強そう
さてさて。
それから数日が経過し、メイド服に続いて、執事服の方も完成した。
「ん、俺が試着?」
「えぇ。衣装製作班には男子いないし。こういうときのリーダーでしょう?」
「いや、確かにいつの間にかリーダーにされてたけど、そういうものじゃ……まぁいいか」
リリアナに完成した服の試着を頼まれたユウシア。彼女の言葉に小さく肩を竦めて返す。
「あとは、人によって着こなし方も違うだろうから、大まかな性格別にあと二人頼んでるわ。まとめて見たいから、これ着たら教室に来なさい」
「了解」
リリアナはユウシアに服を渡すと、部屋を出ていった。
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それから少しして、執事服を着たユウシアは教室に入る。
与えられていたのは、まずは基本として、シャツにジャケット、ズボン、革靴。上着の形状はいわゆる燕尾服だ。それから、カラーステイ、ウェストコート、タイ、ポケットチーフ、手袋、そしてモノクル。これらはご自由にどうぞということらしいが、とりあえずユウシアは全装備。モノクルもなんとなくの雰囲気付けだ。もちろん伊達である。
さて、教室に入ったユウシアを迎える第一声は。
「ふあっ……」
そんな気の抜ける声。見ると、声の主であるリルが、隣にいたフィルにもたれかかっている。
「……姉上、どうした……?」
「い、いえ……なんでもありませんわ」
「? ……そうか」
よくは分からないが大丈夫そうなので、ユウシアはとりあえずリリアナの元に歩み寄り――
「ねぇ、なんで皆いるの?」
微妙に不機嫌そうに問いかける。
そう。今この教室には、フェルトリバークラスの生徒ほぼ全員が集められていたのだ。こんな大人数に見せるつもりではいなかったのだが……。
「もう作業もほとんど終わって暇だって言うから」
「いや、それにしたって……まぁいいや。それで、問題はない?」
服を見せるために軽く手を広げて聞くユウシア。リリアナはそんな彼を上から下までじっくり見ると頷く。
「……そうね。燕尾服だから裾のバランスが難しかったんだけど、心配なさそう。モノクルは大丈夫?」
「ん? あぁ」
モノクルが落ちないか、という質問だと気付き、ユウシアはその場で軽く飛び跳ねる。
「ご覧の通り」
そう言うユウシアにリリアナは満足げに頷くと、他の面々に感想を求める。
それにアヤが真っ先に、
「強そう」
と答える。
「……強そうって……」
「だってほら、モノクルとか凄い強そうな雰囲気出てない?」
「いや、うーん……」
分かりそうで微妙に分からない。でもちょっと分かる。
そんなどうでもいい思考をしていると、教室の扉が開く。
「あれ、ゼルト」
そこから入ってきたのは、ユウシアと同じく執事服を着たゼルトだった。
「ユウシア……お前も実験台にさせられていたか」
「いや、実験台って……」
うんざりしたように言うゼルトに、ユウシアは苦笑する。
ゼルトは、ユウシアと同じような組み合わせながらも、おかしくない程度に着崩していた。ちなみにモノクルはない。ユウシアも気分次第で外す気ではいるが。
「なんかちょっと表には出せない仕事とかしてそう」
相変わらずのアヤのほわっとした感想。
「表には出せない仕事……それは俺よりもユウシアだろう……」
まぁ、確かに。と頷くユウシア。何せ彼は暗殺者――一応“元”のつもりでいるが――なのだから。ちゃんと貴族の息子の護衛をしているゼルトとは正反対である。
「うん。とりあえず、ゼルトも問題はなさそうね。あとは彼だけど……」
頷いたリリアナの言葉に、ユウシアは首を傾げる。
「彼?」
「えぇ。アヤ曰く『イケメン首席』の」
「……あぁ、どこぞのラインとは訳の違う」
「おい! 貴様今私を馬鹿にしたな!? したんだな!?」
「はぁっ……ラインリッヒ様、少しは落ち着きをですね……」
流れるようにラインリッヒを煽るユウシア、それにあっさり乗っかるラインリッヒ、ため息まじりに窘めるゼルト。そんな彼らを無視して、三度扉が開く。
その瞬間教室を取り巻く黄色い歓声――は、別にないが。さすがに騎士を目指す者となれば落ち着いている。だが、少なからぬ女子生徒が頬を染める。
扉から入ってきたのは、言わずと知れたイケメン首席、ラインハルト・グランシス。そんな彼の格好は――
「ホストだ」
そんなアヤの呟きに、ユウシアは全力で首を縦に振る。
上着の前は開き、ウェストコートはそもそも着ず、タイも着けずにシャツの上の方のボタンを開け、手袋もない。あとは多分カラーステイもない。モノクルは言わずもがなである。
そんな、着崩しに着崩したラインハルト君だが、謎に似合っているのだから不思議なものだ。
「いやぁ、あまり窮屈なのは好きじゃないからこうしちゃったけど……平気だったかな?」
そう、リリアナにニッコリ笑って聞くラインハルト。普通の女子なら、そこで赤面でもしそうなものだが――
「……そうね、いいんじゃないかしら? 多分それで平気なのはあなただけだと思うけど」
ラインハルトの姿をじっくり見分したあと、リリアナは頷きながらそう答える。そのどこにも動揺は見られない。
「そうか。それならよかったよ」
それを受けたラインハルトも、至って普通の様子なのだから、彼の言動が別に意識してのことではないことがよく分かる。
(いつだか……っていうかついこの間も、女ったらしだのすけこましだの言われたけど……それ全部ラインハルトに言うべきだよな)
ユウシアが思ったそれは、多分、口に出せば男子の全員と女子の一部が揃って肯定したことだろう。
めんどいんで定型文やめました。