心配ソワソワ
前回後書きで入れようかと思ってて忘れたことなんですけど。フェルトリバークラスの店名『シュガー』の由来は、まんま砂糖です。もっと言うと、(事情を知らないクラスメイトからしたら)何故か時々教室を包む甘い雰囲気です。そうです、【偽装】済みのユウシアとリルがイチャついてる時です。
最初のお客様、国王に第三王子、そして、有力貴族の当主。なんというか、錚々たる顔ぶれである。
その娘であるリル、フィル、リリアナが驚きに固まってしまうのは当然として、他のクラスメイト達も動きを止めてしまう。
そんな中、スッと動き出した者が一人。
「お帰りなさいませ、旦那様方。お席へご案内致します」
――ユウシアだ。
一瞬の硬直から復帰し、完璧に接客をこなす。
「うむ」
「……リリアナ、緊張しすぎんようにな」
「リル、フィル、お前達もだ。程よく気を抜くのがコツだぞ」
頷くガイルに、心配そうに娘に声をかけるラムル。そして、それに乗っかるようにコツなんてものを教えていくハイド。――彼もこの学校に通っていたらしいので、こういった経験もあるのだろうか。ユウシアは、少し見てみたかったと思った。
しかしなんというか、それでもイマイチ動きがぎこちない。……ついでに言うと、他の皆は未だに驚きから復帰出来ていない。
そんな皆を見てユウシアは小さくため息を吐くと、ガイル達に一言断り、皆を見て一つ大きく手を叩く。
パァンッ!
と景気のいい音が鳴り、全員分の視線がそこに集まる。
「……こんなことを言っていいのかは分からないけど、ここに来たからには、国王陛下だろうが王子殿下だろうが侯爵閣下だろうが、例え平民だろうが等しくお客さんだ。敬意は忘れちゃいけない。でも必要以上に畏まるのも窮屈に感じるだけ。そうやって動かないのが一番失礼だ。分かったらほら、仕事仕事!」
その言葉に、慌ただしく動き回り始めるクラスメイト達。ユウシアは満足げに微笑むと振り返り、申し訳なさそうな顔をする。
「申し訳ございませんでした、お見苦しい所を……」
「あぁ、いい、いい。普段通りで構わんよ」
完全に接客モード。普段以上に丁寧に話すユウシアに、ガイルは手を振る。
「ですが――」
「必要以上に畏まるな。君が言ったことだぞ?」
「……分かりました。それにしても、来るとは聞いてましたけど、まさかこんな早くから来るとは……」
「あぁ、ラムルが娘が心配だと聞かなくてな」
「っ、陛下!? 私は別に――」
「顔に出ていたぞ。それに、ハイドもポーカーフェイスを取り繕いながらもどこかソワソワしていたようだったしな」
「……父上には敵わんな」
ガイルの暴露に慌てるラムルと、ため息を吐くハイド。なんというか、“隠れ”はどこへ……。
と、そこに。
「――ユウシア様」
後ろからかかる、若干冷たい声。後ろには、その声の主以外にも二名程の気配が。
「……リル、何か?」
どこか引き攣った笑みを浮かべながら振り返るユウシア。後ろにいたリルは、こちらはどこか冷ややかな笑みを浮かべている。
「お父様がいらっしゃると、ご存知だったのですか?」
「……うん、まぁ」
「何故それを、私達に伝えなかった?」
「いやぁ……」
「……ユウシア、まさか、『反応が面白そう』なんて考えていたんじゃないでしょうね?」
「ギクッ」
つい口に出してしまうユウシア。図星である。
いや、昨日、ヴェルムを通して聞かされていたのだ。「ガイル達がお忍びで来るらしいですよー」と、軽い感じに。呼び捨てなのは、旧知の仲だからだとかなんとか。
でもって、面白そうだからと自分の中に留めておいたのも事実である。想像以上に来るのが早かったため、ユウシアも一瞬驚いてしまったが、まぁ、いいものが見られたと思っている。驚き、固まり、焦る姿。中々に面白かった。
「はっはっは! ユウシア君、面白いことを考えるな!」
と、そんなユウシア達を見て笑うガイル。
「父上……私達としては、少し頭に来ることなのだが……」
「別にいいだろう、フィル。減るものではない」
「兄上まで……」
味方がリルとリリアナしかいないのでは勝ち目がないと判断したフィルは、小さくため息を吐く。そんな彼女にユウシアは苦笑すると、改めてガイル達の方を向く。
「では、ご注文をお伺いしましょうか」
「おっと、そうだったな。ふむ……いや、オススメを頼む」
メニューをチラリと一瞥し、そう注文するガイル。「俺もそれでいい」「では私も」と、ハイドとラムルも乗っかる。
「少々お待ち下さい。――リル、頼んだ」
「お任せ下さい!」
リルは意気込み、小走りに厨房へと消える。
「ほら、フィルとリリアナも、ボーッとしてる暇はないよ。お客さんが増えてきた」
「あら、本当……いつの間に」
「ふふ、さぁ、練習の成果を見せてやろうではないか!」
フィルは接客の練習をしていたらしい。リリアナと共に、入ってきた男性三人組の対応に向かう。
「それじゃあ、俺もそろそろ失礼しますね」
宣伝効果は絶大だったのだろう、男女問わずどんどん入ってくる客に、早くも対応が追いつかなくなってきている。ユウシアは一つ声をかけると、次の客である女性達の対応へと向かった。