少年B
3.
結局佐々木先生には会えなかった。
職員室を出て廊下を歩いていると1時間目を終えるチャイムが鳴った。
僕は遠回りをして教室に戻った。
「おい朔、今日も遅刻かよ。フリョーだな。」
教室に入るなり拓哉がからかってきた。
「本当は1時間目の体育さぼりたかったんだろ。」
「そんなんじゃないよ。」
僕は適当にやりすごして自分の席についた。
クラスで人気でお調子者の拓哉は誰とでも仲がいい。だけど僕の友達ではなかった。
友達は、休み時間に一緒にサッカーをしたり、放課後は一緒に帰って誰の家で遊ぶとか、新しいゲームの攻略法の話とかをする仲のやつだ。
僕にそんな子はいない。
僕は図書委員をやっていて、休み時間や放課後は図書室にばかりいるし、生まれつき目が悪いから似合わない眼鏡をかけている。
それが目立つ上に宿題はきちんとやっていくし、外遊びをせず本ばかり読んでいるし、おまけに大人しい性格だからみんなから変に一目置かれている。
けれど勉強がよく出来るわけではない。
つまり、かなり印象の薄い少年Bなのだ。
少年Aは名前はないけど台本でBより先に書かれる。おまけに主人公に大事なセリフを言う。けれど少年BはAと一緒にいるだけで大したセリフを言わない、印象の薄い存在だ。
それが僕なのだ。
初めから主役にはなれない。
拓哉はまさに主役にふさわしいやつだ。クラスで一番足が早いし、算数も得意で頭の回転が速い。よくクラス会でもみんなの中心になって話を進めていくし、何より色んな先生と仲がいい。僕と正反対のやつだ。
僕は「真面目」というレッテルを貼られているから先生たちから嫌われてはいない。ただ、扱いやすい人間なのだ。
頼みごとをすればきちんとやってくれる。だから声は掛けるけど名札を見なければ名前はわからない。それくらいの存在だ。
だけど、橋本先生だけは違う。僕のことを名前で読んでくれる。担任の佐々木先生だって僕のことを「橘くん」て呼ぶのに、橋本先生は「さくちゃん」って呼んでくれる。
僕は橋本先生のことをちょっとだけ好きになった。