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“元”暗殺者の転生譚!  作者: 浅野陽翔
夏休み、帰郷
124/217

可能性

「ヘルプ……って、どうしたんですか、二人とも」

 家の中に駆け込むと同時にフィルが上げた声に、ユウシアが小さく首を傾げながら問いかける。

「ロックべア! 北! 出た!」

「うん、まずは文を作るところから始めようか。……まぁ、分かるけどさ。ロックべアか……なんで北部に」

 赤ん坊のようなフィルの言葉に、ユウシアはツッコミを入れてから考える。が、すぐに顔を上げて、

「……まぁ、考えても仕方ないか。とりあえず、二人は休んでてください。ロックべアはなんとかして来ます。リル、水でも用意してあげて」

「お任せ下さい。ユウシア様、お気を付けて」

「頼んだぞ、ユウシア!」

「……本音を言うと、見に行きたいのですが……」

 素直に返事をする王女姉妹とは違い、小さめな声ながらもそう主張するシオン。ユウシアは少し困ったような顔を作って口を開く。

「いや、俺が今からやろうとしてることは、多分先輩が見ても参考にはならないんじゃないかと……どちらかと言うと、ではありますが、フィルの戦い方に近いものですし」

「なんだとっ!?」

「あ、別の方に飛んでった」

 立ち上がるフィルを見て呟くアヤ。今度は「やっちゃった」みたいな顔をしているユウシアも、同じ気持ちのようだ。

「……えっと、それでも参考にはならないんじゃないかなって思うんだけど……ほら、あくまでどちらかと言うとだからさ。俺とフィルじゃ基本が違うんだよ」

「しかし……」

「いいから。イレギュラーには俺が対処する。試験官としての責任だ」

「むぅ……分かった、休んでいる……」

「先輩も、いいですね?」

「……次の機会にするとします」

「まぁ、そういうことでいいでしょう。それじゃ、行ってきます」

 ユウシアはそう残して、家を出て行った。


++++++++++


(さて……前はどう倒したんだったかな)

 今回どうするかは決まっているが、と、ユウシアはフィルとシオンに聞いた場所まで走りながら考える。木々の生い茂る森の中だというのに、その速度は衰えない。いや、下手をすれば、時折枝を跳び移ったりもする分普通よりも速いかもしれない。

「ロックべア、ロックべア……」

 ユウシアは、思い出すために目当ての魔獣の名前を数回呟く。

「……あぁ、そうだ。目には目を、歯には歯を、岩には岩をってことで、落石トラップ仕掛けたんだっけ」

 スキルを手に入れる前、森で暮らしていた頃は、魔獣を倒すための罠作成に四苦八苦していたユウシアだ。その頃を思い出し、懐かしさに目を細める。

「――っと、そんなことしてる場合じゃないな。そろそろだ」

 そうして、二人に聞いたポイントに到着したユウシア。さすがにロックべアは去っているが、彼は二人も見つけたロックべアのマーキングを発見する。

「あまり詳しくは聞いてなかったけど……大きいな。下手をすれば、俺が前に戦ったのよりも……そんなのが、北部に? 東部の主であるあいつなら、わざわざこっちに来る必要も無いはずなのに……」

 魔獣に限らず、獣が縄張りを離れ普段はいないはずの場所に現れる理由。ユウシアには、それに一つしか心当たりがなかった。

「……まさか、縄張りを追われた? 自分よりも、強力な魔獣に……」

 となると、現在東部には、ロックべアよりも強い、魔の森最奥地――南部に生息する魔獣と同等以上の強さの魔獣がいる可能性がある。それも、南部の中でも特に強い方に位置する強さの、だ。

「そんな魔獣がいるとして、そいつが南部を離れた理由もまた同じだとすると……少し、マズいな」

 そうなると、今この魔の森には、世界でもトップクラスの強さを誇る魔獣が潜んでいる可能性があるのだ。屈指の危険度を誇る森の最奥地に生息する魔獣より強いとなると、そうなってしまう。

(皆を危険に晒したくはないし、帰省は早めに切り上げるか……? いや、でも、だからといってそんな魔獣がいる可能性を放置する訳にはいかない。いるかどうかだけでも調査する必要があるな……)

「……帰るにしても、軽く調査をしてからだな。フィル達が北部を調べてる間に、反対側を調べておくか……っと、今はそれよりもロックべアだったな」

 とりあえず考えを簡単に纏め、顔を上げるユウシア。と。

「あ」

「グゥ」

 目が合った。

 何と、って、ロックべアと。

「……どうも」

「…………」

 一瞬の沈黙。その後、

「グォォオオオオオッ!!」

「危なっ!」

 フィル達に仕掛けたのと同様突進して来るロックべアを、ユウシアは軽い身のこなしで回避する。

「攻撃力も防御力も高い上に速度もそこそこあるんだけど、頭と反応速度はあまりよろしくないんだよな……」

 そんな微妙に残念さの残る魔獣がロックべアである。

「ま、それは置いておいて、向こうはやる気満々みたいだし、やりますか。〔殲滅ノ大剣〕」

 今回取る策。それは、破壊力最高のこの武器によるゴリ押しであった。真っ正面から倒せるであろう方法があるのなら、わざわざ小細工を弄する必要もないのだ。

「ガァァァァアアアア!!」

 ロックべアは現れた異様に大きい剣に一瞬怯むも、すぐにそんなこと無かったかのように雄叫びを上げ、またも突進する。先程は様子見だったとでも言うのか、それよりも圧倒的に速い。が、

「ハッ!」

 短く一声。と共に、大剣を振るう。

 すれ違った一人と一頭。地に倒れ伏したのは、硬質な皮膚を大きく凹ませた巨大熊であった。

 何やら不穏な気配。まぁ、既に“魔獣の頂点”あたりに位置するドラゴンが出てきちゃってるんですけどね。

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