勧誘
章の追加を忘れるのはいつものこと。私、諦めました。気がついたら修正すればいいのさ!
アヤの地獄の一週間から少し。
「……アヤさん、大丈夫でしょうか……」
彼女はまだ休んでいる。
「大丈夫でしょ。薬も差し入れたし。……特製の、飲んだら元気出るやつ。それはもう、一生分の元気使ってるんじゃないかってぐらい、元気出るやつ」
「ユウシア様……?」
「冗談だよ。特製なのは間違いないけど、普通に元気が出る薬。だから、そんな恐ろしいものを見るような目で見ないで欲しいかなーなんて」
苦笑しながら言うユウシア。リルは、こちらも冗談だ、と返すようにふわっと笑う。
「あっさり言うけど、薬を調合するって中々に凄いことしてるわよね」
そんな二人にどこか諦めたような眼差しを向けながら、そんなことを言うリリアナ。リルと二人の空間を作りかけていたユウシアだったが(【偽装】は完璧。抜け目はない)、彼女の言葉にちゃんと答える。
「まぁ、仕事柄毒を調合したりするし……そうなると解毒薬も調合出来なきゃだからな。そこから派生して、って感じ? 使い方によっては薬になるような毒もあるしな」
事実、ユウシアの持つスキル、【毒生成】で生み出される毒の中にも薬としても使える物もある。要は、用量・用法はしっかりと守ってお使い下さい、という訳だ。
「ふーん……暗殺者って、意外と万能なのね。シオン先輩も、そういうこと出来るのかしら」
「多少であれば」
「「「ふぁっ!?」」」
予想していなかった返事。リリアナのみならず、さりげなくユウシアとイチャイチャしていたリルや、そんな二人を冷めた目で見ていたフィルまでもが素っ頓狂な声を上げる。
「先輩……俺ならまだしも、他の人にとっては大分心臓に悪いと思うんですが」
そう。リリアナの背後から、「ぬっ」という擬音が付きそうな現れ方をしたのは、丁度話題に出たシオン・アサギリだった。
「俺なら、とは、慣れたという意味でしょうか? それとも、気がついているから、という意味ですか?」
「あ、そこツッコむんですか……両方ですけど」
「ふむ……とりあえず、ユウシアさんに気配を捉えられないようにすることを目標としてみますか」
「なら俺はそうされないように頑張りますよ。……それで、一年の教室まで来て、何か用ですか?」
シオンは、「そうでした」と呟くと、ユウシアの前までやって来る。
「ユウシアさん、少しお話が。ついて来て頂いても?」
「話……? まぁ、いいですけど」
首を傾げたユウシアだったが、今は昼休み。授業が始まるまでにはまだ時間もあるし、まぁいいか、と考えて立ち上がる。
「では、こちらへ」
背を向けて音もなく歩き出すシオンに、ユウシアも同じく音もなくついて行った。……これが、職業病というものだ。
++++++++++
フェルトリバークラスに割り当てられた建物からしばらく。全てのクラスのほぼ中心にある一際立派な建物に、ユウシアは連れて来られていた。
「ここって……」
「“議会”の本部です。入りましょうか」
シオンが扉を開き、中へと消えていく。
「議会、か……ついに勧誘ですよ」
毎年、主席生徒が勧誘されるというのはユウシアも聞いている。正直面倒だな、どうしようかな、なんて考えつつ、ユウシアも中へ。そこには、
「やぁ、ユウシア君。待っていたよ」
「アラン先輩……ヴェルム先生も」
シオンだけではなく、アランと、そして壁際にはヴェルムの姿まで。教師と生徒、それぞれのトップが揃い踏みである。
――“黄のオーブ”に憑依されていたアラン。閉会式にも意識不明の状態で参加出来ず、その後も一週間近く目を覚まさなかった。
そして、ついに目を覚ました彼は、ユウシアを呼び出すと深々と頭を下げた。どうやら試合の時のことは全て覚えているらしく、「迷惑をかけてすまなかった、止めてくれてありがとう」と、そう言ってきたのだ。また、ユウシアの進言により(ラウラの頼み)、アランの処分は一ヶ月の停学のみ。それもついこの間解けて、復学したとユウシアは耳にしていた。
「座ってくれ」
アランに促され、ユウシアは彼の向かいにある椅子に腰掛ける。シオンはアランの隣、ヴェルムはその反対側へ。
(何これ、面接?)
と思ってしまうのも仕方ない。
「今日呼んだのは他でもない」
ユウシアがそんなことを考えているとも知らず、アランは話を切り出す。
「ユウシア君。君に、議会のメンバーに加わって欲しいんだ」
「参加するメリットとデメリットを詳しく」
間髪入れずそう返すユウシア。それにアランは面食らったように目を丸くする。
「……ユウシア君らしいですね、それは」
ヴェルムは苦笑しながら言うと、アランに代わり説明を始める。
「メリットは、学校でのことをある程度自由に決められること。もちろん、会議をして、会長・副会長の承認を得た上で、僕からも許可を得る必要がありますが。口さえ達者であれば、自分の都合のいいように学校のルールなどを変えたりも、出来るかもしれませんね。他にあるとすれば、名誉を得られるとか、そんなくだらないことでしょうか」
学園長がそんなことを言っていいのだろうか、と、ヴェルムを除く三人は思った。
「デメリットは、無駄に忙しいことと、純粋にめんどくさいことですね」
(((……学園長)))
三人は、心の中でそう呟いた。
「あ、でも、議会のメンバーは女の子の方が多いので、上手くやれば男の夢であるハーレ」
「死ねばいいのに」
シオンが、ボソリと。
「…………」
ヴェルムは押し黙った。
まぁ、リルがいるユウシアからすればそんなことはどうでもいい訳で。
「……すみません、ユウシアさん。ちょっと学長とは話をしなければならないようなので、この辺りで……。また今度伺いますので、考えておいてください」
「はあ……」
ニッコリと笑って出て行くシオン。彼女に首根っこを掴まれて引き摺られていたヴェルムについては……ユウシアは、見なかったことにした。
「……あの」
「…………」
アランを見ると、彼はまるで何かから逃げるように笑顔を作っていた。
「……また、来ます」
「…………」
アランは、笑みを絶やさなかった。