手の平クルックル
『エントリーナンバー一番! 顔、頭、強さ! 全てが揃ったハイスペック! ユウシア!』
キャー、なんて、黄色い歓声に。
(……どうしてこうなった……)
ユウシアは、遠い目をしていた。
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「ミス&ミスターコンテスト?」
「えぇ。二日目の催しも、これまた毎年恒例。可愛さと格好良さの頂上決戦です」
首を傾げるユウシアに、ヴェルムが返す。
「ふーん……で、なんでそれをこんなギリギリまで隠してたんですか?」
イマイチそこがピンと来ず、ユウシアは更に質問を重ねる。
「え? だって……予め伝えてたら、ユウシア君、逃げるでしょう?」
「逃げる……? 俺が? 何から――あっ」
ピンと、来た。そして、何かを察した。
回れ右! 全速前進! 直ちに離脱――
「ぐえっ」
「だから逃がしませんって」
する間もなく、ヴェルムに首根っこを掴まれる。
「やめろぉっ! 放せぇっ! 暗殺者さんを目立たせるんじゃなぁいっ!」
「今更何を! ユウシア君、店でもエキシビションマッチでも死ぬ程目立ってたじゃないですか! 僕よりも! 学園長である僕よりもっ!」
「あんた教師でしょ! 教師が目立ってどうするんだってそうじゃない! 嫌だぁっ! 俺をそんな舞台に立たせるなぁっ! いいよラインハルトかアラン先輩優勝で!!」
「いや、確かに見た目だけで考えればその二人の圧勝でしょうけど! 判断基準それだけじゃないですから! いいんですか!? ミスコンの方にはリルさん出るんですよ!? 賞品は優勝者同士でペア旅行ですよ!?」
「任せてくださいよ絶対優勝しますから」
「うっわぁ手の平クルックル」
「だって! リルですよ!? あの最カワ確定のリルですよ!? 優勝しない訳ないじゃないですか! 馬鹿なんですか!?」
「いやいや、馬鹿って、それは理不尽過ぎませんか!?」
「先生には丁度良いですよ! っていうかあのリルがミスコンに出るなんて……」
「え? あぁ、それは、賞品の話をしたらこう……『ユウシア様と二人きりで旅行が出来るのですか……? 出ます! 私、必ず優勝しますわ!』と」
「やめろ気持ち悪い物真似でリルを汚すな。……そうか、リルがそんなこと……尚更優勝しない訳にはいかないな!」
「ぐすっ……ついでみたいな流れですっごい真顔ですっごい罵倒された……ぐすん」
ヴェルムが泣いている。ユウシアがリルへの愛を募らせている。そのやりとりを見ていたシオンの瞳から光が消えている。アランだけはよく分かっていないのかオロオロしているが……誰も相手にはしてくれなかった。
ちなみにここは議会本部。この学園祭の中でもいつも通りな数少ない場所だ。学園祭二日目開始直前のこの時間に、ユウシアは呼び出され、ミスターコンテストへの参加を決定事項として伝えられたのだ。なんて理不尽な、と思わないでもなかったが、リルが出るのなら仕方ない。仕方ないったら仕方ないのだ。
「……午前中にミスコンテスト、午後にミスターコンテストを行います。ただし、結果発表はミスターコンテストが終わってから纏めてになります。何はともあれ、午後はクラスの出し物には参加出来ないと考えてください」
若干呆れた様子で補足してくるシオンに、ユウシアは頷こうとして――気付いた。
「あれ……さすがに店に全く出ない訳にもいかないし、もしかしなくてもミスコン見れない?」
「諦めてください」
死の宣告である。
「……そんな絶望したような顔をしなくても、コンテストの様子は専用の魔道具で記録していますから」
「素直に喜べない自分がいる。俺の黒歴史も残りません、それ?」
「黒歴史かどうかは置いておいて、残りますね」
「ですよねー……それに、やっぱり生で見たいし……代役でも立ててしまおうか」
「? 代役?」
首を傾げるシオンをよそに、ユウシアは名案だ、と小さく笑うのだった。
++++++++++
やって来たのは、学園内にもある教会。しかも結構大きめだ。ちなみに、あと三十分程度で学園祭が始まるだけあって誰もいない。
「助けて女神様」
そこに飾られている、女神レイラの像――には目も向けず、ユウシアは虚空を見上げて呟く。すると、
『ユウさん……流石に私、便利屋扱いされるのは想定外だったんですけど……』
ユウシアの脳内に響くラウラの声。そう、ラウラにどうにかしてもらおうと考えたのだ。
「いや、ほんとにお願いしますラウラ様……午前中だけでいいから来られない? 姿は俺の【偽装】でどうとでもなるけど、中身が俺をよく知る人じゃないとどうしてもさ……俺のことはラウラが一番よく知ってるはずだから」
『それはまぁ、言葉通り体の隅々まで知ってますけど……』
「待って違うそういう意味じゃ――って、そうじゃなくて、ホントに。どうにかならないかな?」
『むぅ、そうですね……えっと、見た目に割くリソースを全カット……体格は寄せて……ユウさん、【偽装】で声って再現できます?』
「流石に無理だな」
『そうですよね……声もユウさんに近付けて……耐久も高めにしておいた方がいいですかね……うぅん、これだとまだ足りない……』
「感情は抑えめにしちゃっていいよ。基本愛想笑いで乗りきれる」
ラウラが何をやろうとしているのか察したユウシアはそうアドバイスする。
『なるほど……あ、それならいけますね。精神面ってコスパ悪いんですよねー。……まぁ、それはさておき。ユウさん、貸しですよ?』
「……分かってる。お手柔らかにな」
ラウラの言葉に、ユウシアは安心すると同時に、女神の貸しの取り立てを想像して頬を引き攣らせるのだった。
無理矢理なのは分かってます。でも仕方ないんです。ユウシアがリルの晴れ舞台(?)を見ないなんて選択肢存在しないんですから。つか、ミスターコン書いてミスコン書かれないとか誰得だよって。便利屋ラウラ様に助けてもらうしかなかったんだ。……これでミスコン大したことなかったらめちゃくちゃ叩かれそう。ヤメテ自信ないから怖いから。