カップルドリンク
焦った。後半消えかけて焦った。バックアップあってよかった。
「いやぁ、思わぬ収穫だなぁ」
ルイン曰く、「さすがに量が多いので、他の景品は後で寮の部屋に運ばせておく」とのことで。今は手ぶらだが、ユウシアはその景品達にホクホク顔であった。特に金に困っているということもない――黒竜討伐の報酬もまだまだ残っている上に、武闘大会で結構な額の賞金が出た――し、欲しい物があったとかそういう訳でもないのだが、それでも貴重な物はあるに越したことはない。なんというか、光る物大好きなカラスのような感じもするが、カラスではなく人としての性だろう。
「高級食材もたくさんありましたね……是非調理してみたいですわ」
「神だよ」
思わず断言。高級食材と美味しい食材が必ずしもイコールで繋がる訳ではないが、基本的には高級食材は美味しいものだろうし、それをリルが調理するとなると……神でなければ何なのか。
「お待たせ致しました。ご注文のサンドイッチ盛り合わせ二人前……そしてこちら、サービスのカップルドリンクになります。ごゆっくりどうぞ」
今更だが、ここはオシャレなカフェ風の店。テラス席なんてものもあり、昼食に丁度いいと入店、おすすめだというサンドイッチを頼んだのだが……。
「……えっと」
ユウシアが、店員の女子生徒を見ながらテーブルのど真ん中に置かれたドリンクを指差す。……そう、彼女の言った通り、カップルが二人でイチャイチャしながら飲むためにストローが二本、それもわざわざハートマークを模って刺されたドリンクを。
「サービスになります」
「いや、頼んでな」
「サービスですので」
「って言われても」
「ご安心下さい。サービスですので、ドリンク代は頂きません」
「そういう問題でも……まぁいいや」
別に損をする訳でもない。さすがに恥ずかしいので、多分交互に飲むことになるだろうが……という、ユウシアの思考を遮って、
「ですが、飲む時は必ず二人同時に、というのが条件です」
「条件!? 勝手に出しておいて条件付けるの!?」
「はい」
悪びれずに頷く店員。
「そういう決まりですので」
「客に条件出す決まりとか初めてだよ!」
「当店初の試みです」
「余計なことをっ!」
「では」
「逃げた!?」
店員はそそくさとその場を去っていった。
そして、残された――というか、二人きりに戻ったユウシア達だが。
「……あの、ユウシア様……本当に、二人で飲むのですか……?」
リルの言葉に、ユウシアはチラリと周りを見る。……全ての店員が、さり気なくこちらを気にしているようだ。
「……それしか、ないみたいだな。さすがに手を付けないっていうのもアレだし……」
二人は、覚悟を決めたように頷き合うと、ドリンクに顔を近付ける。
……意外と、悪いものでもなかった、とだけ言っておこう。
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『さぁさぁ皆様お待ちかね! 王立ヴェルム騎士学校学園祭の目玉! エキシビションマッチのお時間です! 実況は私、エルナ・セルアデスが! 武闘大会に引き続きお送りします! 先に言っておきましょう、試合中は集中しちゃうんであまり喋りません! ほとんど司会進行でございます!』
「それでいいのか実況」
思わず呟くユウシアだが、あちらまで聞こえるはずもない。
『では、選手の紹介です! まずは、言わずと知れた武闘大会優勝者、ユウシア!』
ワァァアアアアッ、と鳴り響く歓声に、ユウシアは手を振って答える。
『更に更に、同じく第二位、第三位のアラン・レイノルズとシオン・アサギリ!』
今度は、先程と同じような歓声に、黄色い歓声も混ざる。
『でもって! あまりにも物理に偏っているということで、急遽参戦が決定したのは、武闘大会第四位のアヤ!』
「いぇいっ!」
なんかいるなぁ、と思っていたら、アヤも参加するらしい。上機嫌で観客に向けてVサインを向けている。
『続いて学外からのゲストです! なんとなんと、いきなり大物が! ジルタ王国第三王子にして、当校の卒業生でもある、ハイド様! 卒業後初参戦です!』
再び鳴り響く歓声。当のハイドは何の反応も示さないが。
『そしてそして、一応はそんな殿下の上司に当たる、騎士団長、グランリット・フェムズ! ジルタ王国最強と名高い彼が、やっと招待に応じてくれました!』
それに応えるように手を振るのは、黒に近い灰色の髪をした壮年の騎士。
(……おおう)
相当強い。多分、あの黒竜も彼一人で倒すことが出来るだろう。そう思わせるくらいには。
『国外からも、一名、このエキシビションマッチに参加するべくやって来てくれました! かの“最強の傭兵”、ライデル! 実は仕事を探しに来ただけかもしれません!』
「間違ってねーぞー」
エルナの紹介に適当に返すライデル。傭兵というから勝手に粗野な少し汚い感じをイメージしていたユウシアだが、実際はそんなことはなく、綺麗な身なりだ。
『……あ、忘れるところでした。あと、うちの学園長も出ます。はい紹介終わり』
「ちょっとぉ!?」
ヴェルムの叫びが響き渡った。




