けるハイド。その先には、彼の妹達、王女であるリルとフィルの姿があった。


「なるほど、この国の王女が二人もいるんじゃ流石に放置出来ませんか。……ちなみに、義兄さんのときはどうだったんですか?」

「俺が突っ返した」

「あらら……」


 その光景が容易に想像出来て、ユウシアは思わず苦笑する。


「とは言え、俺達が護衛に付くのは移動中だけだ。北の山脈では護衛などいてもいなくても大差ないからな」

「魔獣もいませんしね」

「それに、あんな場所を根城にするような盗賊もいるまい」


 腕のたつ騎士がどれだけいようと、過酷な環境の中ではなんの役にも立たない。だったら、行きと帰りの道中だけ護衛させておけばいいということだ。


「でもまぁそういうことなら、道中はお願いします、義兄さん」

「あぁ。……とは言っても、お前には必要ないだろうが」

「……俺には必要なくとも、俺一人で全てを守れる訳ではないですから。リルだけは、死んでも守りますけどね」

「……相変わらずだな、お前は。だがそれでいい。お前はあいつを、ただただ愛し続けてやれ」

「えっと……? はい、分かりました」


 何故そんなことを言うのか、と疑問に思ったユウシアだったが、言われなくとも、と頷く。


「あぁ、それと、父上から伝言だ。『必ず、リル達と共に傷一つないまま帰ってくること』だそうだ」

「それは……頑張らないといけませんね」

「そうだな。ことリルのことについては心配していないが……お前が傷ついて一番心を痛めるのが誰か、忘れるなよ」

「……えぇ、無理はしませんよ。心配かけてばかりですから」

「それでいい。そろそろ出発だ。俺はお前達の乗る馬車の後ろに付く予定だ。何かあったら言え」

「分かりました。ありがとうございます、義兄さん」


++++++++++


 学園を出発し、何事もなく一週間程が過ぎた。明日には北の山脈に到着する予定だ。

 既にすぐ近くにまるで壁のように立ち並ぶ山々が見えており、気温も王都に比べ大分低い。地獄が近づいていることを否が応にも実感させられる。


「――くしゅっ!」


 夜。夜営の準備を終え、夕食――保存食や現地調達ではない最後の食事だった――をとったすぐ後、冷気に堪えきれなかったのかリルが一つ小さくくしゃみをする。


「寒い?」

「……はい、少し……」


 ユウシアの問いに、リルは頬を赤らめつつ答える。

 ユウシアは自分が羽織っていた上着をあっさり脱ぐと、それをリルに渡す。


「これ」

「え……で、ですがそれではユウシア様が……」

「俺は平気だよ。気温の変化程度で任務に支障を来すことがないように訓練されて――いや、寒さには強いんだ。暑さにもだけどな。それより、俺にとってはリルが風邪を引かないかの方が重要だよ」

「ユウシア様……」

「リル……」


 流れで見つめ合う二人。と、そこへ割り込む勇気ある少女が一人。


「……あの、別のところでやっててもらってもいいですか……? ほら、あっちに見える小高い丘とか見晴らしもよさそうだし……」


 アヤだ。完全に疲れきったような目をしている。そして、その後ろで何度も頷く、同じような目のフィル達。

 ユウシア達は、素直にその丘へと行くことにした。


++++++++++


「……星が、綺麗ですわね。とても」

「……とある国では、その言葉は『私はあなたに憧れている』とか『あなたは私の思いを知らないでしょうね』とか、そんな意味があるらしいよ」

「……憧れているのは、紛れもない事実ですわ。ですが、ユウシア様はわたくしの思いを知っています」

「それはお互い様。……ちなみに、『月が綺麗ですね』だともっとストレートに『愛してる』になるそうな」

「……わたくしのユウシア様への愛を表すなら、どれだけ綺麗な月でも役不足です……」


 なんて、胸焼けを起こしそうな会話を丘の上に寝転がりながら交わす二人。その距離はとても近く、間では彼らの手がしっかりと繋がれていた。

 と、ユウシアが何かに気付き、声を漏らす。


「――あ、天の川……この世界にもあるんだ」

「天の川……ですか?」


 リルの言葉に、ユウシアは空を指差す。


「うん。分かるかな、あの辺、星が集まって光の帯が出来てるんだ。……そっか、対になる世界だから共通点も多いんだっけ……」


 後半、誰にも聞こえないような声で呟いて、ユウシアは微笑む。


「本当……とても綺麗です。ですがユウシア様、あれに何が……?」

「……こんな話があるんだ」


 そう前置きしてユウシアは、天の川にまつわるとある二人の――織姫と彦星の物語を、簡単に噛み砕いて話す。


「――そして二人は、年に一度だけ、天の川を渡り会うことを神様に認められた。もしもその日に雨が降ってしまったら二人は会えなくなるんだけど――それはとにかく、その日を“七夕”って呼んで、短冊に願いを書いて笹に飾るとその願いが叶うって言われてるんだ。あとは、場所によってはお祭りを開いたりも――リル?」


 懐かしい、地球の話。思い出しながら、ゆっくりと話し終えたユウシアの耳に届いたのは、小さく鼻をすする音だった。


「……なんで、泣いてるの?」

「ぐすっ……ひ、引き離された二人のことを考えると、可哀想で……それに、もしもわたくしとユウシア様もそんなことになってしまったらと考えると……」


 そんなはずないのに、おかしいですよね、と涙を拭うリルを、ユウシアはゆっくりと抱き寄せる。


「もしそんなことになっても、俺は絶対にリルを迎えに行く。離ればなれになんてなってやるもんか」


 そう、どこか悪戯っぽく笑うユウシアに、リルもクスリと笑みを溢した。

 この頃雨続いてますからね。明日は晴れてくれるといいなという気持ちと、雨降ってリア充めざまぁみろとか言いたい気持ちとで揺れている。

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