匂い
休みだし、朝起きたら仕上げようと思ってたんだけどね。無理だ。予定もないのに午前中に起きるなんて、私には無理だ。ほら、七つの大罪なら間違いなく怠惰が似合うような人だから……。
「わー……」
ユウシア達の先導で中に入ったリル達。家の立派な内装を見て、アヤが声を漏らす。
「これは……素晴らしいですね。全ての家具の配置が計算され尽している。とても美しいです」
と、シオン。
「先輩、詳しいですね……え、ていうか、計算とかしてたの?」
「もちろんです。これでも、内装にはかなり気を使っているんですよ?」
胸を張って言うラウラ。ユウシア初耳である。
皆が内装に見惚れている間に、ラウラがユウシアを手招きする。
不思議に思いつつも近づいたユウシアに、ラウラは小さな声で耳打ちを。
「――ユウさん。皆様を連れてきたのはいいのですが、寝る場所はどうするつもりだったのですか? そこまで部屋がなかったのは覚えているでしょう?」
「いや、リビングとかもあるしなんとかなるかなぁと……って、え、なかった?」
楽観的な答えを返したユウシア。ラウラの言い回しに首を傾げる。
「ふっふっふ……」
怪しげに笑うラウラ。再び胸を張り――
「私、これでも神様ですよ? 家の改装なんてちょちょいのちょい、ですっ!」
「……つまり、部屋増やしたって? 道理でなんか大きくなってると思った……」
言われてみれば、なんて思い出すユウシア。一瞬ではあるが、なんか記憶にあるログハウスより少し大きい気がしていたのだ。
「まぁ、さすがに一瞬でポンっと増やせる訳でもなくて、三部屋しか増やせなかったんですが。私がこの世界の神であれば、勝手も違ったのですけどね」
「いや、それでも十分凄っ……三部屋?」
ユウシア、自宅の部屋数を数え始める。
「……えっと。確か、リビングとか除くと、元は俺の部屋とラウラの部屋の二部屋だけだったよな?」
「そうですね。元々私達が住むための家でしたし」
「つまり、それが五部屋に増えたと」
「頑張りました」
「考えよう。今ここに何人いる?」
「私にユウさん、リルさん、フィルさん、アヤさん、シオンさんで六人ですね」
「うん、メンバーまでキッチリとありがとう。……足りないよな?」
「……足りませんね。一部屋。でも、ユウさんの方も悪いと思うんです」
「え? 俺? なんで?」
別に悪いことしてないよな? と、理由を聞くユウシア。
「だって、元々はお客様一人の予定だったじゃないですか」
「まぁ、リルだけの予定だったな」
「ですが、フィルさんとアヤさんが来るのはまだ予想出来ましたから、とりあえず三部屋を目標にして、達成も出来たんです。なのに……」
「……あぁ、うん、なるほど?」
「シオンさんまでいるなんて思いませんよ! 目標達成して清々しい気分で迎えられると思っていたのに!」
「いや、えっと……それは付いてきた先輩に言ってほしいというか、なんというか……」
そんなことを言われても困るというものだ。
「うぅ、分かってますよ、ユウさんは本当は何も悪くないです……私が当たりたかっただけです……」
「当たっ……いや、この際それは別にいいや。部屋割りを考えよう……」
ユウシアは皆を呼び、部屋数に関しての説明をする。すると――
「ユウ君とリルが同じ部屋でいいんじゃない?」
「うむ。宿でもそうだったしな」
「えぇ。私も賛成です」
「「え?」」
不思議そうな声を上げるユウシアとリル。どうしてそうなった。
と、それを聞いてラウラまでもが、
「なるほど、仲を深める意味でもいいかもしれませんね、ユウさん」
「いや、えっ?」
「ま、また……ですか。うぅ……」
結局。
二人とも、ユウシアの部屋に押し込まれた。
「ここが、ユウシア様が暮らしていたお部屋ですか……ユウシア様の匂いがします」
「俺の匂いって……もう半年くらい入ってないことになるんだけど……っていうか、俺の匂いってどんな匂いだ?」
「とても安心する香りです」
「そんな馬鹿な」
「本当ですわ。ほら……とても、落ち着きます」
おもむろにユウシアに近づくと、その匂いを嗅ぎ始めるリル。
「ちょっ、リル?」
「……ユウシア様、私はどうですか?」
「え?」
「私は、どんな匂いがしますか?」
「……えっ、と……」
この距離になれば、嫌でも感じるこの匂い。そう、これは、
「……凄く、好きな匂い。愛しいと、そう感じるような匂い」
「ユウシア様……私も、ユウシア様のこの匂いが大好きです……」
いつの間にか、抱きしめ合い、見つめ合っていた二人。その顔は段々と近づいて行き――
「ユウさん、何か足りない物などはありませんでしたか?」
重なる直前、扉の向こうから聞こえる声。ユウシア達は、思わず停止してしまう。
「あーっ、と……丁度掃除がてら確認しようと思ってたところだよ」
「そうですか。何かあったら言ってくださいね。……では、ごゆっくり……」
何やら意味深なことを言うと、ラウラの気配が扉の前から消える。
(分かっててやったんじゃないだろうな……)
リルと小さく笑い合いながら、そんなことを考えるユウシアであった。




