同時使用
試験――といっても、そんな堅苦しいものでは無く、少しゲーム的に、隠れんぼ(本気で隠れたユウシアを探す)でもやろうかと思っていたのだが、正直、先日の南部の様子からするとそれどころでは無い。
と、いったようなことを、ユウシアは自室に集まった皆に話す。
「うむ……まぁ、仕方無いだろう。今はそれよりも、問題解決に動くべきだ」
心の底からそう思っているのだろう。フィルは少しも残念がること無くそう言う。
そして、それに同意するように頷くシオン。
「そうですね。ユウシアさん、体調の方は……」
心配そうに見てくる彼女に、ユウシアは小さく笑ってみせる。
「大分長い間休んでしまいましたから。もうすっかり。すみません、ご迷惑を……」
「いえ、謝るにしろ、礼を言うにしろ、それはリル様に。ずっとユウシアさんに付きっきりでしたから」
「そうだよー。休んだ方がいいって言っても、離れる訳にはいきませんからーって。リルを休ませるのが一番大変だったよ」
ユウシアの言葉に首を振るシオンに付け加えるようにして、アヤが苦笑する。
そして、
「リル……そうだったんだ、ありがとう。……でも、自分の体も大切にしてくれ」
「……はい。それで倒れでもしたら、今度は目が覚めたユウシア様を心配させてしまうとは分かっていたのですが……どうしても、ユウシア様のお側を離れたくなくて……」
「リル……」
「ユウシア様……」
周りに人? いないでしょ? とでも言いたげに、二人の空間を作り始めるバカップル。
「え? あたし墓穴掘ったの? えー……回避厳し過ぎでしょこの二人……」
正直、こんなものを見せられても目に毒でしか無い。精神的に来るのだ。なのでアヤも、無意識の内にこうしたイチャイチャに発展しそうな発言は避けていたのだが……たまに予想外の場所から発展したりするのだ。
「…………」
無言でアヤの肩に手を置き、首を振るフィル。
「…………」
それを見て、同じく無言で頷くアヤ。
今、二人の意思は一致した。すなわち、「もうダメだこりゃ」と。
それからしばらくして。満足行くまでリルとイチャついたユウシアは、空気に徹していたラウラに声をかける。
「ちなみに、ラウラ。俺が倒れた理由、分かったりする?」
ただいきなり倒れただけならまだしも、この前の状況から推測するに、あの体調不良は明らかに水晶武装が関係しているはずだ。何せ、〔殲滅ノ大剣〕を出そうとした瞬間の出来事だったのだから。そう考えるのが自然だろう。
そしてそうなると、原因について聞く相手はラウラ以外にはいないのだ。
「一度、ユウさんから話を聞く必要はありますが……予想、なら」
「教えてくれ」
「それは構いませんが……」
ラウラはユウシアの言葉に頷きつつも、周りに目を向ける。皆にはあまり聞かせられない話ということか。
「……分かった。ごめん、ラウラと二人だけにして欲しい」
その意図を汲み取ったユウシアは、皆にそう頼む。
「……どうしても、いけませんか?」
それに、どこか悲しそうに聞くリル。ユウシアは反射的に構わないと答えてしまいそうになるが、グッと堪えて首を振る。
「そう、ですか……分かりました。皆様も……」
リルに押すようにされて、皆部屋の外へ出ていく。念の為ユウシアが気配を追うと、彼女達は下へと降りてリビングに集まっていた。さすがに、聞き耳を立てようとはしないらしい。
ユウシアがそこまで確認したのを察したラウラが口を開く。
「では、ユウさん、教えてください。三日前、何があったのか」
ユウシアは、それに頷くと、倒れるまでの経緯を話し始めた。
++++++++++
「水晶武装の同時使用……やはりですか」
ユウシアの話を聞いたラウラが、納得したように頷く。
「やはり……ってことは、予想通りだったのか?」
「はい。原因はまず間違いなくそれです」
「そうか……でも、なんで同時使用でああなるんだ?」
ラウラはその問いに、「恐らくですが」と前置きしてから答える。
「水晶武装は、元より人の体への負担がとても大きいんです。ユウさんも、使った後は普段より疲労が大きかったんじゃないですか?」
「……そこまで気にする程でも無かったけど……言われてみれば」
「今のユウさんは私と半分同化しているようなものですから、ある程度の負担は私の神としての力で軽減することが出来ます。一つだけであれば、その程度の変化でしょう。ですが……二つ以降は、ユウさんが持っているだけの私の力では、弱すぎて軽減しきれないのです。オーブというものは、元は神々の所有物ともされています。あまりに古い話なので、私ですら詳しくは知りませんが……軽減出来なかった分が全てユウさんに行った結果、その負担に堪えきれなかったのでしょう」
「そうか……分かった。とりあえず同時使用は控える」
「はい、それがいいと思います。とはいえ同時使用出来た方が圧倒的に便利ですから、方法を探しておきますね」
「うん、よろしく。……さて、皆のところに行こうか」
今現在、最も重要な話がある。それを皆にして、あまり本意では無いが、協力を求めるのだ。
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