3話
3話
保健室の前まで来ると、女生徒を背負っていて手が使えないので足で強引に扉を開けた。
「誰かいるかー」
声を出してみるが、先生がいなかったので女生徒をベッドに寝かし、俺は帰宅することにした。
さすがに起きるまで待つ義理はない。
そう思い女生徒に背を向けた瞬間、女生徒が急に起き上がった。
「えっ! ここはどこですか? 天国さんですか?」
天国さんって誰だよ、と心の中でツッコミを入れつつ女生徒へ目を向ける。
女生徒はクリクリしたキレイな黒い瞳で周囲を確認し始める。
その瞳や行動が俺に小動物を連想させる。
でも、それと同じくらい瞳を開けて座っていると日本人形や雛人形のようにも見えた。
まったく恋愛などに興味のない俺でも可愛いように思う。
柄にもなく俺がそんなことを思っていると、女生徒はやっと俺の存在に気付き、話しかけてきた。
「えっ? あなたは? まさか悪魔さんですか? わたし死んでしまったんですか?」
「誰が悪魔だ!」
つい怒鳴ってしまった。でも悪魔はないだろ悪魔は!
俺だって一応人間だぜ?
顔は怖いらしいが、心は倒れているヤツを運ぶくらいの最低限の良識は持っているつもりだ。
まぁさっきの知らない生徒に怒鳴ったり睨みつけたり、足で扉を開けた行動は悪魔だって言われても若干仕方がないと思うが、俺は決して悪魔ではない。
「ひぃー、すいませんすいません。謝るので食べないでくださいぃぃぃぃ」
女生徒は俺に怒鳴られてますます怯えてしまったのか、頭を手で守りながら、必死に謝りはじめた。
「だから俺は悪魔じゃないし、お前なんか食わねーての」
「えっ? ホ…ホントですか?」
女生徒はだんだん落ち着いてきたのか、俺の話に耳を傾け始めた。
「当たり前だ! 俺が悪魔に見えるか?」
「はい! 見えます!」
即答されてしまった。
悪気はないのだろうが、こうも純粋なヤツにこう言われると若干ショックを受けてしまう。
いつもならもう慣れたで済ませられるはずなのに、今に限ってはなぜかショックを受けた。
俺が精神的ショックから立ち直り再び女生徒の方に顔を向けると、女生徒は何か考えはじめた。
頭に手を当てて可愛らしく「えっと?」などと頭を傾げながら、何があったのか思い出そうとしているようだ。
しばらく考えていたが、結局なにも思い出せなかったのか、頭から手をはなした。
俺は仕方なしに何があったのか知っている限り説明してやるために口を開いた。
「お前はなぜか知らんが廊下で倒れてた」
と言っても、知ってることはこれだけだが。
次の瞬間、女生徒は手をぽんっと叩いた。
何か思い出したらしい。
「そうでした! わたし廊下で転んで頭を打ってしまったんでした!」
俺はあまりにバカけた理由に呆然としてしまった。
「悪魔さん。ありがとうございました」
女生徒は向日葵のような明るく元気な顔でお礼を言ってきた。
アネキ以外の人にお礼を言われたのはいつぶりだろうか。
中学の頃には言われていない。
むしろ怯えたように謝られた。
俺は思い出したくもない過去を思い出すのをやめて、女生徒へ言葉を返す。
「いや。特になにもしてない。気にするな」
「そんなことないです! 私をここまで運んでくれました」
「誰も運ぼうとしなかったから邪魔で仕方なく運んだだけだ」
「それでも私は感謝してます。誰も助けようとしなかった私を、悪魔さんは助けてくれましたから」
俺はこれ以上は不毛な会話になると思い、こちらから折れることにした。
「わかった。感謝されてやる。ではさようなら」
俺は女生徒に背を向けて出口へ向かおうとした。
「ちょっと待ってください」
呼び止められてしまった。
俺はなんだか女生徒のことをめんどくさい奴だと思い始めたが、首だけで振り向き用件を聞く。
「なんだ?」
「お名前を教えてください」
「なんで俺がお前に名前を教えなきゃならん」
「今度、お礼をしに行くからです」
お礼などめんどくさいと思ったが、無視したり教えなければ、さっきのような不毛な会話になると思い、仕方なく口を開く。
「咲良竜也だ」
「わかりました! しっかり覚えましたよー」
女生徒は胸の辺りで両手をグーにして、なにやらはりきっている。
(いちいち行動が子供みたいなやつだな)
と言ってしまいそうだったが、声に出して言ってしまうとまた不毛な会話が生まれてしまうと思い、声には出さずに心の中で留めておいた。
そして俺はいい加減帰りたかったので、女生徒を無視してさっさと保健室を出て帰路についた。




