流し合い
最近早めに書くようにしてたんだけどなぁ……。
その分少なくとも男性にはとっても嬉しい展開になってると思うので許してください。いや、遅れずとも内容そんなに変わらなかっただろうけど。
「〔蹂躙ノ光刃〕。――奔れ」
ユウシアの周りに広がる数十もの光刃が、巨大な虎に襲いかかる。
「グォォオオオッ!!」
その物量に圧倒され、成す術無く倒れる虎。
「数の暴力って恐ろしい……それにしても、まさか東部にこんな魔獣がいるとは……」
ラウラを襲った悲劇から一日。ユウシアは、魔の森の調査のためまずはロックべアの本来の生息域である東部を訪れていた。
その結果、東部に本来いるはずの無い魔獣――エッジタイガーの存在が確認された。それをたった今、ユウシアが討伐したのだ。
ちなみにエッジタイガーは、サーベルタイガーのように牙が剣のように鋭い――どころか、刃そのものになっている魔獣である。そこらの剣など相手にならない程鋭く、強靭な牙だ。正直、これを折ればそのまま剣として使えるレベル。鍛冶屋は泣いていい。
「こいつは本来南部奥地にいる魔獣だったかな……やっぱり予想通りか。次は南部の調査……いや、その前に念の為西部を見ておくか」
真っ先に異常のありそうな東部を最初に調べるのは決まっていたが、その後どう見るかは決めていなかった。南部の異常はほぼ決まったようなものではあるが、まずは北部に、つまり森の外に近い西部を見るべきだとユウシアは考えたのだ。
「……よし。もう一度だけ東部を見てから西部に行こう。北部は異常があればラウラ達がなんとかしてくれるだろうし……まぁ、今日はそれで終わりかな」
++++++++++
「ただいま。ラウラは……まだか」
結局西部には特に目立った異常は無く、南部は明日に回すことにして帰宅したユウシア。ラウラに北部の様子を聞こうと思ったのだが、まだ帰ってきていないようで、姿が見当たらない。
「ていうか、誰もいない……? 外出は控えるように言ったけど、禁止してた訳じゃないし、どこか出かけてるのかな……まぁいいか、風呂入ろ」
さすがに動き回って汗をかいたので、それを流そうと風呂場へ向かうユウシア。
(明日……いや、さすがに南部となると数日かかっちゃうかな……何があるか分からないんだし、慎重に……)
そんなことを考えていたせいか。
ユウシアは、脱衣所にいくつか置かれている籠の一つに服が置いてあることに、気が付かなかった。
「〜♪」
呑気に口笛など吹きながら、服を脱ぎ、風呂場へと続く扉を開けたユウシア。その向こうには――
「……へ?」
「きっ……きゃぁぁぁあああっ!!」
一糸纏わぬ、リルの姿があった。
「ごっ、ごめんっ!」
状況を認識し、慌てて扉を閉めるユウシア。
「ユっ、ユユユユウシア様、何故ここに……」
扉の向こうから聞こえる、動揺しきったリルの声。
「いや、汗を流そうかと……ごめん、リルがいるって気付かなくて……考え事してた」
「そ、そう、ですか……」
「…………」
「…………」
超気まずい。
「えっ、と……お、俺、部屋行ってるね……」
説教なら後でいくらでも聞きますから、なんて思いながらそう告げて、その場を離れようとしたユウシア。しかし、
「あ、あの、ユウシア様っ!」
呼び止められて振り返ると、何故か扉が開いていて、その向こうには顔を真っ赤にしたリルがタオルで申し訳程度にその身体を隠しただけで立っているではないか。
「リル、さん?」
目を離すことが出来ずに、彼女を見たまま戸惑いの声を上げるユウシア。
「ユウシア様、わ、私に、お背中を流させては頂けませんか……?」
「え、せ、背中? いや、なんで……」
リルの考えていることがいまいち理解出来ないユウシア。それはまぁ、突然美少女に背中を流させてくれと言われても困るのは当然だろうが。
「えっと、その……ユウシア様には、いつもお世話になってばかりで……この程度でお礼と言うのもなんですが……」
「そんな、お礼だなんて! 俺の方こそリルには……」
「でっ、ではっ! な、ななな流し合いということでっ!!」
「えぇっ!?」
と、驚きの声を上げてから、リルの目を見たユウシアは気付いた。
(あ、これ、テンパって自分でも何言ってるのか分かってないパターンだ)
気付いた、というより、悟った、と言うべきか。ともかく、リルにしては珍しいことだが、思えばユウシアが最初に扉を開けてしまったのが悪いのではないだろうか。
「……わ、分かった」
ゆっくりと頷くユウシア。あくまで、あくまで罪滅ぼし的なアレだ。欲望に負けた訳では、決して無いのだ。
++++++++++
(すっご、肌キレイ……スベスベでツヤツヤで……なんだこれ)
「……ゴクッ」
椅子に座り、恥ずかしいのか俯いているリルの後ろに、ユウシアは膝をついていた。目の前にはリルの美しいとまで言える背中。
肌の質感、色艶は言わずもがな、余計な肉は全く無く、だからといって筋肉質という訳でも無い。薄っすらと浮き出た背骨のラインすらその美しさを強調する一つのアクセントだ。髪の隙間から覗く赤く染まった耳もまたなんとも艶めかしい。そして――
(む、胸が、はみ出ていらっしゃる……)
背中から見える横乳。男としてはもう、なんというべきか……たまらないものがある。
先程思わず喉を鳴らしてしまったユウシアだが、それもまた仕方のないことなのだ。
「……い、いくよ……」
「は、はい」
ユウシアは、石鹸を手で延ばす。なんということかスポンジもタオルも何も無く、体を洗うには素手でやるしかないのだ。
「すぅー……ふぅー……」
一つ深呼吸をしたユウシアは、覚悟を決めてリルの背中に手を付ける。
「ひゃんっ!」
その瞬間声を上げるリル。
「ご、ごめん、冷たかった?」
「あ、い、いえ、大丈夫ですわ……そのまま、続けて下さい」
「う、うん」
ユウシアは、手についた石鹸をリルの背中に擦り込むように動かしていく。
「んっ……あっ、ひんっ」
(無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心)
動かす度に変な声を上げるリル。ユウシアは暗殺者時代に培った感情制御テクニックを駆使して必死に無心を保つ。既に駆使出来ていない可能性も無きにしもあらずだが。
そうして、天国とも地獄ともつかない数分間が過ぎ。
「流すよ」
「はい」
ユウシアは、リルの部屋にあったものを参考に帰って来てから数時間で作り上げた魔石シャワーで彼女の背中を流す。
「――はい、終わり」
「ありがとうございます、ユウシア様」
と礼を言うリルだったが、次はユウシアの番だというのに、立ち上がる気配が無い。
「……えっと、リル?」
「ユウシア様……」
リルは、振り返り潤んだ瞳をユウシアに向ける。
「前は、流して下さらないのですか……?」
「やらんよ」
その瞳の奥にある悪戯心をしっかり見抜いていたユウシア。無表情で断る。
「……分かりました。そちらは結婚してからということですわね」
「いや、そういう訳でも……うーん?」
ない、と言い切れずに、首を傾げるユウシア。リルはそんな彼にクスクスと笑うと、立ち上がって席を譲る。
「ではユウシア様、次は私がお背中を流させて頂きますわね」
「……ゴクッ」
もう一度喉を鳴らしてしまうのも、まぁ、仕方のないことだ。
先程までリルが座っていた場所に座るユウシア。後ろにはリルの気配があり、彼女の小さな息遣いだけがユウシアの耳に届く。
「では、失礼致します……」
ピトッ。
「ん゛ん゛っ!?」
驚愕の――というか、明らかにおかしい声を上げるユウシア。と、いうのも。
(いや、ちょっ、明らかに手の感触じゃないんだけどこれっ!? ヤバい超柔らかい!!)
「んっ……ふっ……」
リルの息が若干荒くなっている。それにこの柔らかさ。まさか、まさか、とは思いつつも、ユウシアは聞かずにはいられなかった。
「……あの、リルさん? 今、何で洗ってらっしゃいます……?」
「…………」
リルの動きが止まる。少しして、ユウシアの体に回される腕。
(あぁ、抱きつかれても背中の感触が変わらないということは、つまりそういうことですね)
ユウシアは現実逃避気味の思考を。そんな間に、リルはユウシアの耳元に顔を近付けると囁く。
「お義母様に、殿方はこうされると喜ぶと伺いましたので……お嫌、でしたでしょうか?」
「よろしくお願いします」
ラウラめなんてことを教えているんだとか、それとは反対によくやったラウラだとか、そんなことを思う暇もなく答えるユウシア。すっかり骨抜きである。
「ふふっ……」
リルは小さく笑うと、ユウシアの頬に軽く口づけしてまた動き始める。
――その後、風呂を出ると全員帰って来ていたのだが。何故かいつも以上にリルにぞっこんなユウシアがとてもウザかったと、皆の中でユウシアに対して一番容赦の無いアヤは語る。
はい。ユウシア君アレで洗ってもらってますね。羨ましい死ねばいいのに。
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