ファン
生きてます。
読みづらいとの意見がありまして。地の文と台詞の間を一行空けるようにしました。これまでに投稿してきた分も順次対応予定です。暇なときに……。あ、でも、もうすぐテストだから暇な時間とかあっちゃいけないような……えっと、来月以降で……。
ミスターコンテストを終え、しばらく。閉会式を行う前に、ミスコン、ミスターコン、そして各クラスの出し物の投票が行われていた。教員に生徒、来場客全員参加だ。
『はーい、押さないで、順番に投票をお願いしまーす! ……なんで私が』
実況をやっていた流れで、列の整理を任されたエルナが声をかける。……愚痴、マイクに拾われてますよ。
投票会場は複数に分けられていて、ここ、いつもの第一闘技場はその中でも最も大きな会場だ。当然投票に集まった人数も多く、数百人に上るだろう。皆は並んでいるつもりでも、どうしてもごちゃごちゃになってしまうし、列も乱れに乱れている。
そんな人々を、エルナのように口頭だけではなく直接誘導するため、何故か駆り出されたユウシア達フェルトリバークラス。
「いや、なんで俺達……あ、こっちに並んでくださーい」
ボヤきつつもしっかり仕事はするユウシア。そんな彼に近くにいたフィルが苦笑する。
「仕方ないだろう。毎年、一年Sクラスの仕事だというのだから」
「……まぁ、あの先生を見てるとそれだけじゃないようにも思えるけど……」
リリアナの言葉をどこか否定しきれず、フィルはもう一度苦笑する。
「……ある意味、日頃の行いかなぁ」
呟くユウシア。ヴェルムとある程度親しい彼らには、「残念先生」のイメージがすっかり定着してしまっている。……日頃の行いである。
と、そこへ、
「ユウシア、ちょっといいか」
別のところを担当していたはずのゼルトが声をかけてくる。それも、小さな女の子を連れて。
「ん、何? ……その子は? 迷子?」
迷子になった女の子の保護者を探すべく声をかけてきたのかと思いそう聞くユウシアだが、ゼルトは首を横に振る。
「いや……実は、この子がお前のファンらしくてな。どうしても会いたいと駄々をこねて、列が動かなくなってしまったから連れてきた。母親には了承を取ってある」
「ファン……? 俺の?」
「あぁ」
ファン、という言葉にイマイチピンと来ないユウシアだが、ゼルトはしっかりと頷く。
ファン……ファン……? と、心の中で繰り返すユウシア。小さく首を傾げつつ顔を上げて、気付く。
ジーッ……。
めっちゃ見てる。
「……えーっと、どうかした……?」
問いかけるユウシア。女の子は彼に両手を突き出し、
「ん」
「……ん?」
「んっ!」
「…………あぁ!」
両手を広げて何かを要求する女の子。ユウシアは閃いた。
(抱っこしろと、そういうことですね)
そういうことらしい。ユウシアが抱き上げると、女の子は満足げに微笑む。そして。
「……すぅ……すぅ……」
耳元から聞こえる、規則正しい呼吸。
「あれ……寝てる?」
「……らしいな。一瞬だったぞ」
「んー……起こしちゃうのもあれだし、送ってくるかな。ゼルト、交代で」
「分かった。母親は……その子によく似てる。すぐに分かると思うぞ」
「了解。じゃ」
「あぁ」
……この後、女の子はしっかり送り届けたユウシアだったが、どうやら母親の方もファンだったらしく、握手とサインを求められたとかなんとか……。ユウシアは、どこか引き攣った笑みを浮かべながら、現実逃避気味に「ラインハルトはこんなの日常茶飯事なんだろうな、大変だな」と考えていた。
++++++++++
『さぁさぁ皆さんお待ちかね! 結果発表のお時間です!』
それから、大した問題もなく投票を終え。
各会場の集計結果が出揃い、ついに発表に移ろうとしていた。
鳴り響いた歓声が止むのを待ち、エルナが再び口を開く。
『では、まず最初に――ミス&ミスターコンテストの結果発表から行います! さぁ、優勝の栄冠、そしてペア旅行の権利を手にするのは一体誰なのか! ――では発表します! まず、第、三位はっ!!』
ゴクリ、と、誰かが唾を飲み込む音が聞こえる。
スゥ、と、エルナは行きを吸い込み――
『ミスコンテスト、シオン・アサギリ! そして、ミスターコンテスト! ラインハルト・グランシス!!』
ウオォォォォオオオオ、キャァァァァアアアア、と、男女それぞれの歓声――もしかしたら、悲鳴、かもしれない――が巻き起こる。
いつも通りクールな様子のシオンと、どこか不満げに肩を竦めるラインハルトが、指示に従い壇上へと上がる。
『正直言うと、どちらもかなりの接戦だったようです! 特にシオンさんと第四位の差はほんの数十票だったとか! かつてない程ハイレベルな戦いとなっています! ――では続きまして、第二位!』
第三位で名前を呼ばれなかったことにホッとしていたのも束の間、第二位の発表だ。優勝しか狙っていないユウシアは再び気を引きしめる。今更何をしたところで結果が変わるはずもないのだが、どうしても緊張はしてしまうというものだ。
『ミスコンテスト、準優勝――リリアナ・マクロード! そして! ミスターコンテスト準優勝、アラン・レイノルズ!!』
ユウシアはガッツポーズをしそうになるのを堪える。ラインハルト、アラン――優勝候補二人が消えた。もちろん、優勝候補として名前が上がっていない誰かが優勝する可能性もない訳ではないのだが、とりあえず後は、ゼルトを抜くのみ。
第三位の二人と同様、リリアナとアランが壇上へと向かう。アランは小さく微笑んだまま、リリアナは、何が起こったのか分からない、というようにキョトンとしたまま。
『ミスターコンでは、昨年の優勝者であるアラン君が惜しくも準優勝という結果に! そしてなんと、ミスコンでは一年生がここで食い込んできました! ミスターコンの三位も一年生だし、やっぱり今年の一年生はレベルが高い! ――さて、それはさておき、ついにお待ちかねの優勝者の発表です! まず、ミスコンテスト優勝は――』
ドゥルルルル、と、どこからかドラムロールの音が聞こえる。先程まではなかったのだが……。
(リル以外あり得ないし)
ここで、恋人の優勝を全く疑わないユウシアである。特に興味も示さず、欠伸などしてしまっている。というか、もし優勝がリルじゃなかったら、彼が優勝する意味がなくなる。
そして、溜めに溜めたエルナが、ついに口を開き――
『リル・ヴィレント・ジルタ!!』
「っしゃオラァァアアアッ!!」
ユウシアが叫ぶ。ちゃっかり【隠密】を発動させて。興味がないとはなんだったのか、誰よりもリルの優勝を喜んで――
「流石! 流石私のリルだ!!」
――他にも、いた。同じくらいリルの優勝を喜んでいる親バカだ。周りの目も何も気にせず叫んでいる。普段ならそんな彼を止めるのであろうラムルはというと、何故か踊り始めるガイルの隣で失神していた。
(……そういえば、ラムルさんも中々に親バカだったな……)
ガイル達を見て幾分か冷静になったユウシアが考える。リリアナが準優勝したのを見て、ラムルは何も言わず気を失ったのだろう。ガイルとは真逆である。
ユウシアはふと、ガイルのもう片方の隣に座るハイドに目を向ける。
「ふっ、当然だな」
何か言ってる。彼と親しい者にしか分からない程度ではあるが、頬を緩めて。
(ハイド義兄さん……やっぱりシスコごめんなさい)
何かを察知したのか、ハイドが睨み付けてくる。顔を背けるユウシア。
『さぁ、それでは、ミスターコンテスト優勝者の発表に移りましょう! 第一王女との旅行という夢のような時間を手にしたのは――』
ユウシアは、胸に手を当て、一つ深呼吸する。
大丈夫、やれることはやった。いつもなら絶対やらないくらいにはカッコつけた、と、自分に言い聞かせる。全ては恋人との至福の一時のためである。
そして。
『――ユウシア! おめでとうございます!!』
「――っしゃぁぁああああああっっ!!」
ユウシアの咆哮が、ギリギリ発動した【隠密】の中で強く響いた。
珍しく叫ぶユウシア君でした。ただし目立たないようにすることは忘れない。
次回でこの章は最後になる予定です。本当は次回分も今回書く予定だったんですけど、思ったより長くなっちゃって……。もしかしたら次回は短くなるかもしれません。……下手したら、大分。頑張ります。