変顔、ダンス
――シェリアが、オリガを伴ったままステージ裏へと戻り。
それに代わるようにして出てきたのは、ハクと並んでフェルトリバークラスの二大マスコットと称されるニーナ・フェンデル。
「よ、よろしくお願いしますっ!」
『可愛い』
エルナが何やら呟いた。
「「「可愛い」」」
ユウシアの隣の三人組も呟いた。
「ぴっ!」
ユウシアの頭上にいたハクが「当然」とでも言いたげに胸を張った――
(いつの間に!?)
連れてきていないはずなのに。なんかいる。
「……あの、ハクさん、せめて隠れてくれません……?」
ハクにとても小さな声でそう話しかけるユウシア。彼自身は姿を【偽装】しているからいいものの、ハクはそのままなのだ。ハクがユウシアのペット(?)であることは知れ渡っているし、彼であることがバレてしまう可能性も、まぁ、知り合いが相手なら十分にある。
そんな考えを読み取った訳でもなかろうが、ハクは「ぴ」と小さく鳴くと、ユウシアの胸元に潜り込む。少し苦しいが、定位置であるフードもこの服には付いていない。仕方ないだろう。
と、そんなことを考えている間に、ステージ上ではニーナがペコリと頭を下げる。
「え、えっと、へ、変顔、しますっ!」
そう言うと、ほっぺたを摘まみ、みょーんと伸ばすニーナ。
(可愛っ)
ユウシアもついそう思ってしまう――と、何やら悪寒が。
ステージの端を見てみると、何故かリルがこちらをジーッと見つめている……。
(……やっぱりバレてる気しかしない……)
ニーナに対して思った「可愛い」はアレだから、ペットとか子供に対して考えるようなやつだから、と、心の中で誰にするでもなく言い訳を。
閑話休題。
そんなニーナの変顔(?)を見た皆の反応はというと。
『「「「――――」」」』
「失神してる!?」
つい叫んでしまうユウシア。大丈夫、一応声も【偽装】してるから。
何故か気を失っているらしい皆を見て、ニーナはオロオロとし始める。
「えっ!? えぇっ!? ご、ごめんなさいっ! わ、わたしの変顔、そんなに気持ち悪かったですか!?」
『「「「ちょっと可愛すぎて」」」』
「かっ、かわっ!? ふぇええ」
ニーナさん、真っ赤になった顔を手で隠してテレテレモジモジ。
『「「「もはや尊さすら感じる」」」』
……この会場には、馬鹿しかいないのかもしれない。
「だ、大丈夫なんですか……? よかったぁ……あ、それじゃあ次の変顔しますね?」
『あ! もう十分です! これ以上可愛い顔されたら私達死んじゃう!』
「え? えっ?」
何が何やらよく分かっていない様子のニーナだったが、このままだとニーナの出番が終わらなさそうなので――皆ずっと見ていたくなってしまう――エルナに強制的に戻されていった。
『いやぁ、あのままだと優勝決まっちゃいそうでしたしね、仕方ない! うん! という訳で、こんな雰囲気の中ですがリリアナ・マクロードさんどーぞ!!』
「……何よその前置き……あぁもう、嫌ぁ……!」
なんて愚痴りながら出てくるリリアナ。それはまぁ、「こんな雰囲気の中ですが」とか言われたら誰だって嫌にもなる。
『まぁまぁ、しゃーなしですよ。ほらほら、で? あれでしょ? 特技ダンスなんでしょ?』
「なんですかそのいきなりフレンドリーな感じ……」
『いいじゃんほら! とっととやっちゃえYO!』
「…………」
リリアナの目がジトッとし始めた。
「はぁ……まぁ、いいですけど。『繋ぐは雷、雷の精霊。汝、我が身を覆いて、我が身に宿れ』〔サンダー・クロス〕」
リリアナは、得意とする雷属性、アヤと戦ったときにも使った魔法で雷のドレスを身に纏う。そのときも美しかったそれは、この場に合わせてか少し造形を変え、より美しく、そして、彼女がこれから踊るからなのだろう、体の動きを妨げない――そもそも魔法のドレスで動きが制限されるのかは不明だが――スマートなものになっている。
『おぉ、それが衣装という訳ですね! では早速見せてもらいましょう――ミュージックぅ、スタートぉ!』
その言葉に合わせ、流れ始める音楽。それは――
(……なんか激しくない?)
「貴族の娘だからっておしとやかなダンスしか踊れないと思ったら大間違いなんだから!」
リリアナは、ビシィッ! と指を突きつけながら言うと、激しい音楽に合わせて、キレッキレのダンスを踊り始める。
「えー……」
つい少し呆れ気味の声を漏らしてしまうユウシア――だが。
『……なんか、凄いですね。え? 何これどう踊ってんの? うわ、これあれですか、ヘッドスピンとかいう。ほえーっ』
実況――と言っていいのかは分からないが、少なくとも武闘大会のときよりは実況だろう。
だが実際に、リリアナのダンスは素晴らしかった。なんというかもう、普段のイメージがまるっと変わる感じだ。
いや、別に普段も大人しいイメージなど微塵もないのだが、彼女はもっと冷静な(ツッコミ時除き)タイプなのだ。それから考えてみれば、今のリリアナは普段とは全く違うと言えるだろう。
そんなことを考えている間にダンスは終わり、リリアナが決めポーズを取る。
瞬間沸き起こる、今まででも一番大きな拍手。
全力を出しきったのだろう、汗だくのリリアナは、満面の笑顔を浮かべ、深く一礼した。
今回雑な気がするのは気のせいだろうか。