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お化け屋敷

「準備期間中も何回か見たけど……やっぱり、普段とは全然違うなぁ。新鮮」

 ユウシアは、賑わう学校内を歩きながら呟く。その隣にはリルがいて、二人はしっかりと手を繋いでいた。

 と、そのリルから反応がないのに気付き、ユウシアは隣を見る。

 彼女は、頬を染めて俯いていた。

「……リル?」

 ユウシアに呼ばれ、ハッと顔を上げるリル。

「も、申し訳ございません、人がいる中こうしていることは今までなかったものですから……恥ずかしくて」

 リルはそう言いながらユウシアの手をしっかりと握り直す。

「なるほど……今までは人目につかない所ばかりだったもんな」

「はい……ですが、堂々としていられるというのは気が楽ですわ」

「なら良かった」

 ユウシアは小さく笑うとリルの手を引いて再び歩き始める。

「さて……まずはどこに行こうか。リルは行きたい所とかある?」

「いえ、特には。ユウシア様にお任せしますわ」

「んー……そうだなぁ。あ、アレなんかどう?」

 と言って、ユウシアが指差したのは。

「お化け屋敷」


++++++++++


 ――そこは、小さな、名もなき村だった。

 何の特徴も、特産もない、ごく僅かな村人がのんびりと過ごす村。

 そんな村に、ある日、とある魔術師がやって来た。

 魔術師は、「魔術研究のため、穏やかな環境を探していた。是非、この村に住まわせてほしい」と頼んでくる。魔獣退治も引き受けてくれるというので、村人達はその頼みを快諾した。

 それからは、魔術師のおかげで魔獣の危険に晒されることもなく、また、魔術師と村人の仲も非常に良好。半年もすれば魔術師はすっかり村に馴染み、村の娘の中には、そんな彼に淡い恋心を抱く者まで現れ始めていた。

 この魔術師と出会えて、受け入れて良かった――村人達は、そう思っていたのだ。

 だが――魔術師がやって来てから一年後、村は壊滅した。

 魔獣に襲われて? 違う。賊に襲われて? それも違う。災害に巻き込まれて? いや、近頃は至って平穏だった。

 そう、それは、あの時魔術師を受け入れてしまったから――魔術師の研究内容は、人体の改造、遺伝子操作の魔術だったのだ。

 最初の被害者となったのは、魔術師に積極的に近付いていた娘だった。

 彼女は、魔術師に好意を利用され、自然に家に連れ込まれ――実験台となった結果、様々な生き物を融合した、醜い、とても醜い化け物になってしまった。

 その後も、次々に、しかし不自然でない程度に犠牲者は増え――そうして村は、魔術師を除いて住民を失った。

 その後その魔術師は、自分が作り出した化け物に殺されたという。

 そしてその村には今も、魔術師に作られた化け物達が憎悪と怨念を抱き蔓延っている――。

 と、いう。何やら壮大な設定が、このお化け屋敷にはあった。

 なんというかもう、その説明を入り口で長々と聞かされた時には、ユウシアも「長いわ」とツッコミかけてしまったのだが。入ってみると驚くべきことに、作り込みが凄いことになっている。

 あんな設定だけあって村の一角が再現されているのだが、この家とか、本気で作ったのではないだろうか。普通に住めそう。

 でもって、出てくるお化け――もとい、魔術師の魔の手にかかった化け物達もまた凄い。普通に夜中に出てきたらあっさりちびりそう。ユウシアはしないが。

 まぁ、そんなこんなでユウシアとしては怖いというより感心してしまうこのお化け屋敷なのだが――。

「ユ、ユウシア様……おっ、おば、お化けは……」

 リルの方は、それはもう全力でビビっていた。小さく震えながら、ユウシアにしっかりと抱きついている。

 これはお化けさん方もさぞ脅かし甲斐があるのでは、と思うユウシアだったが、残念、実際は目の前でイチャつかれて恨みが募るばかりである。

「大丈夫だよ、今はいないから」

 リルを落ち着かせるため、ユウシアは言いながら頭を優しく撫でる。

「ユウシア様……」

 と、落ち着きを見せるリル――だったが。

「ヴァァァアアアア!!」

「ふえああああああ!?」

 人間に色々な生き物を混ぜたような化け物がいきなり現れ、腰を抜かしてしまう――とりあえずユウシアは、これアレだ、多分魔術師に淡い恋心を抱いた村娘だ、と思った。

「あの……リル? 大丈夫?」

「ひゅいっ!? ばっ、ばばば化けっ!?」

「いや、俺は化け物じゃないけど。とりあえず大丈夫だから……落ち着かない?」

「……ガ、ガァァアアアッ!」

「黙って」

「グゥ」

 化け物は素直に黙った。

「リル、深呼吸」

「は、はいっ……すぅー……はぁー……」

「……落ち着いた?」

「……はい。申し訳ございません、ご迷惑を……」

「大丈夫。こっちこそごめん、こういうの駄目だったら連れてこなかったのに……」

「いえ……わたくしも初めてで、ここまで自分が駄目だったとは……」

「……そっか。立てる?」

「少し、難しいです……」

「なら手貸すよ。ほら」

「ありがとうございます」

 ユウシアの手を取り立ち上がるリル。そのまま二人は手を繋いで歩き始める。

 化け物役の人は、「一体何を見せられているんだ……」と、虚ろな目をしていた。

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