入街検査
やっべ投稿超ギリギリ(現在8/2 11:48)。
「とうっ――ちゃーく!!」
「ちょっ、うるさいって!」
翌日の正午頃、ようやくセリドの街に着いたユウシア一行。
テンションが上がったようでいきなり叫び出したアヤをユウシアが窘める。
「ほら、変な目で見られてる!」
周囲の視線に気づいたユウシアがアヤに囁きかけると、アヤは恥ずかしそうに目を伏せる。
ユウシアはそんなアヤの手を引っ張り、入街検査の待機列へと並ぶ。
「……なんか、やけに人が多いな……それに、結構細かく検査してるみたいだし……」
ユウシアが呟いたように、ジルタ王国の南端、辺境と言っても過言ではないような所に位置するこの街にしては、少し異常な程人が多い。それに、一人一人に時間をかけて検査しているようだ。ユウシア達の番が来るまで、二、三時間は確実に待つことになるだろう。
列もほとんど動かないので軽く休もうかと座ろうとしたところで、前に並んでいる男に声をかけられる。
「何だ、坊主も王女殿下目当てか?」
「……王女殿下?」
いかにも近くの村から来ました、といった風貌の男だ。
その男が放った言葉に、思わず聞き返してしまうユウシア。
「おうよ。演説をするだか何だかで、この国の第一王女、リル様がいらっしゃってるんだとよ。噂によれば、相当な美人らしいからな。何を隠そう、俺も一目見ようとここまで来たクチだ」
ジルタ王国第一王女、リル・ヴィレント・ジルタ。ユウシアは彼女については一般常識程度のことしか知らないが、見目麗しく、民衆思いな、とても心優しい人だと聞いている。
「へぇ、そうだったんですか。それは……中々お会い出来ない方にお目にかかれることを喜ぶべきなのか、そのせいで街に入るのに無駄に時間がかかってしまうと考えるべきなのか、悩むところですね……」
ユウシアが真面目にそう答えると、目の前の男は、おかしそうに笑い始める。
「ハハハッ! 村じゃあ仕事から手が離せねぇ奴らから散々羨ましがられたってのに、無駄に時間がかかるってか! 面白ぇ考え方すんな――いや」
笑いながら話していた男だが、途中でアヤの方を見ると、笑い方をニヤニヤとしたものに変える。
そしてそのまま、ユウシアの肩をバシバシと叩いてくる男。ユウシアは嫌な予感がして顔を顰める。
「そうかそうか、こんな可愛い彼女がいたんじゃ王女殿下といえど目に入んねぇな! ったく、坊主も隅に置けねぇなぁおい!」
(これアレだよ、しつこいやつだよ!)
予感が的中したようでより嫌そうな顔をするユウシアだが、男はそれに気づかず――顔を赤くするアヤに気づいた。
「ちっ、違いますよ! 私とユウ君は、別にそんな関係じゃ……!」
狼狽えながら否定するアヤだが、こういう行動は逆に疑われるというのを理解していないようだ。
思わずため息を吐くユウシア。
男は更にニヤニヤと笑っている。
「……言っておきますけど、本当に違いますからね。そもそも、俺と彼女は昨日会ったばかりですから」
そう冷静に言い放つユウシアに驚いたような目を向ける男。しかし、再びニヤニヤと笑い始める。
「つまり坊主は、昨日会ったばかりの女の子をここまで籠絡した訳だ。やっぱ隅に置けねぇなぁ!」
どうやらこの男は、ニヤける以外の表情を知らないらしい。
もう一度ユウシアは面倒そうにため息を吐くと、男を軽く睨みつける。「しつけーぞこんにゃろー」(意訳)という思いを込めて。
男はうっ、と怯んだように呻くと、何事もなかったかのように振り向き、列に並びなおす。下手な口笛付きで。
「……で、アヤは何でそんな顔真っ赤にしてたのさ」
今度はアヤに呆れたようにしながら問いかける。
すると、アヤは未だにオロオロとしながら、
「えっ? い、いや、別に、キッ、キスしちゃったから意識してるとかそういう訳じゃなもがっ!」
「わーっ! わーっ!」
アヤの言葉を遮って口を塞ぎ、叫び始めるユウシア。
「おう? どうした坊主、頭おかしくなったか?」
男が不思議そうに振り向いてくるが、
「大丈夫です! 何でもないんで、あっち向いてて下さいっ!」
「うおっ!?」
無理やり前を向かせる。半回転ではなく一回転半していたのは、恐らく気のせいなのだろう。
ユウシアは何事もなかったかのように再びアヤを見る。
「ゆううんあなしてよぉ」
「あ、ごめん」
「ぷはっ! ……もう、いきなり口塞ぐなんて……」
「アヤがいきなり変なこと言い出すからじゃないか。……キスがどうのとか、あの人が聞いたら絶対嬉々としてイジり始めるから……」
「……確かに……ごめん……」
しっかりと人となりを理解されている村男であった。
++++++++++
それからしばらく。
やっとユウシア達の番が回ってきた。三時間程待っただろうか。
検査の内容は、持ち物はもちろんのこと、この街に来た目的と、覗き玉を使用による個人情報の確認。スキルは隠しても構わないが、名前、年齢、職業は明示する必要がある。
ちなみに、前にいた男の職業は医者だった。そんな性格で医者なのかとか、医者が村を離れてもいいのかとか思ったユウシア達に罪はない。
さて、ここで問題が一つ。
ユウシアにしろアヤにしろ、人目につくのが憚られる職業なのだ。アヤの「魔導を極めし者の卵」なんて明らかに珍しいどころじゃない職業だし、ユウシアの「暗殺者」に至っては王女が来ているというこの時期も相まって、知られた瞬間に捕縛されてもおかしくない……というか、それが自然である。
しかし、これに関してはもうどうしようもないので、ユウシアは諦めることにした。最悪、ラウラに言われた「魔獣専門の暗殺者」ということでゴリ押ししてやろう、と考えて。
そして、その結果は。
「暗殺者だ! 捕まえろーっ!!」
ガチャッ。
「ですよねー」
はい、ユウシア君たいほー。