子守
「……アヤさん、本気で言ってます?」
思わず敬語になってしまうユウシア。
「もっちろん!」
それに、目を輝かせながら頷くアヤ。一応記憶喪失なはずなのだが、こういうどうでもいいことに限って覚えているらしい。
「あの……アヤさん、その、メイド&執事喫茶……というのは?」
そんな彼女に、リルが手を上げて質問する。
「ん? そのまんまだよ。メイドとか執事になりきって接客する喫茶店のこと。出し物でやるんだし別に喫茶店じゃなくってもいいんだけどね」
「その、メイドや執事になりきる、というのに、一体なんの意味があるのでしょう……」
全く分からない、というように眉を顰めるリル。むしろその質問の意味が分からないと首を傾げるアヤだが、ユウシアの方はその理由に思い至り、あぁ、と小さく声を出す。
地球の、特に日本では、まずメイドや執事なんてものはほとんど空想上の存在だ。もちろん本当にそういう仕事はある訳だし、日本国内でも本当にそれらの仕事をしている者もいるのだろうが、まず関わることはない。だからそういったものをコンセプトとした飲食店に需要があった訳だが……この世界では、貴族や王族が普通に存在する以上、メイド・執事という存在もありふれたものになっているのだ。何も珍しくもないそれらをコンセプトにするなど、一体どういうことなのだ、と、この世界の住人からすればなってしまうのだろう。
答えに困るアヤに代わり、ユウシアが口を開く。
「メイドとか執事って言っても、本当にそういうのをやる訳じゃないんだよ。例えば、メイド服なら、フリルを付けてみたりスカートを短くしてみたりして可愛らしく改造する。執事服だって、改造するのは少し難しいかもしれないけど、実際に執事の仕事をする訳じゃないんだから多少着崩してみたっていい。普段メイドや執事の給仕を受けられない平民の人達はもちろん、貴族の人達にだってとても新鮮に写ると思う。接客だって自分自身の個性を活かして出来る訳だからな」
「……なるほど。確かに、王城の使用人達は皆同じような態度で、顔を隠してでもいれば判別出来なくなりそうなくらいだが……ある程度設定に沿った上で、接客、という範囲を越えていなければ、固くなりすぎずに自由に出来るのか」
ユウシアの言葉に頷くフィル。
「そういうこと。まぁ、いきなりだったから驚いたけど、いいんじゃないか? それなら服も皆同じデザインに出来るから時短になるし、なんなら料理担当の人達が着てたって違和感ない……よな?」
「はい。王城では、基本的には料理はちゃんと料理人が行いますが、一応使用人も全員料理が出来るように教育されていますから」
「うちもそうね」
リル、リリアナに続き、他の貴族家の人達も頷く。
「よし、それじゃあその方向で……アヤ、悪いんだけど、内装だけじゃなく服のデザインも手伝ってもらっていいか?」
「お任せあれ。思いっきり改造してあげるよ!」
「あたしは服にはうるさいわよ。覚悟しなさい」
「よし。それじゃあ、大体決まったところで各々準備開始――じゃない。今更だけど先生、こんなに時間取っちゃってよかったんですか? ほら、授業とか」
言われてみれば、みたいな顔をするクラスメイト達。成り行きで昨日今日と学園祭の会議をしてしまったが、授業はよかったのだろうか。
「本当に今更ですね……駄目だったら止めていますよ。学園祭までの半月は、準備期間として授業はなくなっています。だからこのタイミングで言ったというのもありますからね」
「本当は?」
「忘れてただけあちょっと待ってください拳を握らないでと昨日も」
マジで殴っちまえよ、と、またしてもクラスメイトのほぼ全員が思った。
「……こほんっ。とりあえず、店名などは後で決めるとして。とりあえずの方向性は、その、メイド&執事喫茶? ということでいいですか?」
ヴェルムの確認に全員が頷く。
「分かりました。いやーよかったですよ。今日の職員会議までに自分が担任するクラスの出し物についての資料を提出しなければならなかっひぃっ!?」
ニコニコ笑うヴェルムの頬を掠め、ナイフが黒板に突き刺さる。
「……先生、その怠け癖、どうにかして矯正した方がいいようですね?」
ナイフを投げた姿勢のままいい笑顔をするユウシア。“いい”感じに恐怖を誘う“笑顔”だ。
「あ、あははは……えっと、準備、頑張ってください!」
ヴェルムは全速力で逃げ出した!
「ごめん、ちょっと任せた」
ユウシアもそれを追って飛び出した!
「……いつからユウシアの役目は子守になったのよ……」
ボヤくリリアナだが、他の皆は思った。
(((いつから先生は子供になったんだ……)))
と。
結構昔からかもしれない。
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といった具合に、定型文を少し増やしてみる。