9話
9話
教室に戻るともう昼休みだった。
どうやら結構時間がたっていたらしい。
長時間会話だなんてホントに俺らしくない、でも授業を受けなくて済んだのならそれはそれでいい。
適当に教室を見渡すと、みんな弁当を出すやら、購買に走るなりの行動を始めていた。
「咲良! 一緒に飯食おうぜ!」
俺も一人でアネキの作った弁当を食べようとしたところいつものように白鳥がやってきてしまった。
なぜだか白鳥は昼休みになると俺のところへ弁当を持ってやってくる。
白鳥は俺と違ってクラスでもお調子者としてそこそこ人気で、俺に話しかけていることもあって「あんな奴にも話しかけるなんていいやつ」というレッテルもある。
だから俺なんかと昼休みを過ごさなくても他の奴らと楽しく昼休みを過ごせるはずなのだ。
「1人で食うからいい。近寄るな」
とりあえずいつも通りに弁当の包みを開きながら拒絶する。
「おいおいひどいな。俺とお前の仲じゃないか」
「どの仲だよ」
わかっていたものの白鳥は今日も引くつもりがないらしい。
俺は肩に置かれた白鳥の手を振り払う。
「こ……恋人関係……?」
「もじもじしながらキモイこと言うな」
俺は白鳥から距離を取る。ついでに心の距離も。
「なんだよ~冗談だろ~」
「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ!」
こんな感じに昼休みが過ぎていった。
5、6時間目も滞りなく終わり、放課後になった。
俺は今日も帰宅部として、一早く教室を去ることにした。
後ろから白鳥が「咲良一緒に……」とか言っていた気がするが無視。
下駄箱で靴を履き替え、外に出るとそこにはアネキが待ち構えていた。
「げっ! アネキ」
「げっ! とは何よ! そんなことより一緒に帰るわよ竜也!」
「嫌だ! ていうか学校でまで俺にかまうな」
「うるさい! いいから行くわよ」
アネキに手を引っ張られて俺は半分あきらめモードに入る。
こういう時のアネキにいくら逆らっても無駄なことを俺は知っている。
なら諦めて一緒に帰って、自室に早く引きこもる方が最終的に俺の疲労度は少なくなる。
俺はアネキの手を振りほどき無言で一緒に帰ることを示すと、アネキは何がそんなに嬉しいのかにこにこしながら俺の隣に並んだ。
「あっ! 悪魔さん!」
後ろから何か最近聞いたような声が聞こえる。
「やっと見つけましたよ悪魔さん!」
その誰かは息を切らしながら俺の手首を掴む。
アネキも俺も立ち止まり後ろを振り返る。
「なんだ日向か」
振り返ってみれば、日向がいた。
でも捕まえるために人前で手を掴むのはやめてほしい。
なんかはずかしいだろ。
そして話しかけてきたからには何か用があるのだろう。
めんどうくさいので逃げようかとふと頭によぎったが、逃げてもおってきそうな雰囲気だし、最終的にアネキに止められそうだ。
一瞬で思考を放棄した俺は仕方なく我慢して要件を訪ねた。
「何か用か?」
「おっとそうでした! 悪魔さんに用があったんでした。」
思い出してしまったか。
忘れてればよかったのに。
そのまま帰れるし。
「悪魔さん! お願いがあります!」
日向の張り切った声に、俺は考えを改める。
日向が張り切っている以上、簡単なことでは終わらない気がする。
ちょっとのことなら考える余地があったが、この張り切りようから、ちょっとのこととは思えない。
「断る。俺は忙しい。アネキ帰ろうぜ」
俺は即刻撤退をしようとアネキを促す。
「バカ言ってんじゃないの! ちゃんと聞いてあげなさい!」
アネキに捕まってしまい、逃げられない。
しかもゲンコツまでくらってしまった。
公衆の面前だというのにこういうことはしないでほしい。
俺は目立つことが嫌いなんだ。
でもさすがは学校だ。アネキも本気で殴ったりできない。
いつもならアイアンクローなり、鳩尾パンチなり強烈なもの食らっていたはずだ。
これからは反論したいことがあったら学校でしてやろう。
俺が小さな決意を固めていると、アネキが俺に小声で話しかけてきた。
「あのカワイイ子だれよ? あんたの彼女? 友達はいないけど彼女はいます! みたいな」
「ちげーよ! 俺に友達も彼女もいねぇ」
俺たちが小声でやりとりをしていると、日向が話しを再開する。
「そうです! 何も聞かずに断るなんて…うぅ…ひどすぎますよぉ」
日向の目に涙が浮かび始めた。
普通ならすぐに踵を返して、立ち去ってしまうがアネキがいるのでそれができない。
できたところで後で大変な目に合うだろう。
それに俺はいざとなると、なぜか日向をほっておけない。
白鳥ならすぐ見捨てるのに。
「わかったわかった。聞くだけ聞いてやるから泣くんじゃねぇ。あと悪魔さんはやめろ」
「ホントですか!」
日向はさっきの涙はどこにいったのか、顔を明るくした。
俺は観念して、日向のお願いとやらを聞く。
「あのですね悪魔さん」
やっぱり悪魔さんは直らないのか。
「私、文芸部が作りたいんです」
「そうか、がんばんな。」
俺はとりあえず適当な応援をして、話しを無理やり終わらせにかかる。
きっとお願いは応援してほしいとかそんなところだ。
うん。そうだ。違いない。
それに聞いてやっただけ良いと思ってほしい。
「お願いはその話しを聞いてもらうことだな? そうなんだな? じゃあ行くわ」
「違います! 文芸部を作る上で悪魔さんにも文芸部に入部してほしいんです」
俺は一瞬、混乱してしまった。
隣を見ると、アネキも口を大きく開け呆けている。
そんなことはつゆ知らず、日向は話を再開する。
「そういえば、そちらの方は誰ですか?」
アネキの方を見て日向がきょとんとした顔をした。
一瞬、わざと無視してたかと思ったが、もしかしたら日向は本気で用事のあった俺しか見えてなかったのかも知れない。
うん。やっぱり後者だろう。前者とは思えん。
アネキが呆けた顔を元に戻し、質問に答える。
「私は舞! 竜也のお姉ちゃんよ」
「そうだったんですか。私は日向自由です。よろしくお願いしますね!舞さん」
「うん。よろしくね自由ちゃん」
俺を蚊帳の外にして二人は仲良くなってしまった。
そして日向は話を戻した。
「それで、入部していただけますか悪魔さん?」
「なぜ俺が文芸部に入部しなきゃならん。友達にでも頼めよ」
「うっ! お恥ずかしい話しなんですが、私には……友達と呼べるような人がいません……」
日向が笑顔を曇らせてしまった。
しまった。断りはしたかったが、悲しませるつもりはなかった。
女子への耐性がないからこういうとき、どうしたらいいかわからない。
どうしたらいいのかわからなかった俺はアネキに助けを求めるべくアネキに視線を送る。
するとアネキが「何してんのよ」と目で訴えてくる。
悪気はなかった。とこちらも目で返す。
「だから協力してください。お願いします」
日向は俺なんかに頭を下げてきた。
だが、俺の答えは最初から決まっている。
「すまんが断る。俺は文芸部に興味がない」
「そう……ですか」
「あぁ。用はそれだけか?」
「……はい」
日向の返事は重かったが、俺には関係ない。
むしろ俺に関われば日向が不幸になる。
俺は、ようやく日向と一緒に居るときに、この考えが浮かぶようになった。
アネキはなにも言わずにただ黙って事の顛末を見ていた。
そのアネキに目で「行くぞ」と伝え、アネキは少し迷った行動を見せたが、結局俺の後を追ってきた。
俺は友達ができるチャンスを捨て帰路についた。
アネキも日向に「ごめんねうちのバカが」と言い残し帰路につく。
家に着くまで俺たちは無言だった。
なんで断ったのか聞かれるものと思っていたが、アネキが聞いてくることはなかった。
まあ、なんとなくわかっているからだとは思うが。




