ミニゲーム
「さて、最初は簡単なところから行こうか。輪投げだ」
「縁日だよ完全に」
ルインに最初に案内されたそこには、ユウシアが思わず呟いた通り、縁日よろしく輪投げコーナーが広がっていた。……隣に、射的とかがあるように見えた。縁日だ。もうこれ間違いなく縁日だ。
「ルールは簡単、この輪を棒に向かって投げて入れる。それだけだ。棒は遠く、低い物程得点が高くなっている。こちらは最高で五十点だな。更に、輪の方にも種類がある。まずこれが通常の輪」
そう言って出してきたのは、何の変哲もない輪。ただの、輪。
「そしてこれは、大きく入れやすい代わりに得点が半分になってしまう輪」
最初の物より一回りか二回り程大きい。これは相当入れやすそうだが、ポイント半分は大きい。
「こちらは、小さく入れづらい代わりに得点が二倍になる輪」
最初の半分程度の大きさの輪だ。ハイリスクだがリターンも大きい。
「そして最後がこれ。ギリギリ入る程度の小ささだが、ポイントが五倍になる」
「それで」
ユウシアは即答する。輪は棒よりほんの少し大きいだけで、入れさせる気など全くなさそうだが、そんなことは知ったことではないのだ。狙うは最高得点、ただそれのみである。
「……本気で言っているのか?」
「もちろん」
ユウシアは言いながら頷く。
「そうか……一プレイ銅貨五枚だ。五回投げられる」
「分かりました」
さっさと銅貨を渡すと、ユウシアは軽く狙いを付けただけで、五つ連続でぽぽぽぽぽいっ。
ストトトトトッ。
「「…………」」
口を開いて固まるリルとルイン。なんというかもう、五つ全てが、一本しかないはずの五十点の棒の所に見事に積み重なっている。棒の高さ的に言えば、五つギリギリ行けるかどうかレベルだったのだが……。
「これで千二百五十点。破りようのない最高得点ですね。さ、次行きましょ、次」
「……そ、そうだな」
何でもないように言い放つユウシアに、ルインが軽く頬を引き攣らせて答える。これは、割とあっさり短杖を取られるかもしれない……なんて、思いながら。
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それから。先程ちらりと見えた射的っぽいのだったり、ストラックアウトっぽいのだったり、モグラ叩きっぽいのだったり、それはもう色々やったのだが。
「す、全て最高得点、だと……っ」
ルインは膝をつき、拳を床に思い切り叩きつける。……痛かったらしい、反対の手で打った部分を押さえている。
「くそ、だがこれなら……! さぁ、最後はくじ引きだ! 運だ運! 運の勝負ならどうにもならないだろう! ちなみに最高は一つしか入っていない特等だ!」
「あ、これですか? やったー」
「何故だぁぁあああッ!!」
「女神様に祈ってみたら意外と」
「女神レイラよぉぉおおおッ!!」
祈ったのはその姉なんだけど、とは一応言わないでおく。頭の中で、ラウラがサムズアップしていた気がした。
「で、これで全ゲーム最高得点が確定した訳ですけど。くじ引きは特等一つしか入ってないんだし、もうあの短杖は俺が貰っていいんですよね?」
「くっ……分かった、特例だが、学園祭終了後ではなく今進呈しよう……」
ルインのその言葉に応じて、彼のクラスメイトが高級感溢れる箱を持ってくる。
「さぁ、これがウォズマ・フラスタイン作、『水神の杖』だ。……正直、もう赤字確定だな。これに加えてそれぞれのゲームの賞もあるとなると……」
ルインが心なしか顔を青くしているが、それを完全に無視してユウシアは水神の杖とやらを受け取る。そして――
「リル、受け取ってくれる?」
ノータイムでリルに差し出す。元よりそのつもりだったのだから当然だ。
「――はいっ!」
リルは本当に、心の底から嬉しそうに笑うとその箱を手に取った。
パチパチパチパチ――。
と、辺り一帯が何故か拍手に包まれる。
「やるじゃねぇか彼氏!」
「末永くお幸せになー!」
「彼女欲しい彼女欲しい彼女欲しい彼女欲しい」
どうやら、いつからか見守られていたらしい……が、とりあえず、あそこの虚ろな瞳でブツブツと呟いている人は危なそうだから追い出した方がいいと思った。
「開けても、よろしいでしょうか……?」
「もちろん」
その言葉に、拍手の音は止み、今度は静寂に包まれる。リルが開けるのを、皆息を呑んで見守り、そして――
「これが、ウォズマ・フラスタインの杖……」
リルが取り出したその杖の美しさに、どこからかほぅ、と息が漏れる。
「ありがとうございます、ユウシア様、本当に……!」
「喜んでくれてよかった」
そのやり取りに、またも囃し立てる声が。
「お熱いねぇ!」
「おーいなんだか甘いぞぉー!?」
「彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女」
……やはり一人、危ない人がいる。
あの人には関わらないようにしよう、とユウシアが心に決めたところで、店に飛び込んでくる影が。
「ウォズマ氏の作品が手に入ると聞いてっ!」
……ヴェルムである。何をやっているのか……。
「どこですか!? 僕の杖はどこですかっ!?」
「ここです。あとリルのです」
「なぁんですってぇえええっ!?」
ヴェルムは崩れ落ち――ついでに、彼を追いかけてきたクレアに連れ去られた。南無。




