上り坂を登りきったら
あの日僕は、君に見つけてもらった。
僕が君を見つけたんじゃない。君が僕を見つけてくれたんだ。
何もなかった僕を、君が見つけてくれたから。僕はそれ以来ひとりぼっちじゃなくなった。
それなのに。どうして君は僕を置いてけぼりにして、僕のいない世界に行ってしまったの?
こんなに悲しい思いをするなら、君と出逢わなければよかった。
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1.
その日も僕は遅刻をした。ぐずる妹の手を引いて歩いた。
小さな町だから、学校は一つしかない。その学校まで歩いて40分も掛かるから僕はいつも7時には家を出たいのに、お母さんはゆずと一緒に行けと言う。
ゆずは僕の4つ下の妹だ。まだ新品のランドセルを背負い、黄色い帽子を被って、拙い足取りで歩く。ただでさえ歩くのが遅いのに、坂道で急ぐ僕を追って走り出したら転んで膝を擦りむいた。それでさっきまで大泣きしていたのだが、僕は絆創膏を持っていない。学校まであと20分はあるが、学校に行かなければ手当もしてあげられない。それでやっと妹をなだめて歩いているのだ。
花屋の電光掲示板で時刻を確認した。8時12分。これじゃあホームルームどころか、1時間目にも間にあわない。今日の1時間目は確か体育だ。サッカーなら急ぐが、跳び箱だから急ぐ必要はない。僕はゆずの足取りに合わせて歩いた。遅刻しても怪我をした妹を理由にすれば、怒られることはないと考えたのだ。それに、本当は1時間目の体育を休みたいのだ。先週の授業で、4段の跳び箱が跳べなくて拓矢たちに馬鹿にされた。今日も跳べなくて、きっと馬鹿にされるに違いない。
僕は、もう泣き止んでいる妹に向かって、「もう痛くない?」「あとちょっとで学校だからね。」と声を掛けながら、このまま学校に着かなければいいと思っていた。