どうしようも
わーいわーいテスト終わったー。久しぶりで自分がどんな風に書いてたか忘れてたー。変なとこあっても許してー。
あ、お砂糖注意報発令しとこ。
学園祭から、およそ一ヶ月が過ぎた。
「ユウシア!」
「分かってる!」
ゼルトの声に短く答え、ユウシアは走る。
ついに来週に迫った、修学旅行――という名の、地獄の合宿。平たく言うと、山籠り(らしい)。
体力やその他諸々はもちろん、サバイバル能力等も鍛えられる、修行としては持ってこいなイベントだ。……修学旅行に適しているかは別として。
そして、そんな色々と鍛えるためのイベントに向けて、ユウシア達は大絶賛特訓中だった。鍛えるために、鍛えているのだ。
というのも、修学旅行先である北の山脈、ただただ環境が過酷なのだ。標高が高いのもあるにはあるが、そもそも山脈のある一帯が、到底人は住むことが出来ないような環境なのである。吹雪いているのは当たり前で、十メートル先が見えないのもいつものこと。太陽なんかが顔を出した日には、すわ世界の終わりかと疑われる程である。魔の森にいるような強力な魔獣も、この場所には“いない”のではなく“いられない”。この場所に適応するための進化すらも諦めたかの如く、これまで魔獣は痕跡すら見つかったことがない。いや、魔獣に限らず、だが。
そのため、まずは少しでも生き残るために、日常では明らかに必要ない程の体力が必要なのである。
「そこッ!」
ユウシアは声を上げながら短剣を振るう。が、
「甘い!」
その相手はそれをあっさりと避けてしまう。
「なら……!」
ユウシアはナイフを数本取り出し投げつける。
「それがなんだと――っ!」
相変わらず余裕の、それはもうムカつく表情で回避しようとした相手――ヴェルムだったが、一瞬目を見開くと少し慌てたように飛び退る。
その直後、一瞬前まで彼がいた場所で起こる爆発。ヴェルムは若干顔を青くしながら口を開く。
「ちょっ……と待ってくださいユウシア君。いやね、ナイフの爆発はいい攻撃だったと思いますよ? 爆発の直前、ナイフの魔力の膨張が一瞬遅ければ食らっていました。でも――」
プルプル、と少し震えながら、爆発のあった地面を指差し。
「この威力はおかしいでしょう!? 地面軽く抉れてますよ!? 土とはいえ、ここかなり頑丈なところなのに! 絶対殺す気だった! ユウシア君もしこれで僕が死んでても笑って済ませそうだし!!」
「そんな、人を殺人鬼みたいに。いくら先生に心当たりがありまくりだからって」
「あっれぇ僕そんなこと言いましたっけぇ!? ない! 心当たり、ナイヨ!」
「……なんで片言なんですか……」
両腕を使ってバツマークを作りながら首を振るヴェルムに、ゼルトがため息混じりにツッコミを入れる。
修学旅行に向けた特訓、その内容は人によって違うのだが、ユウシアはおおよそ問題ないということで唯一効果のありそうなヴェルムとの模擬戦を行っていた。ゼルトは、自分もやってみたい、と志望してきた形である。彼も体力等は十分だということで、ユウシアとペアを組んで二対一の形でやることになったのだ。
「……そろそろ休憩にしましょうそうしましょう」
ゼルトの言葉に、ヴェルムは軽くそっぽを向きながら言う。誤魔化すにしても雑だな、とゼルトが思ったそのときには、ヴェルムは遥か遠くへ。
「……もうどうしようもないな」
「だなぁ」
ゼルトの呟きに、ユウシアが苦笑しながら頷く。
「お前も、あまり人のことは言えないけどな」
「え? ちょ、ゼルト、それどういう――行っちゃった」
自覚がないというのは恐ろしいもので。ユウシアは小さく首を傾げるも、まぁいいか、とその場を離れるのだった。少し前の自分の行いを振り返ることもしなかったらしい。
++++++++++
訓練の内容は人によって違うとは言ったが、あくまで何種類かのメニューの内から個人の身体能力に応じて選んでいるだけで、ユウシアやゼルトのように特別なことをやっている者はほぼいない。いるとしても自主的にやっている者だけだ。
そして、そんなメニューの内、最も人が多い持久力を鍛える訓練を行っている場所に、休憩中のユウシアの姿はあった。何故ここにいるか? 当然、リルがここにいるからだ。
と、こちらの訓練も休憩に入ったようで、途中でユウシアの姿に気がついていたリルが駆け寄ってくる。
「お疲れ、リル」
ユウシアはそう言って、用意していたタオルと水筒を渡す。
「ありがとうございます……ユウシア様、何故ここに?」
「いや、先生が休憩って言ってどっか行っちゃって。多分あの人のことだし戻ってこないんだろうなぁ、と」
肩を竦めるユウシアに、リルは小さく笑う。彼の言うことは容易に想像出来た。
そんな彼女を見てこちらも微笑んでいたユウシアが、何かに気付いたように口を開く。
「……座らないの?」
ユウシアは現在、設置されていたベンチに腰かけている。当然その隣は空いているのだが、リルは何故かそこに座ろうとしないのだ。
問いかけられたリルは、顔を少し赤くしながら答える。
「……その、汗をかいておりますから……」
「それが?」
「へっ? あ、あの、臭いが……」
「全く気にならないけど?」
「い、いえ、それは距離があるからで――」
「鼻はいい方なんだけど」
「で、でしたら余計に――」
「だから平気だって。ほら」
「ひゃんっ!?」
ユウシアは立ち上がると、そのままリルを抱き寄せる。
「……こんな近くても、いい匂いしかしないよ?」
と、リルの髪に顔を埋めながら囁くように言うユウシア。リルは顔を真っ赤にしながら、しかし離れることも出来ずになんとか声を絞り出す。
「は、恥ずかしいですわ、ユウシア様……」
「……正直ずっとこうしてたいくらいだけど、そういうことなら」
ユウシアはゆっくりと、名残惜しそうに離れると、そのまま再び椅子に座る。そして、ジッ、とリルを見る。「座れ」という無言の圧力。
「……し、失礼致します……」
それに負け、おずおずとベンチに座るリル。しかしまだ若干距離が。
「リル、タオル貸して」
「へ? あ、はい」
ユウシアはリルからタオルを受けとると――すぐ隣まで距離を詰め、優しく汗を拭い始める。
「あ、あの、ユウシア様?」
「痛かったりしたら言って」
「は、はい……」
これはもう、何を言ってもダメなやつだ、と察したリル。ユウシアの身を任せ、このまま拭いてもらうことに。
もちろん、しっかり【偽装】はしてある。だがこのとき、周りで思い思いに休憩を取っていた生徒達は、皆一様に何故か飲み物が甘いと首を傾げていた。
……え? ユウシアの発言が変態じみてる? バッカ美少女の汗は臭くなんかないんだよ! 多分!