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“あの”

 意外といつも通りの長さに。

 なんとか興奮を抑え、促されるがまま壇上へと向かうユウシア。既にそこにいたリルと小さくハイタッチを交わす。


「少し早めの新婚旅行、ですわね」


 すれ違いざまのリルの言葉に、ユウシアは思わず吹き出しそうになるのを堪える。


「……いや、流石に早すぎるでしょ。それに、そんなこと行ってたら、毎年新婚旅行に行くことになるよ?」

「あら。ユウシア様、来年も優勝するつもりなのですか?」

「リルと一緒に、ね。あと……新婚旅行なら、ちゃんと結婚してから、ちゃんと連れてくよ」

「まぁ……それは、楽しみにしていなければ」

「うん、楽しみにしてて。必ず、最高の旅行にするから」

「そんな……ユウシア様が一緒というだけで、最高になるのは確定ですわ」

「リル……」

「ユウシア様……」


 ちゃっかり発動した【偽装】の中で見つめ合う二人。何もおかしいことはないはずなのに急に会場が甘い空気に包まれ、観客達が目を白黒させている。ユウシアとリルの関係を知っている者は、何が起きているのかを察して苦笑いだが。


『……えーっと? なんか急に口の中が甘ったるいんですけど、私だけでしょうか? え? 皆? うーん、何が起きているというのか……ま、いいか』


 よく分からないことを気にしていても仕方ないと、エルナは考えることをやめた。


『ささ、それでは、お二人の旅行先を発表しましょう! なんと――』


 溜めるエルナ。ユウシアはゴクリと喉を鳴らし、気付いた。


(多分言われても分からないな)


 一応ラウラに地理も教えてもらったけど、ざっくりだし。


『あの! アトルル共和国は、遊都カルテリアです!』

「あのカルテリアですかっ!?」


 思わず、といった様子で声を上げてしまったリル。すぐに顔を真っ赤にして謝りながら用意されていた席につく。

 そんな彼女に、ユウシアは小声で問いかける。


「リル、カルテリアって?」

「遊都――その名の通り、遊ぶためだけに作られた街ですわ。完全予約制、同時来客一組限定。たとえ他国の王族だろうと割り込みは許されず、その予約はもう五十年近く先まで埋まっているという噂もあります。まさか、そんな場所に行くことが出来るだなんて……」

「……行きたかった?」

「はい! 初めて話を聞いたときからずっと!」

「そっか。よかったな、行けることになって」

「はい……ユウシア様のおかげですわ」

「……俺の?」


 カルテリアを予約したのは学校側だ。心当たりがないユウシアは首を傾げる。


「だって……ユウシア様と旅行が出来ると聞かなければ、こんなコンテストには出なかったでしょうから」

「いや、それだけで俺のおかげっていうのも……まぁ、いいか」


 大袈裟な気もしたが、ユウシアはそう思いたいのならそれでいい、と笑う。


『実は、学園長が大分昔に予約していたらしいんですけどね。最近の態度は目に余るとのことで、副長先生がその予約景品にしちゃっていいよと。なので、しちゃいました。てへっ』

「『てへっ』じゃないですよぉぉおおおお!? いつの間に予約してたんだろうと思ってたら、私のですか!? どれだけ楽しみにしてたと――あ、コラ、逃げるな!」

「……忙しいなぁ」


 副学校長であるクレアを追い始めるヴェルムを見て、思わず呟くユウシアであった。


++++++++++


「いやー、ダメだったねぇ!」


 それから、地味に長かった閉会式を終え、ユウシアの部屋に集まった一同(ユウシア、リル、フィル、アヤ、リリアナ)。入るや否や、アヤがそう言いながらベッドにダイブする。

 ダメだった、とは、あの後行われた、クラスの出し物の結果発表。投票の結果こそ一位だったものの、肝心の売り上げで、ユウシア達の喫茶店「シュガー」は、惜しくも二位だったのだ。


「これで地獄のサバイバル旅行決定かぁ……はぁっ」


 ため息を吐くアヤを、リリアナが慰める。


「仕方ないわよ。二日目なんか、ほとんど主力がいなくなっちゃってたんだから」


 そう、彼女が“主力”と呼んだメンバーのほとんどは、ミスコンとミスターコンに駆り出されてしまっていたのだ。対して、見事一位を勝ち取ったレストラン「ピニシス」はフルメンバー。万全の状態で二日目に挑んでいた。負けてしまうのも仕方のないことだろう。


「いいよね、ユウ君とリルは。修学旅行が大変でも、その後には楽しい楽しい旅行デートが待ってるんだから」

「だったらアヤもミスコンで優勝すればよかっただろう。今更何を言ったってどうにもならない」


 口を尖らせるアヤにフィルが正論を叩きつける。


「うー……フィルのバカ、もうちょっと優しくしてくれたっていいのに……」

「え? あ、いや、別にそんなつもりじゃ……」

「……えへへ、分かってるよー」


 狼狽えるフィルに、アヤが笑顔を向ける。


「……アヤ、最近よくフィル様のことからかうわよね」

「そうかな?」


 そういえば、と思うユウシア。確かに言われてみればそんな気もする。基本的に真面目なフィルだから、よく正論をビシッと言ったりするのだが、悪気は全くないので、相手に嫌そうな反応をされるとつい動揺してしまうのだ。最近たまに、アヤがそれで遊んでいる気がしないでもない。


「……まぁ、それはさておき……」


 と言って、皆を見るアヤ。全員それに頷くと。アヤもまたうなずきを返す。


「打ち上げじゃーい!!」

「「「「おーっ!!」」」」


 この日ユウシアの部屋は、夜遅くまでとても騒がしかったとかなんとか。そこから聞こえてくる声が八割方女の子の声なもんだから、同じ寮に住む生徒達も文句を言うに言えなかった。どころか、「可愛い声を聞けて幸せ」なんて考えている人までいる始末なのだから、なんというかもう。どうしようもないのかもしれない。

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