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第四話 契約成立

 物心ついたとき、既に俺の両親は他界してた。保護されたのと同時に俺が魔力を持ってるのが発覚して、俺は魔術統合機関に引き取られた。

 幼稚園児くらいの頃には、平均的な成人の魔術師のおよそ五倍の魔力を有していて、一時は神童扱いされたもんだ。

 それから、俺の魔力では魔法を使えないことが分かった。よくわからねぇが、「お前の魔力で魔法陣を構築することは、ミサイルで彫像を彫ることと同じ」って説明が俺の中で一番しっくりきてる。

 俺は昔から、頭に血が上るとすぐ行動に移しちまうクセがあった。魔力をそのまんま力に変換しちまう能力のおかげで、気づいたら目の前のものを破壊してたなんてことがザラだった。自分が正しいと思ってるうちは、誰にも俺を止められなかった。


 ……今も似たような状況だ。だが、思考は至って正常。超理性的だ。


 「や……やめて!! あなたの魔力が空っぽになっちゃいます! ……もう二度と魔法を使えなくなっちゃうかも……!」


 「心配すんな、元から使えねぇ」


 強がったものの、今までエネルギーとしてた魔力が一気に吸い取られるってのはキツイもんがあるな……ま、背に腹は代えられねぇ。それに、全てをぶっ壊しちまうこの魔力なんざ、いつ無くなっても後悔しねぇ。

 首輪がまるで熱した鉄みたいに光を帯びていく……まだ終わらねぇのかよ。流石の俺もそろそろ倒れるぞ。


 「あなた……見ず知らずの私のために……こんな……」


 心配してんのか。そんなに苦しそうな顔してるかな、俺。


 「……お前、分かってんのか? 俺は俺の都合で、これからのお前の未来を縛ろうとしてんだぞ……?」


 そう、改竄師と契約するってことは、今までのコイツの生活を全部捨てさせて、俺について来させるってことだ。そんなことを知ってか知らずか、目の前のコイツはボロボロ泣いていた。


 「……それでもいい。ずっと一人だったから」


 その言葉とともに、俺の魔力が吸い取られていく感覚は収まった。真っ赤に光ってた首輪は徐々に落ち着き、やがて元の黒に戻る。


 「……どんなもんだ?」


 俺の魔力はほとんど吸い取られちまったな。コイツの器もそうだが、俺の魔力もすさまじいな。ルーシアの顔色は血色の良い色を取り戻し、牢屋で見たときよりずっと美人に見えた。


 「本当に私の魔力がいっぱいになっちゃった……あなた、何者ですか?」


 泣きながら安心したように笑うルーシア。……さっきまで死にそうだったクセに、ずっと俺の心配をしてたらしいな。


 「俺は我道 全吉。今からオメーのマスターだ」


 「……あはは、これからよろしくお願いしますね、マスター」


 何かくすぐったい感覚だな。コイツの感情が、少し俺にも流れてきてるみてぇな感覚だ。


 「貴様……何故ここにいる!!」


 しまった、背後への警戒を怠るとは不覚……後ろを振り向くと、俺を牢屋にぶち込んだ忌々しい男が俺を睨んでいた。


 「おっと……すまねぇな、邪魔した」


 俺はさっさとコイツをぶっ飛ばそうと拳を握るが、思ったように力が入らない。くっそ、魔力切れか……? こんなの初めてだ。


 「マスター、待って!! 素直に牢屋に戻りましょう!」


 「ハァ!? 何言ってんだお前!!」


 せっかく魔力を戻してやったのに、また牢屋に戻るってのかよ! 理解できない俺に、ルーシアは耳打ちした。


 「牢屋に戻って、みんなを助けたいんです。それに……この人は悪い人って感じはしないんです」


 コイツ、お人好しってレベルじゃねぇ! あんなに疎まれて近寄られすらしなかった薄情者どもを助けに戻るってのか? しかもこんな極悪人を悪い人じゃねぇって……


 「……わかった、わかったからそんな顔するな」


 今にも泣きそうなルーシアに負けた。コイツ、案外曲者だ……


 「……馬鹿力め、牢を破るとは。まぁ素直に牢に戻るなら見逃してやる」


 「その前に聞かせろよ。てめぇらの目的はドラゴンをブッ倒すことなんだろ? なんでこんな回りくどい方法を……」


 「誰がマリーを殺すものか……!!」


 何だコイツ、急に怖い顔になりやがって……でもそれって、あの大魔導師とかって呼ばれてた奴と目的が違うんじゃねぇの?


 「この者たちを再び牢屋へ」


 それを確かめる間も無く、俺らは増援に来た兵士に連れられて牢屋に向かうことになった。










 「おや、やっぱり捕まって戻ってきたかい」


 牢屋に戻るなり、俺と話したハーピィがニヤつきながら言った。


 「うるせぇな、助けにきたんだろうが」


 「助けに……ありがたいこった。だけど上手く脱出しても、すぐにあの大魔導師とやらに捕まるのがオチさ」


 そうなのか……今んとこ全力で戦えそうもねぇし、それは困る。


 「じゃあいつ出られるんだよ。あのドラゴンが倒されたときか? ……っていうかどういう経緯でこんなことになってんだ?」


 聞いてもどうせ理解できねぇから今まで聞かなかったが、本格的に気になってきた。何しろあのムカつく兵士と大魔導師の目的が違うんだからな。


 「そういやあんた、何も知らないんだったねぇ……詳しく教えてあげるよ。この国の国王が亡くなって、正式に王位継承権のあるお姫様がドラゴンに攫われた。そんな人間の都合で、私たちから魔力を搾り取ってるってワケさ。ドラゴン退治のためにね」


 何だ、案外簡単な理由でこんなことになってたんだな。でも、あのクソ兵士はドラゴンを殺さねぇって言ってたよな。


 「じゃ、俺らでドラゴンをブッ倒せばいいんじゃねぇの?」


 「そこが引っかかるんだよ……大魔導師ならドラゴンくらいどっかに退散させられるハズなんだ。でも大魔導師は殺すことに固執してるみたいでね、そんで大量の魔力を集めてるってワケ。」


 ……いまひとつピンとこねぇな。特にあのクソ兵士は何がしてぇんだ?


 「マスター、さっきも言ったんですが、あの兵長さん、悪い人じゃないと思うんです」


 「それが引っかかってたんだけどよ、どういうことなんだ?」


 「あの人、私が魔力不足で死ぬ前にここから出してくれたから……それに、時々すごく悲しそうな顔をするんです」


 それはお前を売り飛ばすためだって言ったら、コイツどう思うんだろうな。やめとくか。


 「……とにかくこの城から出ようぜ。牢屋の鍵は開けとくから、残りの連中は好きにしな」


 「はい……あのっ!」


 ルーシアはハーピィの連中の前に出ると、深くお辞儀をした。


 「今までお世話になりました!! もう戻ってこないと思いますが、皆さんお元気で……!」


 しばらくの沈黙の後、さっきのハーピィが嘲笑しながら言った。


 「ハッ……あたしらはアンタを世話した覚えもなければ、仲間だと思った覚えもないよ。どうやって生きながらえたか知らないけど、行くなら好きにしな。もう二度と帰ってくるんじゃないよ」


 「てめぇ……」


 殴りかかろうとする俺の服の裾をルーシアが掴む。なんで止めるんだ!? コイツらマジで許せねぇ……ルーシアは悲しそうな顔で首を横に振った。


 「いいんです……私は出来損ないのアルバトロスだから……」


 ルーシアはもう一度ハーピィどもにお辞儀をすると、さらに厳重に閉められた牢屋の扉に手をかざした。


 「あれは……魔法陣……?」


 ルーシアの指先からは淡い光が放出され、それが丸い模様を形作る。形成された魔法陣からは突風が吹き荒れ、針金でぐるぐる巻きにされた牢屋の扉を吹き飛ばした。


 「さあ、行きましょうか」


 「ハハ……すげぇな」


 まさか魔物にも魔法が使えるとはな。まあ、詳しいことは帰ってから晴一にでも聞けばいいか。俺らはこっそりと移動しながら、外に通じる窓を探した。


 「外にさえ出られれば、マスターと一緒に飛んで逃げられます」


 「そりゃ頼もしい……シッ、兵士が来る」


 向こうからあわただしく走ってくる数人の兵士。なんか事件でも起こったか? まさかこんなに早く脱獄がばれるとは思えねぇし……俺たちは物陰に隠れて兵士の声に耳を傾けた。


 「何事だ!?」


 「ロゼル兵長が……魔物たちから集めた魔力を全て持ち出して失踪しました!!」

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