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“元”暗殺者の転生譚!  作者: 浅野陽翔
夏休み、帰郷
125/217

強力な

「前のより硬かった……かな?」

 腹のあたりから真っ二つにするつもりで剣を振るったのに、皮膚を凹ませるだけで済んでしまったロックべアを見て、ユウシアは呟く。前に戦ったロックべアは落石で仕留めたため、ちゃんとした硬さは分からないものの、少なくとも〔殲滅ノ大剣〕を使っても切れない程硬いようには思えなかった。

「前より強力な個体にも関わらず追われた、か……強力な魔獣がいる可能性、大分濃厚になってきたな……」

 あー嫌だ嫌だ、なんて、軽い口調で言うユウシア。周りに一瞬目を向けると、家に帰るべく踵を返す。

 ユウシアの姿が見えなくなって少し。次々と現れた魔獣達によって、ロックべアの死体は骨すら残さず消え去った。


++++++++++


「ただいま」

 ユウシアが扉を開けると、家の中にいた者達の視線が一斉に彼の方を向く。

「……どうしたの、皆して」

「ユウシア、ロックべアは?」

「ん? あぁ、ちゃんと倒したよ。周りに結構な数の魔獣がいたし、今頃魔獣達の餌にでもなってるんじゃないかな」

「あれ程の硬さの魔獣が、餌に、ですか?」

「ロックべアは、死ぬと皮膚が徐々に柔らかくなっていくんです。おかげで、逆に利用価値が無くなっちゃうんですけど」

 皮膚が硬いままなら、加工こそ難しいものの、特に防具の素材として有用だっただろう。しかし、死後しばらくしたロックべアの皮膚はとても柔らかく、とても防具になど使えない。肉も臭みが強すぎる上に超が付く程の筋肉質で食べられたものではないし、他に使えるような素材も特に無い。ロックべアは死してなお残念だった。

「……それよりも、一つ、聞いてほしいことが」

 ユウシアのその真剣な表情に、皆はすぐに聞く体勢に。

「あくまで可能性があるというだけなんですけど……この魔の森に、本来いないはずのとても強力な魔獣がいるかもしれません」

「と、言うと?」

 問い返すラウラ。ユウシアは小さく頷いて続ける。

「ロックべアは、本来魔の森東部の主的存在です。そんな魔獣が北部に現れた理由として、縄張りを追われた、ということが考えられます」

「……つまり、東部に、ロックべアを超える魔獣が現れた、ということか?」

「縄張りを追われたんだとしたら、だけどな。今日フィルと先輩が遭遇したロックべアは、昔俺が倒したものより、大きく、そして硬かった。それだけ強い魔獣を追い出せるとなると、東部に現れた魔獣は最低でも南部に生息する中でもより強力な魔獣と同等以上だと考えていいでしょう。その魔獣が外部から東部に迷い込んだような魔獣ならまだいい。問題は――」

「――その魔獣すら、南部から追い出されたものだった場合、ですわね。そうなると、現在この森には、ドラゴン級の魔獣がいることも考えられますわ」

「その通り、さすがリル」

「そんな、これくらい大したことは……」

 とても自然にリルを持ち上げ始めるユウシアに、照れたように頬を染めるリル。

「はいはい、そういうのは後にしようねー」

 アヤの呆れきった声が。ユウシアは一つ咳払いをすると話を続ける。

「えーと……危険なので王都に帰りたいところではあるんですけど、可能性だけでも浮上してしまった以上調べない訳にはいきません。……できれば、皆には先に帰ってて欲しいんだけど……」

「ユウシア様を危険な場所に残して帰るなど、出来るはずありませんわ」

「……そう言うと思ったよ。念の為聞きますけど、帰りたい人は――」

 そう聞くユウシアだが、手を上げる者は誰一人としていない。

「――ですよね。じゃあ、極力外出は控えるということで」

「ユウシアさん、私達の訓練については……」

「中止――と言っても聞かなそうなので、一応継続ということにします。本当は用心のために俺も付いて行きたいところなんですけど、俺はちょっと森を調べなきゃならないので……ラウラ、代わりに頼める?」

「大丈夫ですよ。訓練に影響を与えすぎない程度にサポート、ということでいいですか?」

「それでお願い。口出しはあまりしないように」

「分かってます」

 “魔の森”とは言うが、その実この森は全体的に神域となっている。そのため、ラウラも自由に動き回ることが出来るのだ。ついでに言えば、分身体とはいえ女神なので、戦闘能力に関しても問題ない。

「そうなると……ごめん、リルとアヤは基本二人だけで留守番ってことになっちゃうんだけど……」

「一人きり、という訳ではありませんから。ユウシア様の帰りをお待ちしていますわ」

「うん、まぁ、それはそれとして……リルが一緒にいるなら暇になることもないと思うし、大丈夫だよ、ユウ君」

「そっか、良かった」

 二人の返事を聞いて、安心したように笑うユウシア。安全のためとはいえ、二人に暇な思いはさせたくなかったのだ。

「では、今日はもうお終いにしてゆっくりしましょう。少し早いですけど夕飯の準備をしますね。リルさん、お手伝いお願いします」

「はい!」

「では私は……シオン先輩、夕飯まで訓練でもどうですか?」

「私も体を動かしたいと思っていたところです」

「じゃあ、あたし部屋行ってるね」

 皆、思い思いの場所に移動する。一人取り残されたユウシアは、

「……俺、どうしよ」

 どこか寂しそうにそうひとりごちるのだった。

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