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 MRIはグワングワンと無機質な音を発する。でっかい磁石が共鳴している音だ。

 その音に負けないくらい、梨花の心臓はバクバクであった。MRIを操作するためのマウスを持つ手が震え、汗が滲み出す。マウスは梨花の震えを敏感にカーソルに反映する。カーソルがブルブル震えるたびに梨花はますます焦った。

 

 このままではいけない。

 

 梨花は一旦マウスから手を放し、深呼吸を始める。呼吸を整えて自己暗示をかける。

「私はできる、私はできる……!」

 そうこうしているうちに、音が止んだ。

 MRI検査の区切りがきたのだ。この時間に操作をしないと、MRIは永遠に動かない。

 梨花は真剣に画面を見つめる。

 脳の断面像が映し出される。

 しかし、異変があった。

 

「なんか違う……」


 梨花は困惑した。

 正常な脳ではありえない画像が出てきたのだ。

 人間の大脳はしわがある。しかし、今回はしわが見えない部分が多いのだ。加えて、脳の両側に妙な三日月状の塊がある。

 

 これ、何?

 

 梨花は助けを呼びたかった。しかし、今は手術が行われていて、人を呼べない。いつまでも音が止んでいたら患者さんが不審がるだろう。

 順番通りに進める。まずは認知症を調べる画像を撮る。

 しばらく時が過ぎる。気が休まらない。お昼ごはんを食いっぱぐれる覚悟をしていた。

 検査を開始してからおよそ十分が経過した。

 ピーッピーッと音がする。

 MRIの検査音とは異なる。梨花は辺りを見渡すが、誰もいない。トイレにも誰もいない。誰が呼んだのか分からない。

 そんなタイミングで樹が戻ってきた。

「どこの音だ!?」

 せわしなく辺りを見回している。

 梨花も焦っていた。呼んでいるのは患者に決まっているからだ。

 折悪しく、電話が鳴る。

 樹は電話を取る気がないらしい。仕方なく梨花が受話器を耳に当てる。

「手術室の光輝です。技師長から伝言です。どちらかお昼休憩を取っておいてください……あれ、何か鳴ってるね」

「うん……」

 梨花は半泣きになりながら頷いた。

 光輝の声は優しくて、心にしみる。

「MRIを止めた方がいいんじゃないかな。ほら、山田太郎様がブザーを鳴らした時の音だよね」

 梨花はハッとした。

 山田太郎とは現在MRIで検査を受けている患者だ。検査を受ける前にわざとブザーが鳴るかを確認していた。

 思い出してみれば、その時と同じ音が鳴っている。

「ありがとう、すぐに止めるね!」

「はーい」

 梨花が受話器を置いた頃には、樹はMRIを止めていた。

 音が止む。樹は太郎の元まで行く。そして、声を掛けている。

「大丈夫ですか!?」

「おーい、いつ終わるんだ!? 随分経ったが」

 声から察すると、太郎は不機嫌だ。

 樹が応対する。

「あと十分くらいです!」

「おーい勘弁してくれー。どれくらい掛かるんだ」

 この時、梨花はもう一つ思い出した事がある。

 山田太郎は補聴器を付けていた。今は外している。耳が聞こえないはずだ。

 樹にその事を伝えると、樹はMRI台を外に出すボタンを押した。

 梨花は、あと十分! とデカデカと書いたメモを見せた。太郎は指でOKサインを作った。伝わったらしい。

 再びMRI検査を再開する。

「気のいいおじいさんで良かった」

 樹の呟きに、梨花は頷いた。

「ごめんね、患者さんに時間を伝えていなかったから……」

「気にしてもしょうがない。今度から気をつけよう。そういえば、電話はなんて?」

 樹の口調はぶっきらぼうだが、光輝と違った優しさがある。

 梨花は思わず、安堵の溜め息が出る。ようやく落ち着けた。

「技師長から伝言だって。私と樹君のどちらかはお昼休憩取ってと」

「梨花が行け。疲れただろ」

「樹君も疲れてるでしょ」

 梨花が言うと、二人で笑った。

 梨花は樹に御礼を言って、休憩所に向かう。

 しかし、すぐに戻った。


「ねぇ、樹君。休憩所ってどこ?」


 遅刻した梨花は職場の案内を受けていない。至極当然の質問であった。

 樹は空いた口が塞がらない様子であったが、知らないものは仕方ない。教えてもらうしかない。

「二階に行けば分かると思う」

「ありがとう!」

 梨花は意気揚々と操作室を後にした。

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