失恋
暗い感じの前話。所々行間とか開けてみたりした方が雰囲気出るのかな、と思った。思っただけ。気が向いたら修正するかもしれない。
あ、今日はラブコメしてます。
「おっ、王女様と知り合いっ!? 王立騎士学校ぅっ!?」
ユウシアから別れた後のことを聞き、飛び上がらんばかりに――というか、実際にちょっと飛び上がって驚きを表現するカンナ。
「う、うん、まぁ、色々あって」
それにこちらも驚いたようにしつつも、ユウシアはそう返す。
「い、色々って……そんな簡単に言っていいことじゃない気がするんだけど……でもそうだよね、ユウシア君強かったもん。村を襲ってきた魔獣も簡単に倒しちゃったりして」
「おかげで首席なんてものをやってるけどな」
「しゅせっ……!? し、しれっと言うけど、それ相当……田舎者の私でも分かるくらいには凄いことだよ……?」
「……あんまり、首席って感じの扱いされてないからなぁ」
遠い目で虚空を見つめるユウシア。なんの偶然か、その視線の遠い先にはヴェルムが。彼は学長室で、人知れずくしゃみをしていた。
「そ、そうなんだ……それで、戻ってきたのは?」
「ん……あぁ、単純に帰省だよ。長い休みに入ったから。まぁ、帰省って言うには客が少し多いんだけどな」
「お客さん?」
どういうことだろう、と首を傾げるカンナに、ユウシアは頷いて答える。
「さっき話したと思うけど、空から降ってきた女の子に、王女姉妹の二人。あと、修行をつけてほしいとかなんとかで五年生の先輩が一人」
「……その先輩って、女の人?」
「うん、そうだけ――どっ!?」
再び頷きながら、先程の問いかけの声が少し冷たかった気がしてカンナを見るユウシア。彼女は、なんというかこう、とっても怖い顔だった。ユウシアはすぐに顔を背けたのでそれしか分からなかった。でも多分、ちゃんと見ていたとしても「般若のような形相とはこのことか」とか、そんな下らないことしか浮かばなかっただろう。
「えーと……カンナさん、どうされました……?」
思わず敬語になりつつ、顔は相変わらず背けたままで聞くユウシア。
「ユウシア君? 呼び捨てでいいんだし、敬語もいらないんだよ? それにほら、こっちを見て?」
(すみませんとても怖いのですが拒否権は認められますでしょうかカンナ様)
残念ながら認められなかったようで、ユウシアは無理やりカンナの方を向かされていたが。
「ねぇユウシア君、やけに女の子が多いんだね。そういうの、世間では『はーれむ』って言うんだって。おかしいね。前に聞いたときは何も思わなかったんだけど、今自分で口にしてみると敵としか思えないや」
ハーレムとな。いやまぁ、意味は知っているが。なんて考えるユウシア。どうやらカンナはまだそこまで理解出来ていないようなので、とりあえず誤魔化してみる。
「ハムみたいな名前だな」
(間違えたぁぁあああっ!!)
元は優秀な暗殺者だったユウシアでも、何かを隠すときに選択を間違えることだってあるのだ。
「私はベーコンの方が好きだなー」
(えっ!? 誤魔化せたっ!?)
「なんて言うと思った?」
現実はそう甘くは無い。
しかしカンナは、特に怒るでも文句を言うでも無く、前を向いて目を閉じると、一度深呼吸。そうして真剣な表情を作ると、ユウシアをまっすぐに見つめ、口を開く。
「……ねぇ、ユウシア君。約束、覚えてる?」
「約束?」
「うん。ユウシア君、言ったよね。……今度会ったときは、ちゃんと返事する、って」
「……あぁ」
確かに言った。別れ際、ハッキリとそう言われた訳では無いが、ユウシアへの好意を表すような行動に、返事はまた、と。
「今度は私、ちゃんと言うね」
カンナはそう言うと、もう一度深呼吸をして、口を開く。
「好きです、ユウシア君」
「っ……」
そう自分に告げるカンナの、一片の曇りも無い綺麗な、まっすぐな瞳。しかしユウシアの答えは、当然、決まっている。
「――ごめん、君の気持ちに応えることは出来ない」
そう、この前とは違い、ハッキリと。
「そっか……そう、なんだ……っ。ね、ねぇ、ユウシア君。理由、聞いても……いい、かな……?」
そう、震えてしまう声を必死に抑えながら、カンナは聞く。ユウシアはそれにどう答えるべきか一瞬悩み――
「好きな人が、いるんだ」
カンナに嘘はつきたくない。中途半端な誤魔化しなんて以ての外。でも、全てを話す訳にはいかない。だからこれが、ユウシアに最大限話せること。
「……そうだよね、王都ともなれば綺麗な女性もいっぱいいるもんね……ねぇユウシア君。もしかしてその人って、さっき言ってた人の中にいたりするの?」
気丈に微笑むカンナ。
(……強いな)
ユウシアはそう思いながら、恐らくは必死に取り繕っているのであろうカンナに乗っかる。
「ノーコメントで」
その答えは、なんとも雑なものであったが。
「ふーん……私からユウシア君を奪ったのがどんな人なのか、知っておきたかったんだけどなぁ」
「奪ったって……でも多分、その内分かる」
「その内? うーん、よく分からないけど分かった。――それじゃあ私、そろそろ戻るね。実は、少し離れたところに馬車を待たせてるんだ」
「そうなのか。それは悪いことしちゃったかな」
「ううん、平気だよ。……ユウシア君、またね」
会えるかどうかは分からない。だが、必ずまた会うと、そんな意思を込めて、カンナは手を振る。
「……うん、また。次は、村の皆にも会いたいかな」
「それじゃあ、ユウシア君の気配がしたら皆を集めなきゃ」
「はは、なんだそれ。……じゃあ」
「うん」
ユウシアは手を振ってその場を離れる。カンナはそんな彼をやはり手を振って見送り、その姿が見えなくなると、その場に座り込み、蹲ってしまう。
「……そっかぁ、好きな人が出来たかぁ……ちょっと、遅かったみたい……あーあ、せめて、直接、対決したかった、なぁ……うっ、ぐすっ……うあぁっ……」
ユウシアの前でこそ気丈に振る舞ったが、人生初の、そして多分、人生最大の失恋だ。カンナは、気持ちを抑えることが出来なかった。
――そしてユウシアは、姿が見えなくなる程離れた場所からも、その強化された聴力で彼女のすすり泣く声を聞いていた。
(……ごめん。でも俺は、決めたから)
一夫多妻制が認められていない訳では無いらしい。だから、カンナの言う、ハーレムという道もあったのだろう。しかしユウシアは、彼女に、リルに告白したその瞬間に決めたのだ。
彼女を死ぬまで愛し抜き、そして、護り抜くと。
ユウシアは、空を見上げてひとりごちる。
「……あぁ、リルに会いたいな」
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という定型文を、忘れなければ乗っけておくことにしてみた。
↑というのを「ぼっち。」の方からコピペして来た。