せーので
微妙に体調の悪い今日この頃。だというのに、こんな話書いちゃって……。死にそう(精神的要因)。糖分の摂り過ぎには注意です。
「……さて」
皆で夕飯を食べ、部屋に戻り――。
しばらくリルと他愛のない話をした後で、ユウシアはおもむろに呟く。
と、いっても、別に何か言いたいことがあった訳でもなく。ユウシアはリルと目を合わせ、視線で「どうする?」と問いかける。このままもう少し起きているか、それとも寝てしまうか。寝るにしても、どう寝るか、なんて問題もある。これで相手がリルでなければ、ユウシアは迷わず相手にベッドを使わせ、自分はどこか適当な場所で寝ることを選ぶのだが……。
(リル、そんなこと絶対許してくれないし)
彼女は、自己犠牲だとかそういうのは嫌いなタイプなのだ。この程度で自己犠牲というのも大袈裟かもしれないが。
ちなみに、実際にユウシアがそれを提案すると、リルは許さないとは言わないまでも、とても悲しそうな顔をするだろう。
(それはそれで、罪悪感凄いし)
結局、寝るとするなら一緒に寝る他ないのだ。
それはさておき、ユウシアの視線の意味をしっかりと汲み取ったリルが、その問いに答える。
「特にすることもありませんし……その、寝ま、しょう、か?」
「そ、そう、だな……寝ようか。うん」
緊張丸出しで、ぎこちない動きでベッドに向かう二人。ベッドの隣に立ち、しかし二人とも入ろうとしない。
「……えっと。は、入らないの?」
「ユ、ユウシア様からどうぞ……」
「じゃ、じゃあ失礼して……」
いそいそとベッドに潜り込むユウシア。一瞬迷い、リルの方を向くと布団をペラリ。
「……どうぞ」
「……ゴクッ」
リルが唾を飲む音が聞こえる。
「し、失礼致します……」
普段以上に所作に気を使ってベッドに入るリル。綺麗に、優雅に、美しく……。そんなことばかり考えていたせいか、いつの間にか至近距離にユウシアの顔が。
「「――っ!」」
バッ! と音がしそうな勢いで、というか実際に布団をバサッ! と浮かせながら同時に寝返りを打つ二人。顔真っ赤。まるで完熟トマトだ。
恥ずかしい。でも、と、リルは考える。
(これは、もっと距離を詰めるチャンスなのでしょうか……。この程度で恥ずかしがっていては……その、将来は、こ、子供を作ったり、とか、するのでしょうし……少しでも慣れておかなければ……)
考えながら一人身悶えているリル。しかし、その動きがすぐに伝わる距離にいるはずのユウシアは、そんな彼女に気が付かなかった。
何故なら。
(キスとかだってたまにしてるのに、今更こんなので恥ずかしがっててどうするんだよ……。あぁでも、なんかまた違うんだよな、こういうのって。でも慣れとかないといけないよなぁ……)
似たようなことを、ユウシアも考えていたから。
「「あの、……え?」」
二人同時に口を開き、二人同時に首を傾げる。
「「……先にどうぞ……」」
そして、二人同時に譲り合う。
「……せーので行こうか」
「……はい」
肩越しに頷き合い、一拍開けてユウシアが「せーの」と声をかける。
「もう少し近くに行ってもいいでしょうか?」
「そっち向いてもいい?」
互いに違う頼み。しかし全く違うとも言えない、似た方向性のもの。
ユウシアもリルも小さな声で肯定の意を示すと、リルはもぞもぞと動いてユウシアに近づき、ユウシアは再び寝返りを打ってリルの方を向く。
「……ごめん、やっぱりもう一ついいかな」
目の前にリルがいる。それを見たユウシアはやりたいことが増え、
「私も……もう一つだけ」
すぐ後ろにユウシアがいる。それを感じたリルはやってもらいたいことが出来る。
今度は、何も言わず、しかし示し合わせたように同時に。
「「抱きしめ(たい)(てください)」」
ユウシアは一瞬だけ呆気にとられたような顔をしつつも、すぐにクスリと笑いを零す。
「……じゃあ、失礼します」
「はい……」
ユウシアは、リルの腰のあたりに腕を回し、優しく抱きしめる。そしてリルはそんな彼の手に自分の手を重ねると、きゅっと握る。
「……恥ずかしいけど……なんだろう、すこし安心する」
「……はい。普段よりも、ぐっすり寝られそうです」
ユウシアはリルの言葉に小さく笑いながら口を開く。
「おやすみ、リル」
「はい。おやすみなさいませ、ユウシア様。……離さないで、くださいね?」
「もちろん」
ユウシアはリルの言葉に応えるように抱きしめる力を少し強くする。彼女から穏やかな寝息が聞こえるようになるまで、そう時間はかからなかった。
「……何があっても、どこにいても、いつまでも愛してる……愛し続けるからな、リル」
「んぅ……ユウシアさま……」
「ふふっ……おやすみ」
そう言ってユウシアは目を閉じた。