魔導の極致
「あ、そうだ」
再び歩き始めてから三十分程したところで、ユウシアが足を止める。
「ユウ君、どうしたの?」
「いや、アヤのスキルを確認してないなって思ったんだけど……アヤ、自分の歳は覚えてる?」
「……女性に年齢を聞くのはデリカシーに欠けると思うんだけど?」
ジト目を向けてくるアヤに、ユウシアは違う違う、と手を振る。
「そういう意味じゃないって。ただ、十五歳を超えてるか聞きたかっただけ。それに、まだまだ気にするような歳じゃないでしょ?」
「からかっただけだもん。ユウ君、反応つまんないよ」
「そんなこと言われてもなぁ……」
苦笑しながら文句を言うユウシア。アヤは、やっぱりつまんない、などと呟きながら頬を膨らませる。
「……それで? 歳、覚えてる?」
ユウシアが改めて問いかけると、アヤは頬を膨らませたまま答える。
「覚えてないよ」
「そっか……まぁ、確かめちゃうのが一番早いかな」
そう言ってユウシアは、ラウラが持っていた水晶――「覗き玉」を取り出す。
「それって?」
「覗き玉、って呼ばれてる道具。これを使うと、その人の情報が分かるんだ。本人が認識してないところまでね」
「じゃあ、つまり……」
「うん。君の年齢も分かる。使ってみなよ」
ユウシアに差し出された覗き玉を受け取るアヤ。使い方を教わり、実際に使ってみる。
「うえっ」
気持ち悪そうに声を上げるアヤ。頭の中を覗かれるようなあの感覚を味わっているのだろう。
ユウシアのときと同じように、覗き玉が光を放つ。
それが収まったと同時に、ユウシアが口を開く。
「どう? 何か分かった?」
「……うん。とりあえず、歳は十五歳だったよ」
「そっか。他にも教えて大丈夫なものは、教えてもらいたいんだけど……」
ユウシアがそう頼むと、アヤは少し考えてから頷く。
「いいよ。それじゃ、まず名前だけど……“アヤ”だったよ」
「ついさっき決まったばかりなのに……早いな。それとも、実は本当にこんな名前だったり?」
「どうなんだろうね。それで……年齢はいいとして、身長と体重もいいよね?」
ユウシアにそう確認するアヤ。ユウシアは頷きを返す。さすがに女性に平気で体重を聞ける程図太くはない。
「えっと……職業が、“魔導を極めし者の卵”ってなってるんだけど……」
アヤが不思議そうに首を傾げながら伝えると、ユウシアも同じように首を傾げる。
「魔導を極めし者……の、卵か……なんだそれ。職業?」
「職業、って感じじゃないよね」
その言葉に頷くユウシア。
二人してこの職業は一体なんなんだと考えていたが、どうせ考えたって分かる訳がないと思考を放棄する。
(えっと、俺がラウラに教えてもらったのは……)
自分のスキルを確認したときのことを思い出す。確かあと一つ、スキルだけだったはずだ。
「あとはスキル……これで最後かな?」
どうやら、ユウシアの記憶は正しかったようだ。
「そうだね。いくつある?」
「んーっと……二つ、かな……?」
アヤが何かを思い出すように視線を上に向けながら答える。
「二つ……少ないな……」
自分と比べて思わずそう呟くユウシア。
しかし、あくまでユウシアのスキルが多過ぎただけで、本来は二つでも珍しいのだ。ユウシアが異常なのである。
「何があるの?」
内容が気になったユウシアが聞くと、アヤはやはり視線を上に向けたまま口を開く。
「えっと……一つ目は、【芸達者】……?」
スキル所持者が「芸」と認識していることが上手く出来るようになる。
「……ユウ君、なんか、すっごい地味な効果なんだけど……」
その効果を確認したアヤが思わずそう漏らす。
だが、ユウシアはそれに首を振る。
「いや、結構強いと思う。アヤの認識次第では、どんなことでも上手くなるんだから」
そう。これは、所持者の認識により効果範囲が左右されるスキルなのだ。つまりそれは、全てのことがスキルの対象になる可能性を秘めているということ。
例えば、だ。大道芸やサーカスでやるようなことは、アヤは何の疑いもなく「芸」と認識するだろう。それは当然のことだ。
それでは、剣術や槍術などの武術を、武“芸”と認識したらどうだろう。楽しむような芸ではないが、芸は芸だ。となると、アヤは全ての武器を上手く扱えることになる。
他のことだってそうだ。魔法だって、パフォーマンスの類であると認識すれば上手く使えるだろうし、やろうと思えば、日常生活で使うようなこと、例えば家事等だって、スキルの対象にすることが出来るのだ。これは相当に強力な効果だと言えるだろう。
と、いうことをアヤに簡潔に説明するユウシア。
それを聞いたアヤは、感心したように頷いている。
「なるほど。そんな使い方もあるんだね。私もそういうことがすぐ思いつくようにならないと、このスキルは使いこなせなさそうかな……」
「まぁ、そうかもしれないな。その辺はゆっくりと変えていくしかないけどさ。――それで、もう一つは?」
「あ、ごめん、忘れてた。こっちは、職業に凄く関係ありそうなスキルだよ。【魔導の極致】」
魔術系・派生、魔導系・最上位スキル。魔導の全てを知り、ありとあらゆる魔法を使いこなし、魔力操作に秀でる。魔導に関して、全ての生物の頂点に立つことが出来る。
「「…………」」
絶句。
説明を読んでいたアヤも、段々と声が尻すぼみになっていき、終わったと同時にすっかり口を閉じてしまった。
顔を見合わせる二人。
「「…………」」
沈黙が流れる。
「……行こうか」
「……うん」
二人は、何事もなかったかのように歩き出した。
ちょっと【魔導の極致】の効果を強くしすぎたかもしれない……?
まぁ、大丈夫でしょ、多分。
そんなことよりも、【芸達者】についてのユウシアの考察(?)の「芸」をカタカナにしたら凄いことになりそう……。特に武芸、のとこ。「ゲイはゲイだ」だって。
……あっ、いらないこと言ってごめんなさい。