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第五話 目的の真相

 「失踪……?」


 ロゼル兵長ってあのムカつく野郎だよな? アイツが集めた魔力を持ち出して失踪ねぇ……


 「先程まではいただろう!! よーく探すんだ!!」


 兵士たちはそう言って、バタバタとどこかへ走っていった。さて、いよいよもってアイツの目的が分からんな。


 「マスター、どうしますか?」


 「どうするって……俺らが首つっこむことじゃないだろ」


 コイツ、あのクソ兵長のことを心配してやがるのか? つくづくお人好しだな……考えられん。


 「おや、こんなところにネズミが逃げておったか」


 「!!」


 背後から響く低い声。振り返っても誰もいねぇ……いや、ソイツは何も無い空間からゆっくりと姿を現した。この声……


 「大魔導師とかいうヤツだな、てめぇ」


 「ご名答だよ……脱走したとは聞いていたが、まさかまた脱走するとは……」


 チッ、コイツ透明にでもなってやがったか。大魔導師はまるで王様みたいな格好をした初老の男で、物々しい杖を持っていた。ルーシアが隠れるように俺の背後に回りこむ。


 「どうすんだ? また牢にぶち込むってのか?」


 「いや、媒体を兵長が持ち出した今、その必要は無くなってしまった」


 なるほど、どうせこれから溜めても兵長がどう利用するかわかんねぇしな。大魔導師は腕を組みながら考え、やがてこう言った。


 「どうだね、君たち。私に協力しないかね?」


 「協力……? ルーシアを売り飛ばそうとしたお前と?」


 しまった、ルーシアの前で言うこたなかったな。俺の服を掴んでいたルーシアがビクンと跳ねるのが分かった。


 「あれは私なりの配慮だよ……人型の魔物専門のメイド商がいてな、働かせる代わりに魔力をくれる。群れに溶け込めない彼女にはもってこいじゃないかね?」


 ……信用ならねぇな。大魔導師はさらに続けた。


 「私はね、牢屋から抜け出すほど元気がいい君たちだからこそ誘っているのさ。難しいことは言わん、ドラゴン退治の邪魔をしたロゼル兵長の捕獲を補助して欲しいのだ」


 「……アイツは何で魔力を持ち逃げしたんだ?」


 「さあね、優秀で国のために尽くしてくれる男だとは思っていたんだが……」


 肩をすくめる大魔導師。こうなっちまった以上、コイツはもう敵じゃねぇのか? 手を組んじまっていいんだろうか……


 「まあ、気が向いたら力を貸してくれ。役に立ってくれたら、君たちの仲間をまるごと解放してやろう……では、私たちはドラゴンの方にでも行くとする」


 そう言って、大魔導師は踵を返して階段を下りていった。それと同時に、ずっと俺の服にしがみついていたルーシアが深く息を吐いた。


 「……どうしたんだよルーシア、アイツはもう無害だと思うぞ?」


 ルーシアの顔を見ると、ひどく怯えていた。アイツに酷いことをされたことでもあんのか?


 「あの人……とても悪いことを考えている目をしてました……兵長さん、殺されちゃうかも……」


 まあ、国のみんなで集めてた魔力を持ち逃げしたんだから、最悪殺されても文句は言えないと思うんだが。まあ、物語が悪い方向に傾いてるような気はするな……

 ……そういや、この本って「魔術原本」なんだよな。ってことは、このまま何のアクションも起こさなきゃ、待ってるのは「魔術災害」なワケだよな。

 それってメチャクチャやべぇんじゃね?


 「……とりあえず兵長を探してみっか」


 何もしないより、何か起きたときに対処できるようにしといた方がいいしな。この言葉を聞いて、ルーシアは嬉しそうに笑った。


 「ありがとうございます……! 他の人に見つけられる前に見つけ出しましょう!」


 ルーシアはそう言うと、俺に抱き着いた。


 「なっ……なななななな何してんだ!!」


 「あそこの窓から出ましょう!」


 ルーシアは大きく翼を広げた。何だ、無駄にドキドキしちまったじゃねぇか。ていうか俺、飛ぶの初めてだぞ。


 「マスターもしっかりつかまっていて下さい!」


 言うが早いか、ルーシアは大きく羽ばたいた。一回羽を動かしただけで、こんなに飛び上がるもんなのか? っていうか怖ぇ!! 腕だけで宙ぶらりんになってるっていうのが最高に怖ぇ!!


 「ん……マスターって見た目より重いんですね」


 「……お、おう」


 俺たちは窓から外に飛び出した。うわ、地面が遠い。この城、どんだけ高層建築なんだよ! しかもすっげえ速く飛んでやがる。股間が寒くなってきた……

 しかし慣れてくると、今度は違う事案が気になってきた。俺とルーシアは今、抱き合うような体勢になってるワケよ。落ちないようにがっちりホールドなワケよ。……がっつり胸が当たるワケよ。しかも顔も近い。


 「マスター、大丈夫ですか? 顔が赤いですよ……この体勢辛いですか?」


 「イヤ……ナンデモネェ……」


 思わず顔を逸らしちまった。体力とは別の耐久値がゴリゴリ減ってやがる……


 「あれがドラゴンがいる小島ですね……」


 ようやく目的地か……魔法災害と戦う前に別の何かと真っ向勝負だったが、辛勝でよかった。見下ろすと、ここに来たばっかりのときに見た島が見えた。


 「おい、あれ兵長の野郎じゃねぇか?」


 その島に一直線に向かう馬がいた。あのいけ好かねぇ金髪、間違いねぇ……俺らは先回りして馬の前に立ちふさがった。


 「おい待てこの野郎!!」


 「チッ……また貴様らか……」


 兵長は後ろを確認し、止まった。意外だな、てっきりスルーされると思ったが。


 「何の用だ、私は今急いでいるんだよ」


 「大事なモン持ち出して、お前こそ何の用であの島に向かってるんだよ」


 兵長はそれを聞くと、懐から水晶玉を取り出した。中で赤いもやみたいなものが渦巻いている。


 「これのことか……貴様らには分かるまい」


 「あの……私、あなたが悪いことをしようとしているとは思えないんです! できたら訳を話してくれませんか?」


 ルーシアの言葉を聞いて、少しバツが悪そうな顔をする兵長。自分が魔力を巻き上げた相手にこんな事を言われたら、そりゃそうなるかもしれん。


 「……マリー様のためだ」


 「マリー様?」


 兵長はその言葉を皮切りに、関を切ったように放し始めた。


 「みんなあの大魔導師の策略なんだ!! 何がドラゴン退治だ……要はアイツがマリー様を謀殺し、この国を統治したいがための策略なんだよ!!」


 「ちょ、ちょい待て。順を追って話せ」


 兵長は我に帰ったように立ち直り、苦虫を噛み潰したような表情で再び語りだした。


 「……アイツはこの国のお抱え魔導師だった。国王に認められ、様々な魔術の研究をし、国を豊かにすることに励んでいた……だがそれは猫をかぶっていただけだったのさ。国王が亡くなると、アイツは本性を現した」


 ふーん、いつの時代か知らねぇけど、魔導師が公然と認められてた時代なんてあったんだな。兵長はさらに続けた。


 「王が亡くなれば、唯一の王族であるマリー様が国を統治するのが決まりだ。マリー様は王の意思を次いで、この国の王になる決心をしていた」


 「で、ドラゴンに攫われちまったんだっけか?」


 「違う!!」


 うわ、怖い顔。違うってんならどうだってんだよ。


 「アイツは……大魔導師はマリー様をドラゴンに変えたんだ」


 「!?」


 あのドラゴンが……人だってのか? ジャンボジェット並みにデカかったぞ?


 「もう分かるだろう? ドラゴンを退治すれば、マリー様の謀殺と国民の信頼を一挙に手に入れられる。あいつがドラゴンを殺すことに固執するのは、きっとそんな理由だからさ……」


 「違うな」


 不意に響くこの声は……大魔導師!! 声のするほうに振り返ると、ニヤニヤした面を下げた大魔導師が立っていた。


 「まさかそこまで嗅ぎつけているとは、さすがは有能なだけはある」


 「貴様……」


 大魔導師は島の方向をうっとりと見つめながら言った。


 「私がこの国の王に……? フン、それだけならばこんな回りくどい方法など取ったりはしないさ」


 「ならば……一体どんな目的なんだ?」


 「…………ドラゴンの懐柔さ」

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