都合のいい耳
どうでもいい話。
最近、男女比がおかしくなってる世界のお話が増えてきてる気がします。ちょっとだけ。所謂、合法ハーレム(?)のやつですね。
結構好きなんだけど、俺にはあんな口から角砂糖を全力で凝縮して圧縮したものをいくつもまとめて練り上げて作り出したナニカを連続で射出し始めそうな話書けねぇよ……。
あ、でも、今回は、砂糖二、三粒なら吐き出せるかも?
「「…………」」
沈黙が流れる。
唇を合わせたまま、二人とも硬直し、動くことが出来ない。
今ユウシアに聞こえているのは、川のせせらぎと小鳥の囀り、どこかで魔獣が鳴く声に、警戒用にと強化していた聴覚による、自身と少女、二人分の早鐘を打つ心臓の鼓動。
『――っ! ――っ!』
余計なことを言わないようにと声を出さないラウラが何かをアピールする様子がユウシアに伝わってくるが、自分の中からのその感情さえ今の彼には届かない。
少女と目が合う。
目を丸くし、呆けた顔をしている少女。ユウシアは、上手く思考の働かない頭で、自分も似たような顔をしているのだろうか、と考える。
互いの心音が、心拍数が際限なく高まっていく。
みるみるうちに赤くなる少女の顔を見て、ユウシアはやっと我に返った。
「〜〜っ、ご、ごめんっ!」
誤りながら慌てて離れるユウシア。そのまま、ズザザッ! と一気に後退する。
十分過ぎる距離を取ったユウシアは、自分の唇に触れる。
(しっとりと湿ってて、すっごく柔らかくって……あれが、女の子の唇の感触……)
そんなことを考えながら、ちらっ、と少女を見ると、彼女も起き上がって、自分と同じように唇に触れている。
(……あの子も、似たようなこと考えてたり……なんて)
などと考えて苦笑した直後、少女と目が合う。
「「っ!」」
その瞬間、全く同じタイミング、同じ動きで顔を背ける二人。
『うー……うー……!』
ラウラが何やら言いたそうにしているが、ユウシアの意識には入らない。
「……初めて、だった……」
少女がボソッと漏らした呟き。その中に、嫌悪感は含まれていないように思える。ちなみに、とても都合のいいユウシアの耳は、丁度この時森のすぐ外を走る馬車の音をキャッチしていた。街が近付いていることもあり、この辺りは馬車がよく通るのだ。
「あ、あの、ユウ君」
「!! な、何!?」
少女に声をかけられ、ガバッ! と顔を上げるユウシア。
「え、えっと、今の、って……な、何で……」
ユウシアが、今度は先程よりも凄い勢いで頭を下げる。……いや、土下座している。見事なまでの土下座だ。
「ごめん! 理由は話せないんだけど、わざとじゃないんだ!!」
ユウシアの謝罪に、少女は首を振る。
「……ううん、いいよ。何でなのかはよく分からないけど、事故、だったんでしょ? ……それに、私も、別に嫌って訳じゃなかったし……」
「え?」
今度も都合のいい耳が馬車の音を捉えたせいで最後の呟きを聞き取れなかったユウシアが、顔を上げてキョトンとした間抜けな表情を晒す。
「な、何でもないよ! そ、それより、ユウ君こそ、嫌じゃなかった……? 私なんかと……」
その質問に、今度はユウシアが首を振る。
「そ、そんな! 嫌なんてこと、全く! むしろ嬉しっ……あ」
変なことまで口走りそうになった……というか、八割方声に出してしまったユウシアと、少女の目が合う。
「「……ぷっ」」
二人同時に、何故か吹き出してしまう。
「あはっ、はははっ、あはははははっ!!」
「ふふふっ! 可笑しいな、ユウ君、私と同じようなこと思ってたなんて……!」
「え?」
「……あ、えっと、ワタシ、ナニモイッテナイヨ?」
「ふっ、はははっ!」
今度は少女がおかしなことを口走り。誤魔化してみると、ユウシアが再び笑い始める。
「もう。ユウ君、笑ってばっかり!」
「ごめん、ごめん。君、片言なんだもん! ……って、あれ?」
笑い過ぎて出てきた涙を指で拭いながら謝るユウシアが、何かに気付いたように動きを止める。
「ユウ君? どうしたの?」
「……俺、共通語で喋ってたんだけど……。それに、君も」
「え」
そう。あのキスの後、ユウシアは聞き取れなかったが少女の最初の呟きのときから、彼女はずっと共通語で喋っていたのだ。それがあまりにも自然でユウシアも普通に共通語で会話をしていたが……。
「……つまり、私、共通語を――この世界の言葉を話せてるの?」
「うん。間違いない」
ユウシアが頷きを返すと、少女が感極まったように涙を浮かべる。
「え、ちょっ、なんっ――」
で、と続ける暇もなく、少女が飛び込んでくる。
ユウシアが慌てて受け止めると、少女はユウシアに抱きついたまま顔を上げ、嬉しそうに笑う。
「やった、やったよ! これで私、ユウ君と一緒にいられるんだね!!」
「……そう、だね」
ユウシアも微笑みながらそう返す。
(共通語を話せるかと連れて行くかは関係なかったと思うんだけどなぁ……)
と、頬をかいて、困ったように。拒絶することは、何故か出来なかった。
ユウシアは、かつて幼馴染にしていたように、幼馴染にそっくりの少女を軽く抱きしめて、そのサラサラな髪を手櫛で梳き始める。ユウシア自身もこれが好きだったし、綾奈もこうされると嬉しそうに目を細めて笑っていた。
そして今、目の前の少女も。
「……んっ、何でか分かんないけど、すごく落ち着く……ユウ君、しばらくこのままでいい?」
「もちろん」
(……ありがとう、ラウラ)
幸せそうな少女を見ながら、ユウシアは心の中で、少しおっちょこちょいな、しかし大事な時には頼りになる女神様にお礼を言う。
ユウシアは、自分の中にいるラウラが、いつものように誇らしげに、そして嬉しそうに胸を張りながら、聖水の効果が切れたのか消えていくのを感じていた。
サブタイ思い浮かばなかったんすよ。そこをサブタイにするのはおかしいって分かってるのに。
え? 耳もそうだけど馬車のタイミングが都合よすぎ? いや、だって、聞き取れなかった方がいい呟きってよくあるでしょ? ご都合主義ご都合主義。