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“元”暗殺者の転生譚!  作者: 浅野陽翔
夏休み、帰郷
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神秘の領域

「ユウさんユウさん、ちょっといいですか?」

 懐かしのリビングで寛いでいたユウシアに、ラウラが声をかける。

「ん? どうしたの?」

「いえ、折角ですしご馳走にしようと思ったのですが、食材が足りなくって……」

「あぁ、そういうこと。分かった、久しぶりに狩りでも行ってくるよ」

「お願いします……出来れば、お肉だけでなくお魚もあると嬉しいです」

「了解、釣りも行こうか。後は適当に山菜でも見繕えばいいかな」

「さすがユウさん。食料調達はお任せしますね。では私は今ある分の調理を始めています」

「もう? さすがに早くない?」

 まだ時刻は昼をいくらか回ったところ。夕食の準備には早いだろうとユウシアは思ったのだが……

「いえ、作る量が多いですから……種類を増やすのもそうですが、何より人数が多いので、一人だとさすがに手が足りません」

「なるほど、確かに……あぁ、そうだ。ちょっと待ってて」

 ユウシアはそう言い残すと、立ち上がりどこかへ。

 しばらくして戻ってきた彼は、後ろにリルを連れていた。

「あの、ユウシア様? いきなりどうされたのですか?」

 まだ説明はしていないようで、彼女は首を傾げている。

「いや、ラウラと一緒に夕飯の準備を頼めないかなと」

「お義母様と、ですか……? 分かりました、頑張らせて頂きますわ!」

 ユウシアの頼みを聞いたリルは、一瞬ラウラと目を合わせたあと、張り切ったようにしながら頷きを返す。

「と、いう訳で、ラウラ。二人でやれば負担も減るでしょ?」

「ユウさん……ありがとうございます。では、食材の調達はお願いします!」

「任せてくれ。腕が鳴るな……よし、フィルと先輩も連れて行こう。修行の一貫だ」

 となると、アヤだけ仕事がなくなるのだが、それに関しては、

「……まぁ、適当にラウラとリルの補佐にでも付ければいいでしょ。なんだかんだ器用な方だし」

 と、いかにも思いつきの結論が。だが実際に、【芸達者】の影響なのかなんなのか、意外とどんなことでも器用にこなしてしまうのがアヤという人間だったりする。配役としては間違っていないだろう。

「……いや、狩りも出来ないことはないか……? でも、別に戦いに来た訳じゃないしな、フィル達と違って。うん、それがいい」

 そうひとりごちながら、ユウシアはそれぞれに仕事を伝えに行くのであった。


++++++++++


「ただいまー」

 それからしばらく。食料調達を終えたユウシアは、ホクホク顔で扉を開ける。ここしばらく放置していたからなのか、いつにも増して動物達が多かったのだ。おかげで大漁である。魚もいるから間違ってはいない、はず。

「……おー、ユウ君、おかえりー……」

「……何があった」

 出迎えたのは、リビングにあるソファに倒れ込んでいるアヤ。なんかもう、何もかも使い果たしたかのような、そんな雰囲気である。

「いやー……ユウ君、あの二人のサポートはあたしには荷が重すぎたよ……あの二人料理上手すぎだよ、最早何やってたのか分かんないよ……っていうかそもそもサポート必要とは思えないもん……」

「……えっと、うん、ごめん?」

「……こんなあたしが言うのもなんだけどさ、謝るなら後ろの二人に謝ったほうがいいんじゃないかなーって。一体何をしたの……」

 後ろの二人。つまりフィルとシオンからは、今にもアヤと同じ状態になってしまいそうな程覇気というものが感じられなかった。

「ふ、ふふ……アヤ、君と似たようなものだよ……」

「何故……何故ユウシアさんはあそこまで自由に動けるのですか……付いていくのが精一杯、何も出来ませんでした……」

「あはは、まぁ、慣れもあるし……」

「……慣れで気づかれる前に魔獣の首を掻き切れるものか。ユウシア、自分で言っていなかったか? 『この魔獣は索敵能力が高くて厄介』だとかなんとか……」

「言っていましたね、私は覚えています。忘れるはずもありません。少し挑戦心が湧いたと思ったら、いつの間にか血抜きを済ませたユウシアさんがケロッとした顔で立っていたのですから……」

「……フィル、シオン先輩……あたし達は無力だったんだね……」

「…………」

(食材渡しに行こう……)

 ユウシアはその場から離れることにした。多分、あの場にいたら三人の恨みつらみをぶつけられることになる。さすがに耐えられない。ただ、

(まぁ、フィルも先輩もあれぐらいは出来るようになってもらうけど)

「「!?」」

 その瞬間フィル達二人は、ユウシアの背中から何やらおぞましいものを感じ取っていた。

「おーい、二人、と、も……」

 それはさておき、台所を覗き込んだユウシア。そこに広がる異様な光景に、思わず唖然としてしまう。

 ラウラとリルが、料理をしている。それはかろうじて分かる。分かる、のだが、

(……手の動きが、見えないんですが。なんか、凄い勢いで料理が出来て行くんですが。……食材、一応ある程度はあったはずなのに、もうほとんど使われてるんですが……あ、野菜が舞った。何アレ、炒めてるの? 野菜凄い高さまで上がってるんですが。天井に付きそうで付かない……絶妙)

 なんというか、語彙力が足りなくなりそうなレベルである。二人は入れ代わり立ち代わり、作業をバトンタッチしつつ調理を進めているようだ。それは分かる。だが、何をやっているのか分からない。アヤがサポートが必要ないと言っていたのも納得である。ついでに、サポート出来る次元にないというのも。

 ユウシアは、食材だけ置いてその場を去ることに決めた。あれは邪魔してはならない、神秘の領域なのだ……。

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