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第三話 ルーシアの秘密

 「……あれ?」


 俺が再び起き上がったとき、ルーシアと名乗る女の子がいなくなっていた。結構眠っちまってたみたいだな。どこに行ったんだろ。


 「おい、ルーシアだっけ? あの子はどこに行ったんだ?」


 俺は近づかないように注意しながら、沢山いる魔物の一人に話しかけた。ほとんどの奴が俺を無視したが、子供のような見た目の魔物が答えた。


 「おねぇちゃん、連れて行かれちゃった……」


 「何?」


 連れて行かれた? 子供の悲しそうな顔を見る限り、釈放されたってワケじゃなさそうだな。


 「こら、人間なんぞに話しかけるんじゃないよ」


 側で見ていた大人の魔物が、子供を奥の方に連れて行く。


 「おい、俺たちは何でこんなところに連れてこられたんだ?」


 「フン、何も知らないってのかい。……まあ、格好からしてよそ者だしね、話してやってもいい」


 そいつは俺と向き合うと、つらそうに座り込んで話し始めた。


 「ここの国の奴らはね、魔力を集める為に魔物をとっ捕まえて、ここに集めてるのさ」


 「魔力? 何のために……」


 「さあね、ドラゴン退治でもしようってんじゃないかい?」


 そういうことか……そういえば、俺も含めてみんな妙なブローチを付けられてるな。


 「それが魔力を吸い取る装置さ。死なない程度に魔力を吸われ続けるんだ。あたしらハーピィは元々魔力が少ないからね、こんなんじゃいつ死んでもおかしくないよ」


 「ハーピィ? あの子もハーピィだって言ってたな」


 それを聞くと、目の前のハーピィはフンと鼻を鳴らした。


 「あの『アルバトロス』がハーピィ? あんな羽根が生えてるだけの人間臭いやつ、仲間でも何でもないよ」


 「……確かに、ショックで失神しちまったけど、アイツに触ってても全くアレルギー反応が出なかったんだよな」


 ん? これって、あの子と契約すれば万事オーケーなんじゃねぇの?


 「おい、あの子がどこに行ったか見当つかねぇか?」


 俺の呼びかけに、さっきの子供ハーピィが顔を出して答えた。


 「ルーシアねぇちゃん、ボクや弱ったお年寄りのブローチまで引き受けてたの!! だからきっと魔力がなくなっちゃって、捨てられちゃうのかも……」


 「何だと……?」


 そう言われればアイツ、顔色が悪かったような気が……クソ、すっげえイイヤツじゃねぇか!!


 「……介抱された恩は、返さねぇとな」


 「助けに行くってのかい? そんなモン付けた状態で、まともに動けるとは思えないけどねぇ」


 こいつら、この我道さんをナメてるな。魔力を吸い取られてるとか言ってるが、俺には何の影響も感じられねぇんだが。俺は服に付けられていたブローチを引きちぎった。


 「……あくまで行こうってのかい。あんたの魔力が吸えなくなった分、あたしらの負担が増えるんだ。せいぜい早くとっ捕まって帰ってきておくれよ」


 「心配すんな、全部片付けてお前らも助けてやっからよ」


 俺はカギのかかった牢屋の扉を掴むと、一気に力を入れた。


 「んがっ!!!!」


 扉はバキッという音と共に外れる、意外と脆かったな。……ハーピィの奴ら、呆気に取られてやがる。俺は道なりに進み、牢屋から脱出した。


 「なんだここ、城みてぇだな」


 石造りの壁に、豪奢に飾られたロウソク。国のトップがこんなことをやってるなんて、世も末だな。あ、だから封印されたのか。


 「おっと」


 しばらく進むと、人の気配がした、俺は少し戻り、壁に寄り添って隠れた。何やら相談をしてるみたいだな。


 「大魔導師様、魔力は順調に集まっておりますが、先ほど一人の魔力がほぼカラになってしまい、その分集まりが悪くなってしまうかと……」


 この声、馬に乗ってた偉そうな兵士だな。今すぐぶん殴ってやりてぇが、まだ様子見だ。


 「そうか……これでドラゴンを倒し、島に幽閉された姫様を助ける準備がまた整ったわけだな。まあそう急ぐでないぞ。ご苦労だったな」


 もう一人の大魔導師とか呼ばれてた奴は、結構オッサン声だな。やっぱドラゴンをぶったおす算段を練ってたわけだ。


 「では、私は引き続き魔物を集めて参ります。先ほど連れ出した魔物はどういたします?」


 「あれほど美しい顔は、人間にもそういないからな。きっと高く売れるだろう。彼女が意識を取り戻したら言ってくれ」


 この外道共が……怒りで勝手に足が動いちまいそうなのを何とか堪え、俺はその場を離れた。早いとこルーシアを助け出そう。あいつらをボコボコにするのはその後だ。

 俺がしのびながら城内を探し回っていると、向こうから兵士が二人歩いてきた。めんどくせぇ、倒しちまうか……? 柱の陰に隠れながら様子を伺ってると、奴らはこんな話をしていた。


 「なあ、本当に行くのか?」


 「ああ……お前だって見たろ? あのべっぴんな魔物! 売り飛ばすには惜しいじゃねぇか。ここんとこ兵長が殺気立っててストレス溜まるし、ちょっとくらいいいだろ」


 なるほど、正直な奴らだ。俺はこいつらの後をつけていくことにした。ちょうどいいことに、こいつらも人目につかないルートを選んで進んでるから、他の誰とも鉢合わせずに済んだ。


 「よし、ここだここだ」


 「早く開けろよ! 誰か来ちまうぞ! ……ぐえっ!!!」


 俺はそいつらを近くの壷に叩き込むと、その扉を開けて中に入った。医務室のような部屋だな。そこにポツンとあるベッドに、やたら白い顔のルーシアが眠っていた。


 「……やっぱ、すげぇべっぴんだ」


 思わず見とれちまいそうな寝顔だ。兵士共が間違いを起こすのも無理はねぇな。……本当にこいつならアレルギーが出ねぇんだろうな。俺は確かめる為、恐る恐るコイツの頬を触った。


 「ん……」


 起こしちまったか。でも、本当にコイツならアレルギー反応が出ねぇ!


 「よう、助けに来たぜ」


 ルーシアは一瞬嬉しそうな顔をして、すぐに表情を曇らせた。


 「……お気持ちはすごく嬉しいです。でも、私……」


 「どうしたんだ?」


 「私……もう長くないんです……」


 何……? もう長くないってつまり……死にそうだってことか? 顔色は悪いが、すぐ死にそうには見えねぇぞ。


 「……どういうことだ?」


 「私、魔物として致命的な欠陥があるんです。自分で魔力を作り出すことができないの。生まれつき大量に魔力を持って生まれて、それがもう枯れちゃったんです」


 つまり、コイツは他人のために魔力を使いすぎて、もう底をついたってことか?


 「……魔力さえあれば、まだ生きられるんだろ?」


 「そうですけど……」


 決めた。俺は自分の利害とか置いといて、コイツを助けたくなったぜ。


 「お前、俺の魔物になれよ」


 「ふえ……?」


 何顔を赤くしてやがるんだコイツは。俺は大真面目だぞ。確か魔物と契約すりゃ、魔力の相互間移動ができるんだろ? そうじゃねぇと俺が魔物の魔力を使ったりできねぇからな。


 「そ……それって、私と『契約』するってこと?」


 「おう」


 ルーシアは嬉しそうな、困ったような表情で俺をチラチラ見ていた。何だよ、遠慮してやがんのか?


 「でも……さっきの私の話、聞いてましたよね?」


 「おう」


 何か不都合でもあんのかよ。真顔のままの俺に、ルーシアはあたふたと説明を始めた。


 「あ、あのですね……魔物との契約って、その魔物の食料……つまり魔力を一生提供する代わりに、魔物の魔力を借りるって契約ですよね? 確か、契約時にその魔物の魔力をいっぱいにしなきゃいけないハズなんです」


 「だからどうしたんだよ」


 「私、この年まで底を尽きないくらいの魔力貯蓄を持ってたんです。きっと私の魔力をいっぱいにできる人なんて……」


 「あー!! めんどくせぇな!! 嫌なのか嫌じゃねぇのかはっきりしろよ!!」


 ルーシアは困ったような顔で、小さく言った。


 「う……嬉しいですけど……」


 「よし、じゃあ決まりだな」


 俺ポケットから契約用の首輪を取り出して、ルーシアの首にはめた。

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