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第一話 我道 全吉の災難

 問一、回復魔法の基本魔法陣を書きなさい。


 「……」


 問二、魔法陣の追加効果符号の種類と、使用上の注意点を書き出しなさい。


 「…………」


 問三、攻撃魔法の使用が許可される場合の例を二つ書き出しなさい。


 「………………わっかんねぇぇえええええええええええ!!!!!」


 「こら、『我道がどう 全吉ぜんきち』!! うるさいぞ!!」


 答案用紙に突っ伏す俺を、監督の教師が注意する。

ここは「関東魔術統合機関学校高等部」っていう長ったらしい名前の高校だ。見た目は普通の高校だが、蓋を開けてみると魔術素養のあるやつをかき集めて、魔法使いになる方法なんてもんを教えてる学校なんだな、これが。

今は魔術総合学のテスト中なんだが、清々しいほどに一問もわかんねぇ。


 『キーンコーンカーンコーン……』


 終業のベルとともに回収されていく答案用紙。いっそ名前も白紙で提出してやろうか。たった今、進級レベル調査兼実力テストの全日程が終了したワケだ。五教科で、トータル二問くらいしか書けてないような気がするが、まあ気のせいだろう。


 「全吉ー、どうだった?」


 机に寝そべる俺に、ちっこい男子生徒が声をかけてくる。


 「おう、優斗か。見ての通りだ」


 「ダメだったか……ご愁傷様」


 こいつは「桜川さくらがわ 優斗ゆうと」。この高校に入って以来の腐れ縁で、一応友達と呼べる間柄なのかもしれん。女子みてぇになよっちい身体に低身長、男のクセにサラッサラの黒髪で右目が隠れてる。ダメダメだった俺とは対照的に、優斗は達成感に満ちた顔をしていた。


 「ボクは概ね満足かな。これなら進級クラスは選び放題かもね」


 そう、二年にあがって早々に行われたこのテストで、どんなクラスに進級できるかが決まる。進級クラスによってなれる「魔術職」が決まるから、みんな躍起になって勉強してやがる。


 「……なぁ、どのクラスにも進級できなかったらどうなるんだ?」


 「留年じゃね?」


 サラッと言ってくれるなコイツ。親友がピンチだってのに。そんな会話をしていると、後ろの方からひそひそと話し声が聞こえてきた。


 「あー、あんまできなかったなーテスト」


 「大丈夫だって、そこの金髪のでかいバカに比べりゃできてんだろ。アイツ、少しも鉛筆が動いてなかったぜ?」


 「それもそうだな! クスクス……」


 ……ほーう、楽しそうな話してるじゃねぇか。さては俺のことを良く知らないらしいな。よし、教えてあげよう。


 「誰がバカだって?」


 俺は満面の笑みでそいつらに向き合う。これでビビッてこそこそするなら見逃してやらんでもないが……


 「聞こえてたのかよ。オメーだよオメー」


 俺は笑顔を崩さず、目の前の机を素手で叩き割った。


 「なっ……なななななななな」


 「おっとスマン……バカなもんでつい感情が表にでちゃったなぁ」


 「ちょ、ちょっと全吉!! 何やってんのさ!!」


 止めてくれるな優斗。これからがいいところなんじゃねぇか。


 「に……逃げろぉおおお!!」


 チッ、逃げたか。まあいいだろ、これであいつらはもう俺の前で顔を上げられまい。


 「全く、相変わらず何て力してるんだか……バカにされるのが嫌なら勉強すればいいのに」


 「うるせぇ」


 俺は無駄にざわつく教室を出て、食堂に向かった。ここの教師ならあの机くらい、魔術で直せるだろ。


 「あ、ボクも行くよ」


 優斗と一緒に昼食を取る。ここの学食はマジで美味いからな。しかも値段がリーズナブルときたもんだ。俺はサバミソ定食(特盛)を夢中でほお張った。


 「午後にはもう採点されて、進級可能クラスが分かるみたいだね」


 「うるせ、メシ時に勉強の話すんなよ」


 やれやれといった表情で牛乳を飲む優斗。コイツだけは俺の性格に合わせられるんだよな。逆にコイツの神経を疑うぞ。


 「全く……進級したらボクと違うクラスになるかもなんだから、そんな暴力的じゃ嫌われちゃうよ?」


 「俺の性格と馬鹿力は生まれつきなんだよ……で、お前はどのクラスに進学するつもりなんだ?」


 「決まってるじゃん、改竄師クラスだよ!」


 目を輝かせながら言う優斗。そういえばコイツ、いっつもカイザンシになりたいって言ってたっけ。


 「……カイザンシって何だっけ」


 「は? 魔術師で改竄師を知らないとか、野球選手でイチロー知らないようなもんだよ?」


 優斗は呆れたようにため息をついて、説明を始めた。


 「改竄師ってのは、昔に起こった魔法災害を封印した本に入って、その元凶を殲滅する仕事。魔術職の花形だね」


 「魔法災害?」


 「まだ魔法開発が未熟だったころ、結構ヤバイものを呼び出したり発生させちゃったりしてたんだって。人食いドラゴンとか、消えない竜巻とかね。そういう災害を、発生した時間まるごと切り取って本に封印してたんだ。魔術師の命と引き換えにね」


 へー、知らなかった。物語の本は小さい頃から好きだったが、そんなもん聞いたこともなかったな。


 「改竄師クラスって超人気だから倍率高くてさ。だから一生懸命勉強したんだ」


 「お疲れなこったな。俺はなれれば何でもいいや……おっと、もう午後の授業が始まるな」


 俺は急いで残りの飯をかき込み、ホームルームへと向かった。コイツと違うクラスになるのはほぼ確定みたいなもんだな。寂しくなるぜ。

 ホームルームに戻ると、もう成績表が配られていた。あれに進級可能クラスが書いてあるんだよな。何も書いてなかったらどうしよ。


 「見て! 全吉!! 全クラス進級可能だって!!」


 一足先に成績表を受け取った優斗がはしゃいでいた。秀才はやっぱ違うねぇ。俺は別の意味でドキドキしながら成績表を見なきゃなんねぇってのに……俺は覚悟を決めて成績表を開いた。


 総合点 4点


 進級可能クラス 改竄師クラス


 「うっそぉ!!!?」


 肩越しに俺の成績表を見ていた優斗が、驚嘆を声を上げた。


 「ふ……ふはははは!! これが俺の実力よ!!」


 「四点でもいけるなんて……ボクが頑張った意味って……」


 そううなだれるな、優斗よ。俺のスペックが異常に高かった。ただそれだけの話だ。俺は小躍りしそうな勢いで改竄師クラスの教室に向かった。


 「結構普通の教室だな」


 改竄師クラスは至ってシンプルな教室で、変わったところと言えば本棚がいっぱいあるってところだ。三つしか机がなく、その一つには女生徒が座っていた。赤い髪をツインテールにした、おとなしそうな女だ。本を読みふけっている。


 「よお、改竄師クラスってここで合ってるか?」


 女生徒は無表情でこちらを一瞥し、また読んでいた本に視線を落とした。このやろう、無視かよ。


 「全吉、拳は仕舞おうね……ほら、担当の先生が来たみたいだよ」


 前に視線を戻すと、さっきまでいなかったはずの男が教壇に立っていた。教室のドアが開いた音はしなかったんだが……男は教師というよりホストと言った方がしっくりくるような奴だ。白いスーツに黒髪がそんな感じだ。


 「はい、皆さん揃ってますね? 私がこのクラスの担当教師『夜野よるの 晴一はるいち』です。皆さん仲良くしましょうねー」


 喋り方までウザい奴だ。残念ながらこのクラスでそういうのにまともに返事をするのは優斗しかいないぜ。晴一は軽く咳払いをしたあと、続けた。


 「えーと、このクラスを選んだってことは改竄師についてくらいは知ってますよね? なのでその説明は省きます」


 俺はついさっき知ったばっかりだがな。晴一は本棚の方に歩いていき、一冊の本を取り出した。


 「はい、これが『魔術原本』です。ただしもう改竄済みのね。皆さんには早速これを使って、あることをしてもらいます」


 「あること……?」


 俺と優斗が同時に言った。晴一は反応が返ってきたのが嬉しいのか、ニコニコしながら言った。


 「あることとは……魔物と契約することです。実は、原本の中に入るには『魔物の魔力』が必要なんですよ」


 魔物って魔法生物のことか? 知らなかった……


 「おい晴一、それって俺でもできるのか?」


 その俺の言葉に、晴一は嬉しそうに答えた。


 「ああ、君が我道くんですね!! 何でも統合機関学校始まって以来の問題児だとか……確か魔術が使えないんですってね? 大丈夫、この首輪と自分の魔力さえあれば、どんな劣等性だろうとできますから」


 いちいちムカつく物言いの野郎だ。晴一は首輪を三つ取り出して、俺たちに配った。


 「さて、習うより慣れろってね。じゃ、早速私の魔力で本の中に入ってみますか」


 「先生……」


 晴一が本のページをパラパラ捲っていると、今まで一言も喋らなかった女が声をあげた。


 「何ですか、絵梨さん?」


 「私……もう契約してます……」


 絵梨と呼ばれたそいつは制服の胸元を開ける。そこからぬいぐるみの猫みたいなのが飛び出してきた。背中には悪魔の羽みたいなものが申し訳程度に生えていて、目は死んだ魚みたいだ。


 『よーう、紹介が遅れたなぁ諸君。オレはマールヴォロってんだぃ。よろしくなぁ』


 メチャクチャ渋い声でそう言った猫。何だこのオモシロ生物は……しかしこれが魔物か。初めて見た。俺はそいつの耳を引っ張ってみた。


 「う……うげっ!!」


 な、何だ!? 全身の筋肉が痙攣する……呼吸ができねぇ!! コイツ、毒でも持ってたんじゃ……俺はそのまま、意識を手放した。










 「う……」


 次に目を覚ましたとき、俺は保健室のベッドにいた。どうやら運び込まれたらしいな。ベッドの傍らには晴一がいて、俺の顔を覗き込んでいる。


 「おや、お目覚めですか」


 「ああ、最悪の気分だ……あのクソ猫、毒か何か持ってんのか?」


 「それのことなんですがねぇ……」


 晴一は言いにくそうな表情で言った。


 「検査の結果、君が『魔物アレルギー』だと判明しました。改竄師になるのは諦めてください」

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