ヤンヤン
ヤンヤンつけボーって美味しいですよね。最近食べてない。久しぶりに食べたいなぁ……。
なんだかんだで。
二人して冗談だろうとたかをくくっていて別に反論も何もしなかった、ユウシアとリルの同室。
マジだった。
「マジですか……」
「っ……」
アヤとミーナに押し込まれた二人部屋にて、呆然と呟くユウシアと、恥ずかしそうに押し黙るリル。
一応、同じ部屋で夜を明かしたことがない訳ではないのだ。まだ出会って間もない頃、ガイルの策略(?)により、監禁部屋に放り込まれたことがあった。
しかし、そのときと今とでは、関係が大いに違ってくる。前は、少なくともユウシアにとっては、友人、せいぜい少し気になる相手、程度。リルの方は彼に好意を持っていたらしいが、それはまた別だ。対して今は、恋人、そして婚約者。距離感も、互いの意識も違う。
「えっ、と……今からでも、部屋変えてもらってこようか?」
二人部屋を一人で使うのは少しもったいないが、リルの方は大部屋に移ればいいだけのこと。
そう思っての提案だったのだが、リルはなんと、首を横に振るではないか。
「リル……?」
訝しげに声を上げるユウシア。
「いいえ、大丈夫……むしろ、同じ部屋にさせて下さい。その、ゆくゆくは毎晩一緒に寝ることになるのでしょうし……練習、と言いますか……」
そう、やはり恥ずかしそうにしながら理由を話すリル。
「そ、そう……じゃあ、このままで……俺も、一緒にいたいし……」
最後の一言を、小さな、本当に小さな声で付け加えたユウシア。しかしリルはそんな声でもちゃんと聞こえたらしく、同様に小さな声で、
「……私もですわ」
そう返す。
「…………」
「…………」
どちらともなく見つめ合う二人。その距離は段々と近づいて行き――
「おーい、二人ともー」
「「っ!?」」
ノックもなしに扉を開けて入ってきたアヤ。ユウシア達は慌てて距離を取る。
「……? どしたの?」
「い、いや、なんでもない」
「えぇ、な、なんでもありませんわ。アヤさん、何か?」
「んー……? まぁいっか。えっとね、夜になるまでまだまだ時間もあるし、街でも歩かないかってフィルが」
どうする? と、一瞬だけ顔を見合わせた二人。しかし、どうせ暇なのは変わりない(この二人が揃えば暇などいくらでも潰せそうだが)。
「そうだな、行こうか」
「りょーかい。フィルもシオン先輩も外にいるから、準備出来たら来てね!」
「分かった」
++++++++++
「ここでリルと初めて会ったんだよな」
街の中央の広場。憩いの場となっているそこで、ユウシアは懐かしそうに呟く。
「そうですわね。……今でも、鮮明に思い出せます。襲われたところをユウシア様に助けられて……本当に、格好良かった」
思い出しながら、うっとりとした表情で言うリル。一応お忍び、ということで、フードで顔を隠して簡単に変装している。
「照れるな……」
「ふふっ」
頬をかくユウシアに微笑むリル。そんな二人を見て他の三人は――
「やはり呼ばなければよかったか」
「距離開けて正解だったね。ダメージ凄そう……既にだけど」
「こんな私にも、出会いはあるのでしょうか……」
フィルとアヤは、やはりと言うべきか、どこか諦めたような表情だ。そして、ユウシアとリルを見て「羨ましい」と言っていたシオン、ネガティブ思考である。大丈夫、シオンは影でモテるタイプ。……問題は、普段纏っている近寄り難い雰囲気のせいで、彼女に好意を持っていても近寄れないことだ。そこは要改善である。
閑話休題。
いい加減ユウシア達を見ていられなくなったアヤ。半ば強引に見つめ合う二人の間に入る。凄い勇気だ、と、見ていた全員(通りすがりの人含め)は思った。
「ここはもう終わり! ほら、ユウ君もリルも、他のとこ行くよっ!」
アヤはそのまま、二人を引きずるように連れて行った。
++++++++++
場所は変わって、フリーマーケットエリア。普段人々がどんな物を使っているのか見てみたいというリルたっての希望である。
「そういえば、このマントにアヤのワンピースとハクのスカーフって、ここで買ったんだっけ。着てる?」
「ん、着てるよ。たまにね」
今度はアヤと話をするユウシア。そんな二人を見て、リルは頬をぷくぅっ。
「……ユウシア様」
「ん? どうしたの、リル」
「その、ワンピースというのは……まさか、プレゼント、ですか?」
「あぁ、まぁ、そうなるのかな。あの時は俺が財布握ってたし」
何気なく答えたユウシア。しかし、その直後にその答えを後悔することに。
「プレ、ゼント、ですか……ふ、うふふ、うふふふふ……私ですら、まだ貰ったことがないというのに……」
(おぉう……リルさんが暗ぁい顔をしてらっしゃる……)
なんて、考えている場合ではない。ユウシアのこととなるとたまにヤンヤンしちゃう感じのリルさん。早く機嫌を取らなければ大変なことになってしまう。主に元に戻ったときのリルのメンタル的に。
そして。実はユウシア、いい物を持っていた。
「……ごめん、リル」
ユウシアは小さく謝ると、リルの髪に手を伸ばす。少し手を動かしてから離した、その後には――
「これ、は……」
「前に王都で見つけて、リルに似合いそうだと思って思わず買ったんだけど、中々渡すタイミングがなくてさ。あまり高い物じゃないけど」
「ユウシア様っ……!」
リルは、目を潤ませながらユウシアに抱き着く。
「おっと」
それを受け止めたユウシアは、勢いでフードが外れないように直したその流れのまま、彼女の頭を優しく撫でる。
リルの頭には、ユウシアから貰った髪留めが光っていた。




