ヤケクソ
(実はもうほとんど書き終わってたからちょっと頑張れば昨日の内に更新出来たかもしれない)ボソッ
「「〔エアロ・ウォール〕!」」
アヤとリリアナが阿吽の呼吸で発動した魔法が、相手の鋭いスパイクをネット上でブロックし、ボールを相手のコートに落とす。
「ふぅ」
「いぇいっ!」
「い……いぇい」
小さく息を吐くリリアナに、アヤが元気にハイタッチを求める。リリアナはそれに、少し照れたようにしつつも応じた。
『おおお! 素晴らしい、圧倒的な強さ! 一つの失点も許さずぬまま、マッチポイントです! やっぱりチーム分けおかしいでしょこれ!』
観客達はブンブンと強く頷いた。ユウシアも頷いた。だっておかしいもん。
「――ふっ!」
小さな声と共に、イザベラがジャンプサーブ! 実はイザベラさん割とゴリゴリの武闘派です!
とてつもない勢いのそれを、相手はなんとかレシーブする――が、受け止めたジェシカ(二年、Bクラス)は勢いに堪えきれず尻餅を着いてしまう。これでも、一ゲーム目ではボールを当てることすら出来なかったので、大分よくなっているのだ。ちなみに、二ゲーム先取で勝利。
「やぁあっ!」
相手が、掛け声と共に全力でボールを叩き込んでくる。が、
「はいっ」
いつの間にかボールの行き先にいたニーナが、どうやってか衝撃を全て殺してレシーブ。
「シオンさん!」
それをシェリアがトスし、
「お任せをっ!」
シオンが強烈なアタック!
ズッバァァアアアンッ!!
とてつもない音と共に、ボールが相手コートにめり込む。
(……え? めり込……え……?)
確かに今いるのは、ステージから場所を移し、地面が土になっている闘技場だが……それでも、普段から魔法だなんだと大騒ぎしているような場所だ。ただの土ではないし、頑丈さは折り紙つき……の、はずなのだが。なんというかもう、綺麗に埋まっている。
『……ええと、はい! Bチームの勝利です! うぇーい!』
実況、ヤケクソである。無理矢理な盛り上げ、それに乗る観客。現実逃避したいのはこちらも同じだったらしい。
『次! Cチーム対Dチーム! 多分もう少し常識的な戦いです!』
++++++++++
『……はい、決勝戦ですねー。B対Cでーす。……またBチームか……』
見るからに面倒そうなエルナ。……実況が取っていい態度ではないと思うのだが……今更か。
『えーと、なになに? 決勝では、ニーナさんが抜けてリル様が出る? ――王女キタァァアアア!!』
「!?」
エルナの変貌に、思わず身を震わせるユウシア。そりゃあ、いきなり大声を出されたら驚きもする。
『ちょ、待って、皆引かないで! だってほら、王女様ですよ? しかも、フィル様とは違って落ち着いたリル様ですよ?』
(フィルがここにいなくてよかったね)
つい思ったユウシアである。そんな過激な性格をしている訳ではないが、彼女だってなんの謂れもなく落ち着きのない子扱いされれば怒りもするだろう。……ただまぁ、実はこの会場、お忍びでその父親が(まだ)いるのだが……エルナは気づいていないらしい。本人は彼女の発言に苦笑しているので何かしら心当たりはあるのかもしれないが。……というか、公務はいいのだろうか。本人は平然としているが、隣のラムルが凄くソワソワしている。リリアナの出番を心待ちにしている、とかなら可愛げもあるが、これが溜まった仕事のことを考えているのだとしたら……ユウシアは考えるのをやめた。関係ないし。自業自得だし。
閑話休題。
『さて、私もちょっとモチベーション上がってきました! では、両チーム入場してください――』
++++++++++
……何がとは、言わない。
言わないが、素晴らしい。
ユウシアは、ぼんやりとした頭でそう考える。
何故ぼんやりしているかって?
考えてもみてほしい。このまだ暑さ残る中、汗だくになりながら水着姿で動き回り跳び回る美少女――それも恋人。これが見惚れなくてどうする(あくまでユウシアの持論)。
「リル!」
アヤのトス。それは丁度跳んだリルの方へ――
「やぁっ!」
普段の静かな彼女からは想像もつかない、芯の入った声。放たれたスパイクは、常識的な範囲で、しかし強い勢いで飛び――
ドスッ!
相手コートに突き刺さる。比喩ではなく、言葉通り。
「なんで!?」
思わず声を上げてしまうユウシア。見れば、Cチームのメンバーも目を真ん丸くしている。……どころか、リル本人まで。
「ふふふ……あたしとリリアナで、リルが打つ瞬間に魔法でアシストしたんだよ! 大成功!」
「このくらい楽勝よ」
Vサインを作るアヤ、胸を張るリリアナ。リルはそれに、小さく微笑んで答える。
「さて……それではこのまま、私達で勝利を頂くとしましょうか」
シオンの言葉に、Bチームのメンバーはそれぞれに気合いを入れ直した。
++++++++++
『はーい、皆さんの予想通り優勝はBチームでーす』
――決勝戦が終わり。
エルナが、「はいはい分かってたよ」とでも言いたげな、やる気のない様子で結果を告げる。……普通に考えれば、相手チームが気を悪くするところなのだろうが……相手も全員、「仕方ない仕方ない」みたいな、そんな感じ。それでも、彼女達はなんと一ゲームをあの仕組まれたかのような面子から奪い取ったのだ。
(もう優勝あっちでいいんじゃないかな)
Bチームにはリルがいることを考え、贔屓込みでも、勝ちを譲ってしまってもいいんじゃないか、と思うユウシア。相当である。
だがまぁ、もちろんそういう訳にはいかないのだが。
『えっと、これで全審査が終了した訳ですが……投票は、この後に行われるミスターコンが終わってからとなります。その結果に、今回のバレーボールの順位に応じたボーナスを加算する感じですね。それでミスターコンですが、三十分の休憩後に開始となりますので、それまでどうぞごゆっくり――まぁ、多分今いるお客さんはほとんどいなくなるんでしょうけどね』
言わずもがなではあろうが、今いる観客は八~九割方男である。そりゃ大体いなくなりもする。
案の定、次はどこに行こうか、なんてガイドブックを見ながらここを離れていく観客達(多分投票まで戻ってこない)。ユウシアはそれに紛れ、ラウラにミスコンが終わったことを伝えようと店へ向かうのだった。