35話
「……てめー」
顔をどうにか上に向け、俺を膝まつかせたヤツを睨みつける。
「あめーんだよ! あんなんで準様がやられるわけないだろ」
準が右手にスタンガンを持って立っていた。
「誰がスタンガンが一個しかないなんて言ったよバーカ。ハハッ……ハハッ……アハハハハハ」
「悪魔さんっ」
日向が立ち上がってこちらに来ようとする。止めたかったが、声が出ない。
それほどまでに俺の体には限界が来ているようだ。
「誰か女を捕まえとけ!」
日向は準の部下に呆気なく捕まり、手足をばたつかせている。
「ちょうどいいな! その女を少し痛めつけろ! その方がコイツも苦しむ」
「あいよ~」
日向を捕まえて抑えつけていた部下が日向に手を上げようとし始めた。
日向はこれから暴力を振るわれるのにまだ俺の方を見ている。
部下の手のひらが日向の頬を叩いた。
日向は膝から崩れ落ち、また立たされ、また叩かれる。それを何度も繰り返された。
そのとき俺の中の何かが音を立てて崩れた。
中学のあの時の感覚と同じだ。
身体の節々が痛み、背中を踏みつけられていた状態から勢いよく起き上がる。
準はまたバランスを崩し、2、3歩後ろへ下がる。
「……てめーら……日向に何してんだよ……」
「なんだって」
聞こえなかったのか準がバカにしたように聞き返してくる。
「日向に……何してんだって言ってんだ!」
俺は駆け出した。
さっきまでの冷静な判断がなくなり、とにかく近くのヤツを殴りたかった。
まず、日向を叩いたヤツを殴り飛ばし、尻餅をついた所に蹴りを叩き込んだ。
でも、それだけじゃ足りない。
気絶したのにもわかからずソイツを引きずって行き、準に向かって投げ飛ばした。
とっさのことに動けなかった準は見事に投げ飛ばしたヤツに乗りかかられ倒れた。
そして最後に準の顔に渾身の一撃を叩き込もうと、大きく腕を振り上げる。
「や……やめてくれ……俺が悪かった……」
さっきまでの威勢はなくなり、情けなく涙や鼻水を垂らしながら命乞いを始めた。
でもこの程度で収まるような怒りじゃない。
俺は準の顔目掛けて腕を振り降ろそうとした。
「や……やめてください悪魔さん!」
日向の声が響いた。
「もう決着はつきました! その人も反省しています! 私だって元気ですよ!」
元気なことをアピールするためか、大きくジャンプしたり、走り回ったり、とにかく元気だと証明するように日向は振る舞っている。
たったそれだけのことで、さっきまで俺の心を支配していた邪悪な感情が浄化されたような気がした。
「ったく。なにやってんだよお前は。それじゃ小学生みたいだぞ!」
「むー。小学生なんてひどいですよー悪魔さん! 私はれっきとした高校一年生です!」
ほっぺを膨らまし、拗ねたように顔を逸らしながら、日向はいつもの元気な声で必死に怒りを表している。
またさっきのように不意打ちをされるのを警戒して準の方を見る。準は助かったというように、膝から崩れ落ちていた。どうやら今度は本当に戦意を喪失したらしい。
「さて、帰るか日向!」
「はいっ!」
俺が差し出した手を日向が掴む。
そして2人で帰った。




