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裏メニュー

「――お待たせいたしました、お嬢様」

 賑わう喫茶店「シュガー」。ユウシアは笑顔を振り撒いて接客に専念する。

 学園祭は、二日に渡って行われる。先程のエキシビションマッチのような催しも、二日目にはまた別のものが行われるようだが、一年生には知らされていない。先輩達は知っているようだが、ユウシアがシオンやアランに尋ねても、誤魔化されるばかりで情報は得られなかった。

 それはさておき、売り上げの順位は当然一日目と二日目の合計で決まる。ユウシア達が戦っている最中に行われたらしい一日目の中間発表によると、現在、このクラスと前年度優勝クラスの一位争い状態で、三位以降とは大きな差がついているとのこと。ここは出来れば、一日目終了時点でトップに立ち、優位に立っておきたいところ――なの、だが。

「――ねぇ、聞いた? レストラン「ピニシス」でディナーメニューが出たらしいんだけど、それがすっごく美味しいんだって!」

「そうなの? なら、次はそこに行ってみましょうか」

 なんて、そんなような会話がちらほらと。

 レストラン「ピニシス」……現在喫茶店「シュガー」と一位争いをしているライバル店の名前だ。

(ピニシス……精霊言語で、最高、だったっけ。……名前負けさせてやる)

 垣間見えるユウシアの黒い部分。最高だなんて調子に乗った名前にしたことを後悔させてやる、と息巻いている。

「失礼いたします、お嬢様方」

 とりあえず、先程ピニシスの話をしていた二人組の元へ。

「は、はいっ?」

「申し訳ございません、先程のお話が聞こえてしまいまして……ここだけの話、なのですが」

 と謝罪と前置きを済ませたユウシアは、今反応を示した、先程はピニシスの情報を伝えていた方の女性の耳元に口を近づけ、囁く。

「実は当店にも、ディナーメニューがあるのです」

「……えっ? で、でも、メニューにはそんなこと……」

「ですから、ここだけの話、なのです。所謂裏メニュー……お嬢様がお望みの品を、お嬢様だけのために、ご用意致します」

 ともすれば耳と口が触れてしまいそうな程近い距離で、甘い声音で囁かれたその言葉に、女性は――

「……ごめん。私、やっぱりここで夕飯済ませる」

「え? 急になんで――」

 なんて戸惑うもう一人にも、同じことを。

「……そうね、それがいいわ、そうしましょう」

 ユウシア、笑みを絶やさぬまま小さくガッツポーズ!

 ……もちろん、本来裏メニューなどというものは存在しない。これは完全なアドリブである。だが、食材に関しては豊富にあるし、彼が全面の信頼を寄せる料理長は、きっとどんな無茶でもこなしてくれる。後で機嫌を取っておけば万事OK。何も問題などないのだ。

 注文を聞き、それと一緒にこのアドリブについても伝えるためユウシアが厨房へと向かう。その途中、目を丸くしてこちらを見ていたクラスメイト達にハンドサイン。

 ユウシア考案、フェルトリバークラス全員が身に付けているそのサインで意図は伝わった。クラスメイト達は一斉に頷き、次々に客達を籠絡――もとい、注文を取っていく。

「……恐ろしやユウ君、あっさりと女の子を手玉に……」

「扱いを心得てるわね……」

「それでいて姉上は特別な存在なのだと何故か分かってしまうから余計に恐ろしい……こんなこと、絶対の信頼でもなければ独断では出来ないからな」

 なんか言われている気がしたが、気にしないことにした。


++++++++++


「ユウシア様は、もう……勝手にあんなことを始めて、大変だったのですよ?」

「悪かったよ……だからこうして、執事服のままでいるっていうのに」

 学園祭、一日目が終了し。とりあえずトップを手にしたことに満足げなユウシアは、リルの頼み――というか命令で、執事服から着替えないまま、寮のリルの部屋へとやって来ていた。

「それは、その……お店では厨房にいたわたくしからユウシア様のお姿はあまりみることが出来ませんでしたし、お昼、出掛けたときも、その、恥ずかしくってそれどころではありませんでしたし……ユウシア様のこのお姿を、堪能出来ていませんから」

「……それを言うなら、俺も是非ともメイドなリルを堪能したいところなんだけど……もう着替えちゃってるし」

「これは、無茶を押し付けてきたユウシア様への罰なのです。ユウシア様にわたくしのメイド姿を堪能する権利はありませんわ」

 ふんっ、と顔を背けながら言うリルに、ユウシアは思わず吹き出してしまう。

「ぷっ」

「な、何故笑うのですか!?」

「いや、リル、似合わない……あははっ」

「むぅっ……」

 今度は頬を膨らませるリル。ユウシアはそんな彼女の膨らんだ頬を軽く掴む。

 ぷすっ。

 と、間の抜けた音を立てて萎む頬。ユウシアは更に笑う。

「……ユウシア様のバカ」

 リルは不機嫌そうに言ってそっぽを向いてしまう。

「いや、ごめんっ……ふふっ、可愛くってつい」

「……ユウシア様はすぐに可愛い可愛いと、信用出来ませんわ」

「いやいや、全部本心だよ」

 そう返す声も、未だ笑いを帯びている。

「……もう。うふふっ」

 笑いは伝染るもの。いつしかリルも笑ってしまう。

 学園祭一日目、二人の夜は楽しそうな笑い声とともに更けていく。

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