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“元”暗殺者の転生譚!  作者: 浅野陽翔
夏休み、帰郷
108/217

洗のっ……調きょっ……意識改革

 武闘大会を終え、一学期ももうすぐ終わろうかという初夏の頃。

 ユウシアは、アヤに泣きつかれていた。

「ユウぐんんんんん! つ、追試、追試なっちゃっだよぉぉおお!」

「分かった、分かったからとりあえず落ち着いて頼むから! あ、コラ! 人の制服で顔を拭くな!」

 騎士学校だろうとなんだろうと、定期試験、まして期末試験というものは、往々にして存在するもので。

 大きなイベントが終わってすっかり気を抜いていたアヤは、さも当然のように赤点を取っていた――というか、クラスで堂々の最下位をマークしていた。

 当然、この追試で良い点数を取れなければ、夏休みの大半は補習で埋まってしまう。他の皆が夏休みを満喫している中、アヤはひっそりとした教室で勉強に明け暮れることになってしまうのだ。

「ユウ君、また満点取ったんでしょ!? この天才! 勉強教えろやこんちくしょー!!」

「口調口調! 女の子なんだからもうちょっとおしとやかに!」

「あたしがおしとやかとは程遠い女だってことはユウ君だって分かってるくせにーっ!」

「……話が変わってるわよ……」

「「はっ!?」」

 リリアナは冷静だった。

「……こほん」

 ユウシアは一つ咳払いをすると、自分が逸らした話を元に戻す。

「それで、勉強だっけ?」

 勢いよく頷くアヤ。

「まぁ、それはいいけど。どこが出来ないの?」

「全部!」

「自慢気に言うことではないんじゃないかと、私は思う」

 フィルは正論だった。

「……追試って、いつ?」

「来週!」

「アヤさんの状況から考えると、ギリギリという言葉ですら足りませんわね」

 リルは辛辣だった。

「……分かった。教えるから、後で部屋に来て。今夜は寝かせない」

「ユウ君そんな……イケナイお勉強まで……」

「明日も、寝る暇なんてない」

「へ?」

「明後日も」

「あの……?」

「その次も、その先もずっと、追試の日まで寝かせない」

「……それって」

「地獄を、見せてやろう」

「イヤァァアアアアッ!!」

 逃げ出そうとするアヤの肩が、ガシッ! と掴まれる。

 恐る恐る振り向くとそこには、ニコニコとした笑みを貼り付けたユウシアの顔が。

「ひっ」

「丁度放課後だ。さぁ、勉強会を始めようじゃないか」

「ヤダァァァアアアアアアッッ!!」

 アヤの絶叫が、虚しく響く。

 今、フェルトリバークラスの生徒の意思は一致した。つまり、「ご愁傷様です」と。

「……差し入れを、作っておきましょう」

 リルは、アヤが少しでも保つように、何か元気が出るものを作ろうと決めた。……ユウシアには、リラックス効果のあるものでも食べさせようか、とも。未来の旦那様の精神の健康をも気遣うわたくし、ヤサシイ。……と、言い訳して。


++++++++++


「あ、あぁ……ぁー」

 リルが差し入れを持ってユウシアの部屋を訪れた頃には、アヤは既にゾンビのような声しか上げることが出来ず、目は虚ろという、酷い状態になっていた。

「……あ、あの、ユウシア様? アヤさんは一体……」

 頬を引き攣らせながら聞くリルに、ユウシアはニッコリと笑って答える。

「んー? いや、中々勉強に集中してくれなかったからさ。まずは洗のっ……調きょっ……意識改革・・・・から始めようかなって」

「……あれは、その過程?」

「そうそう」

 笑みを崩さない、というか表情をピクリとも動かさないユウシアを見て、リルは心に決めた。……ユウシアにだけは、逆らわないようにしよう、と。ユウシアが尻に敷かれる可能性がなくなった瞬間である。もちろん、あのユウシアであれば、リルが相手ならどれだけ反抗されようとも洗の(以下略)に走ることなどあり得ないのだが。

「あの……ユウシア様、程々にお願いしますね……?」

「大丈夫、限界を見極めるのは得意だから」

 全然大丈夫じゃなさそう。

「あは、あはは、あははははは!」

 なんか笑い始めた。

「……あの、ユウシア様、あれ、本当に大丈夫なんですか……?」

「ん? あぁ、平気だよ。本当に駄目になったら動かなくなるから……って、あ」

 止まった。

「ユ、ユユユユウシア様!? だだ、大丈夫なんですか!?」

「んー……」

(考えてるぅ!)

「ちょっと外で待ってて。見るのも聞くのも、絶対に禁止。分かった?」

「は、はい……?」

「分かったなら、ほら、早く早く」

 追い出されてしまうリル。しばらく部屋の外で待ち、出てきたユウシアに呼ばれて部屋に戻るとそこには、

「…………」

 ガリガリと、「絶対合格!」なんて書かれたハチマキを巻いて勉強するアヤが。

「あ、あの、アヤさん、だ、大丈夫……ですか?」

「…………」

「アヤさん?」

「あぁ、今は何言っても答えないよ。勉強モードだから」

「べ、勉強モード?」

「そう。勉強以外に関心を示さず、ただ勉強をし続ける状態。ちなみにハチマキを取ると通常モードに戻る。もう一回ハチマキを巻くとまた勉強モードになる」

 アヤの身に、一体何が起きたというのか……。今知る術はないし、今後知る機会もない。

 ただ一つ分かったのは、アヤが無事……ではあまりないが、追試をクリアしたということのみ。その後数日学校を休んでいたことに関しては、言及してはいけないのだ。多分。きっと。恐らく。

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