気持ち悪い
私に休みをください。あいうぉんとほりでぇ。
「――ユウシア、そろそろではないか?」
ミスコンの出場を辞退し、店で仕事をしていたフィルが、クラスメイトでありこの後に行われるミスターコンに出場予定の少年に声をかける。
「あら、そうですね」
それに答える、少……年?
「……ユウシア、何故そんな女みたいな喋り方を……」
「え? あっ! い、いや、ず、ずっと女性客の相手してたから移っちゃったのかもな! あはは……」
「……? まぁいいか。とにかく、そろそろ行った方がいいと思うぞ。ゼルトとラインハルトはもう上がっているからな。私も後で休憩を貰ったら見に行く」
「そ、そうか。じゃあわた――俺はこれで」
あはは、と、引き攣った笑みを浮かべながら、ユウシア――に、変装しているラウラは、スタッフルームとなっている部屋へ向かうのだった。
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「誰もいない、かな……?」
ユウシア(本物)が、ラウラと合流するためスタッフルームに入る。
扉を開ける前に軽く確認した通り、室内には誰もいないようだ。
「……ラウラ、ボロ出したりしてないかな……あれで意外とテンパりやすいからなぁ……」
多分ギリギリ。
「まぁ、そこは信じるしかないか……」
と、椅子に座って寛ぎながら呟くユウシア。
と、そこへ。
「ん、誰か来た……この気配は……」
ガチャ。
扉を開けて入ってきたのは、執事服を着た、水色の髪の少年。その容姿はユウシアと瓜二つ、というか全く同じ。つまり、
「……お疲れ、ラウラ」
「へ? あっ、ユウさん!」
パアッ、と花が咲くような笑顔を浮かべ、駆け寄ってくる――自分。
ユウシアは普通に避けた。
「へぶっ」
勢い余って壁に激突するラウラ。
「ちょっ、なんで避けるんですか!」
「自分の外見を思い出してから言ってほしい」
そんなユウシアの言葉に、首を傾げながら鏡を見て――
「あ」
気づいた。
「そりゃあさ、自分があんな風に笑ってハグを求めてきたら避けるよ」
「……なら、見た目を私に戻してください。やり直しましょう」
「この空気の中やりたい?」
「…………」
ジト目を送るユウシア。ラウラはそっと目を逸らした。
「……まぁいいや。店の方は平気だった? ……ボロ出したりとか、してない?」
その問いに、ラウラは胸を張り――
「だいじょ――うぶだと、思います!」
「うわぁ心配」
説得力皆無である。
「にゃにおう! 私はこれでも女神ですよ!?」
「ごめんちょっと待って気持ち悪い。えっと……【偽装】」
自分の顔、自分の声で、頬を膨らませてあんな口調で……普通に吐きそうだったので、【偽装】を使っていつものラウラの見た目に戻す。声は――諦めるしかない。
と思っていたのだが、そこはラウラの方で直したらしい。よく聞きなれた声で、彼女は話す。
「……分かります。そうでしょう、それは、自分にあんなこと言われたら気持ち悪いに決まってますし、忘れていた私も悪いと思いますよ。……でも、ユウさん! ちょっとは考えてくださいよ! いきなり『気持ち悪い』とか言われた私の気持ちぃ!」
「あ、うん、それはごめん。でも、ちょっと堪えられなかった」
「うぅ……今日のユウさん冷たくないですか……?」
そう言われて、はたと気づく。
「……あぁ、ごめん。多分、ミスターコンのことで――」
と、そこで一度言葉を切るユウシア。ラウラは、緊張してるんでしょうか、可愛いところもありますね、なんて考えていたが――
「今更ながら、上手いこと口車に乗せられたことを考えると軽めに殺意が……」
「全然可愛くなかった!?」
小さく震える手は、衝動を抑えてのことだったらしい。矛先? ヴェルム一択です。
「おーい、ユウシア、いつまで準備してるんだー。いい加減遅れてしまうぞー」
と、部屋の外からかかるのはフィルの声。ユウシアが遅いので、様子を見に来たのだろう。
「今行くー」
それにユウシアは短く返し、立ち上がる。
「それじゃあラウラ、また。お礼は必ずするから何か考えておいて」
「はい。無理難題押し付けてやりますから、期待しててください」
「……今朝も言った気がするけど、ホント、お手柔らかにお願いします……」
ニッコリと笑うラウラに、ユウシアは頬を引き攣らせた。
ミスターコンは多分一話で終わります。この格差。
関係ないけど、ユウシア達はいつ卒業するんでしょうね。この作品学園モノじゃないんですが。卒業後のネタの方が浮かぶんですが。ざっくりだけど。