きくこと図書室
購買で買ってきたパンを慌しく食べ終えると、私は埃を立てないように気をつけながら、それでも勢い良く立ち上がった。
「今日は図書室の日?」
「うん」
一緒にお弁当を食べるようになった斎藤さんや湯川さんが、椅子を引いたりして私のために道を空けてくれる。
「きくちゃん、また図書室?」
教室の隅の方から笑いながら少し大きな声でそう言った綱本さんに、
「そう!」
私も大きな声で答えた。午後から教室移動や体育のない火曜日と金曜日の私の行動は、クラスの名物になりつつある。綱本さんが笑っているのはそのためだ。
自分で自分のことを行動的だとは思わないけれど、目的がある時の私は何か特別なスイッチが入る。授業が終わり教室の外に駆け出す男の子たちに混ざって、購買に向かいパンを一つ掴んで買って戻ってきてからまだ、十分も経っていない。
「行ってきますっ」
女の子たちの、「いってらっしゃーい」という声が揃ったので、みんなで笑ってしまった。友達としゃべりながら食べるお昼ご飯の楽しさに名残惜しさはあったけど、それでも私はあの本を読むと決めたのだ。
一年生の時、魔法使いの男の子が自分の影と戦う物語を読んだ。ものすごく面白かった。その本を教えてくれたのは部活の三年の先輩で、図書室に同じような本がまだ色々あると書いてくれたメモは、一年経った今でも生徒手帳に挟んである。
魔法使いの男の子の話の続編を読み終えた後、〈小さな人〉の冒険物語を読んだ。その後に続く、指輪を巡る長い物語は、自分で買って読んだ。そして、先輩のメモはその本の題名までで終わっている。
でも、私は見つけてしまった。衣装箪笥から子供たちが魔法の世界に旅立って冒険する物語を。
廊下を急いで階段を早足で上がり、図書室まで向かう。膝にまとわりつくスカートがわずらわしくて、途中からは掴んで押さえ、そのまま走った。
まだ人の少ない図書室に入ると、真正面の棚にあるその本めがけて直進し、手に取って前回に読んだページを開く。そしてそのまま、座ることを忘れて読み始めた。
この物語の中には、いったいどんな世界があるんだろう。