パーティー
もうね、夜中に書くのやめます。だって寝落ちする。……はい。ごめんなさい。
「さぁ、ユウシアはここだ」
「はぁ」
フィルに促され、上座の席に座るユウシア。流されるままである。
と、そこに、リルとアヤ、リリアナの手で豪華な料理が運ばれてくる。
「こっ、これは……!」
「ふふ、ユウシア様のために、腕によりをかけたんです」
「……ゴクッ」
リルの、手作りの料理。いつぞやのデートを思い出し、思わず生唾を飲む。そう。リルの料理の腕は天才的なのだ。
「ほ、本当に、これが全部、リルの手作り……?」
「はい! 頑張りましたわ!」
「……ここは天国か」
「そんな、大げさな……ですが、私の料理でそこまで喜んで頂けるのなら、嬉しい限りですわ」
「リルの料理なら毎日食べたいくらいなんだけど。っていうか、毎日作ってください」
「ユウシア様、そんな……二回目のプロポーズ、ですか?」
「へっ? ……あ」
毎朝味噌汁を作ってくれ、というのは、プロポーズの言葉としては有名なものだろう。それに似通ったことを言っていたことに今更ながら気が付いたユウシア。照れたように頬を染めるリルを見て、同じように頬を染める。
「……二回目?」
そして、忘れていた。この場には、事情を知らないシオンがいることを。
『……あ』
彼女以外の、全員の声がハモる。
ユウシアとリルは顔を見合わせて頷くとシオンを見て、
「えっと、実は――」
説明した。
「……こん、にゃく?」
「婚約です、先輩。わざとらしく間違えないでください」
「……すみません、あまりに衝撃的だったもので……いえ、それならこの仲の良さも納得がいくというものでしょうか……」
「あの……お分かりだとは思いますが、この件は内密にお願いします」
「もちろんです、殿下」
真剣な表情で頷くシオン。一応裏稼業に接している人だ。口の固さは、信用していいだろう。
「それでは、そろそろ始めましょうか。皆様、グラスを持ってください」
その言葉に、全員自分のグラスを持ったのを確認して。
「ユウシア様の、武闘大会での優勝を祝って――」
『――乾杯!』
ユウシア達は、その言葉と同時にグラスを合わせる。
「じゃあ、早速……!」
ユウシアはすぐ近くにあったローストビーフを取ると、一口。
「い、いかがでしょう……?」
固まったユウシアを見て、リルは心配そうに問いかける。ユウシアは答えず、別の料理へ。それをよく味わうと、また別の料理、また別の――と、ただ無言で食べ続ける。
そして、全ての料理を一口(一切れ)食べ終えると。
「……リルごと、独り占めしたいくらいだ」
「ユウシア様ったら、そんな……」
「よくやるわねホント……」
「……お二人は、いつもこんな感じなのですか?」
「隙あらばイチャイチャしてますよ。ね、フィル」
「あぁ。姉上と話していても、その八割以上はユウシアの話題だからな」
呆れたように息を吐く皆。彼女達のジト目に気が付いたユウシア達は、慌てたように距離を取ると無言で料理に手を伸ばす。
「あっ、料理なくなっちゃう!」
「私達も食べるわよ!」
「あぁ!」
「王女手製の料理……普通は食べられるものではありませんね。楽しみです」
そうして、全員がリルの料理に舌鼓を打つのだった。
++++++++++
「……皆様、寝てしまわれましたね」
その後。ベランダに出て、一人満点の星空を眺めていたユウシアに、リルが声をかける。彼女の言う通り、ユウシアとリルを除いた四人は部屋のあちこちで眠りについてしまっていた。今は、リルの手で毛布をかけられている。
「そうだな。先輩が酒に弱かったのは、ちょっと意外だった」
言いながらユウシアは、手に持っていたグラスを呷る。中身はワイン。比較的度数が低めのものだ。
「そう言うユウシア様は、平気そうですね」
リルの言葉に、ユウシアは苦笑を返す。今でこそ度数の弱い低いものを飲んでいるが、もっと強い酒も普通に飲んでいたユウシアである。
「……そういえば」
もう一口酒を飲んだユウシアは、思い出したように口を開く。
「アヤとかフィルとかリリアナは分かるけど、なんで先輩まで?」
何故ユウシアの優勝祝いの場にいたのか、とユウシアは尋ねる。リルは少しだけ考えるようにすると、
「バッタリ遭遇しまして。ユウシア様を祝う、と言ったところ、なら私もご一緒してよろしいですか、と」
「成り行きと」
「そうなりますわ」
笑うリルに、ユウシアも笑顔を返す。
「……でも、こんなことしてくれるなんて、本当に嬉しいよ。ありがとう」
「ユウシア様のためですもの。このくらい当然ですわ。喜んで頂けて何よりです」
「当然、か。……俺も、何かお返しがしたいけど」
ユウシアは何か出来ることはないかと考える。
「……あ、そうだ」
そして、一つ思い付いた。首を傾げるリルを見て口を開く。
「ほら、もうすぐさ、夏休みになるじゃん?」
この学校は、日本の学校で言う三学期制。夏休み、冬休み、春休みが存在した。
「そのタイミングで、故郷……というか、実家に帰るつもりなんだけど、リルも一緒にどうかと思って」
「是非! ……と、言いたいところなのですが……」
リルは、一瞬浮かんだ笑顔をすぐに残念そうな表情に変える。
「私も一国の王女。おいそれと王都を離れる訳にもいきません。お父様が許可して下さればまた別でしょうが……」
「説得は俺がするよ。義父さんもなんだかんだで結構甘いしな。それに、リルに傷一つ付けさせないのは約束する。そういうことをちゃんと言っておけば、多分大丈夫」
「ふふっ……そうですね。ユウシア様の隣以上に安全な所なんて存在しません」
「さすがにそれはちょっと俺の力を過信しすぎなんじゃないかとも思うけど……」
と、苦笑するユウシア。しかしリルは、
「いいえ、私はそう信じていますわ。……それに、そうしておけば、いつまでもユウシア様の隣にいられます」
「……それなら、ずっと隣にいてもらえるように、もっと強くならないとな」
「私は……そうですね。いつまでも隣に置いて頂けるように、もっとユウシア様に好きになって頂きませんと」
「今よりも……かぁ。難しいな。だって、もうこれ以上ないくらいに好きなんだから」
「ユウシア様……」
「リル……愛してるよ」
そう言ってユウシアは、リルを抱き寄せ、唇を合わせる。
「んっ……ユウシア様、私も愛しています」
リルは、花が咲いたように笑った。
イチャイチャで幕を閉じた第三章でした。今回長かったので、次の章は短めになるかも。