再生
「っ……」
ユウシアは、思わず歯噛みする。
戦闘開始から既に三十分が経過した。それだけの時間が経ったというのに、状況には全くと言っていい程変化がない。
相手の攻撃はユウシアには当たらない。反対にユウシアの攻撃は当たっているのだが――
「……また、か」
切り飛ばした触手がすぐさま生え変わる。
そう、再生するのだ。どこを切っても、どう攻撃しても。
更には、毒すらも効いていない様子だ。一応、一滴で都市一つ余裕で壊滅させられるとまで言われた毒を大量に塗りたくっていたのだが……。
「でもまぁ、そこはあまり期待してなかったんだけ、どっ!」
向かってきた一際大きな触手を蹴り飛ばす。
互いにダメージというダメージを与えられず、戦いが進まない。しかしだからといって、このままずっと決着が付かないという訳でもない――それは、ユウシア自身が一番よく分かっていた。
再び向かってくる触手。今度は一本だけではなく、四方八方から迫り来る。その速度は、最初と比べても全く衰えていない。
――対して、ユウシアは。
「ぐっ!」
軽く、掠めた程度。しかしそれでも、とてつもない速度で向かってくる触手に当たれば、その衝撃は計り知れない。
ユウシアは、その衝撃に従い、大きく横へ吹き飛ばされてしまう。
このままでも、いつか決着が付く――その理由。
動きの変わらない相手。動きの衰え始めたユウシア。その違い。
「――っ、はぁっ、はぁっ……」
そう、疲労だ。
ユウシアは、何度か息を吐きながら、頬を滴る汗を拭う。
相手は疲労を知らないようだが、ユウシアは違う。人間、というか普通ならどんな生き物でも、激しく動いていればいつか疲れが来るものだ。ユウシアは日頃の訓練の成果でその訪れも遅い方だが、疲れ知らずが相手では大したアドバンテージにはならないのだ。
「痛っ……」
右腕に走る痛みに顔を顰めるユウシア。見ると、触手に殴られた部分は服が裂け、内出血で青くなった肌が露出している。
(そこまで深手ではないし、全然動くけど……多少鈍るのは避けられない、か。マズいな……)
一瞬の判断ミスが命取りになるような相手だ。大した変化でもなく、しかもその場所は腕。移動の障害になる訳ではないが、右腕への被弾が増えてしまう可能性がある。
「ったく……」
ユウシアは小さく呟くと、グッと身を屈め、向かってくる触手を意に介さず、むしろそちらへと真っ直ぐに向かっていく。
「リルに怒られるな、これはっ!」
声を上げ、短剣を振るい、更にはバラ撒いたナイフを風魔法で動かし、全方位から斬りつける。
バラバラになる化け物。しかし――
「――やっぱり。ここまでやっても再生するか……」
先程の様な速度こそないが、それでも確実に再生を始める化け物。だがその途中で、破片は炎に包まれる。まだ周囲に残っていたナイフの能力を使ったのだ。
それでも再生を続ける化け物。いつかはこの炎も消えるだろう。結局、大した時間稼ぎにもならない。
その少ない時間を使って、攻略法を考え始めるユウシア。
(この感じだと、魔法は大して効きはしない……毒はもう試したし、やっぱり直接倒すしかないだろうけど……)
ユウシアは、寄り集まる破片をチラリと見る。
(何か核でもあるのかと思ったけど、ここまでバラバラにしても何も出てこないとなるとその可能性はないか……)
もしあったとしても、これで出てこないのなら相当な小ささだ。正直やってられない。
考えるユウシア。
「……そうだ」
何かを思いついたのか顔を上げる。
(何故今、俺はこうゆっくりと考えていられる? そう、再生が遅いからだ。単純に細かすぎて再生に時間がかかっているのか、もしくは――)
もし、想像通りなら。
「……行ける」
ユウシアは呟くと距離を取り、再生を待つ。
そう経たないうちに再生を終えた化け物。顔も何もないが、どこか怒りを滲ませて、今までで最も多くの触手をユウシアに向ける。
そしてユウシアはそれを――
「ハァッ!!」
全て、切り落とす。
特別、声を上げる訳ではない。
しかし、怒りのような感情を強くした化け物は、今切られた触手を引っ込め、残った触手で攻撃してくるが――
ユウシアは、今切った触手から目を離さない。
触手は再生を始める。それを見たユウシアは――
「よし、これでっ!」
小さく笑いながら言うと、今相手にしている触手を切り落とす。
先程までは、あまり反撃もしていなかったので気が付けなかった。
だが、意識していた今ならハッキリと分かる。
小さな、本当に些細な変化でしかない。だが確実に、
「再生が、遅くなってる……!」
これなら、攻撃し続ければいつかは再生出来なくなるはずだ。
ユウシアは短剣を持ち直すと、一つ息を吐き、化け物へと向かって行った。
再生持ちが相手って面倒ね。倒し方を考えるの。
もう出さねっす。絶対おざなりになる。今回だってなんか雑だもん。
面白ければ、ブクマ・評価よろしくお願いします!