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簡単なキャラ付け
主任……良く自分の考えてる事で食い違いが起こる。勘違いや違う事を考える事が多い。
結構チートな人。
MD……声が出せない+人間不信。でも言葉は理解してる。特技は殺傷。主任=親と認識している。良い子。感情の表現方法が動物並。本体は結構丈夫。
「……嘘じゃなかったのね」
白いシーツが敷かれたベッドの上。割と見慣れた天井を見て、現状を把握。
ぼさぼさの髪を体に巻きつけるようにしながら上半身を起こす女性が一人。寝起きで機嫌が悪そうな目を閉じて一つ、大きな溜息をこぼした。
先程の事が脳裏に焼きついている。あの観測者と名乗る者は本当に自分の考えが及ぶような存在では無いと認識した彼女――主任は、周囲を見渡した。
「……仮眠室、かしら」
ベッド以外にはカーテンに遮られた窓があるだけで、部屋の灯りすら無い。壁紙は落ち着きのある白で、その癖部屋にベッド以外に何も無いせいで存在感がおかしい。
まるで生活感の無い部屋。一言で表せば、正しくそれだ。
「物悲しい部屋ね」と一言呟いて、部屋の扉を開ける。観測者が言うには「LBA用研究所を用意した」らしいが、生憎主任が務めていた研究所には仮眠室はあってもこんな大層な部屋ではなかった。
「……」
どうしても、嵌められたように感じてしまうのはどうしてか。
彼女の錯覚では無い筈だ。扉を開ければ、成程、実に妙だ。
上から覗き見れば、太い三角柱のように見えるだろう。天井に大きな換気扇が付いている。壁や床は剥き出しの金属だった。
主任が出て来た扉を含めて、扉は三つ。色は全て黒塗り、他の物とは不釣り合いなほどに木材で出来ている。見える扉二つには、それぞれ目に焼きつくような赤い蛍光色で『LBA』『試験場』と書かれている。
部屋から出て扉を閉める。扉には同じ色で『寝室』と書かれていた。
(……あの子は……『LBA』の扉か)
迷わず扉に手を掛け、扉を押す。――が。
「……ん?」
まるで鉄の塊が扉の向こう側に置いてあるかのようで、びくともしない。
ドアノブを一応確認するが、鍵穴がある訳でも無い。
ためしに逆方向へ、つまりは引けば、いとも容易く開いた。
「ノ、ノーカウント!」と言い顔を赤らめながら扉を潜る主任の姿は、酷く微笑ましい。だが、扉を潜った次の瞬間には、もう変わっていた。
中は大よそ二十メートル四方、高さは五、六メートル程か。金属質の床は一切の塗装はげがない緑一色。部屋、というよりLBA室と言う方が正しいか。中央の床には光の輪を出す装置が有り、高さは四メートル強ほど。向かいは壁一面大型のシャッターとなっている。
見た所四区切りにエリア分けしている様で、それぞれに物が置かれている。
一つは巨大な装置。ガラス越しに見える装置の内側には旋盤や溶接用のアーム、ドリルや用途の知れない機具が所狭しに並んでいる。それを動かす為の物だろうか。主任の目の前には百では足りないキーボードが敷き詰められていた。
その横の何か置けそうなスペースに、分厚い説明書のような本が設置されていた。
それは後にしようと、他のエリアを見て絶句。
「……MD」
ある一つのエリアは、監視カメラか何かで撮影された映像が送られていた。モニターの総数は二十一。操作するための装置などは無く、台座のような物があった。
一つは、機体が置かれていた。黒塗りの、殆どの武装と強化外骨格が融合した機体。総重量600キロオーバー。全長二メートルにも及ぶそれ。それを覆うような機械が如何にも違和感を覚えさせる。此方も台座のような物が有るだけだ。
しかし、見ていたのはその機体では無く、その隣のエリアにあった。
そこに居るのは、主任が見間違える筈が無い。
背の高い黒髪の子供。肌の色は白く健康的では無い。その体はいたる所に縫合痕が見受けられ、特に左腋には穴が開き、機械が取り付けられている。性器は完全に取り除かれ、人間は此処までやるのかと実感させられる。顔は凍ったような無表情。
人に作られた被害者、MDがいた。ビーカーのような機械の中に、生まれたままの姿で、黄色い透明な液体に漂いながら。
MDの周囲には巨大な長方形の箱のようなものが倒れるように鎮座している。その内の一つは巨大な装置と同じくキーボードがあった。数で言えばパソコンと大差ないだろう。
しかし、主任の眼にそれは最初から映っていなかった。
駆け寄る。顔を崩して、唇を噛んで、必死に堪えながら。
がん。勢いを殺しきれず、衝突。しかし、主任は気にも留めず「よかった」と震える声で硬い防弾ガラス越しに、MDを抱きしめた。
「……ごめんね」
『……うぅう』
短い返事を返して、MDは、目を瞑って笑っているようにも見えた。
数分か、数時間か。兎も角、ある程度の時間が流れた所で、主任はMDから離れた。
「恥ずかしい所を見せちゃったわね」と目を赤くしながら。何処か、覚悟を決めていた。
「……うん。もう大丈夫……さ、て。どうやってMDを出しましょうか……」
「……うぉう。うあぁぅ……」
返事の意味は、MDしか知る事は無かったが。主任を拒む事は無かった。
その様子は、本当の親子のようにしか見えない。
主任がこの世界で目を覚ます、数時間前の事。
キルム王国の領地である森林地帯の奥地にて、謎の建造物が発見された。唯の建造物では無く、屋根にはよく分からない黒い板が幾つか配置され、魔法による大規模な『空間改変』の形跡が見られる。
それを城壁の上から見ていた兵士達は慌てて王へと伝えた。
「で、伝令! 森林地帯の奥地にて、謎の建造物が出現! また、大規模な空間改変の痕跡が見られる模様!」
「……空間改変? ……はぁ。面倒事がまた増える」
そこは王室とは思えない質素な部屋で、中で生地の薄い質素な服に身を包んだ若い男が一人、椅子に腰かけ年期を感じさせるテーブルと向き合いながら羽ペン片手に書類をまとめていた。
「……カルフ」
「此処に」
王、ロイド・エドワーズ・キルムは友人であり、最も信頼できる部下の名を呼ぶと、友人、カルフ・サイズが姿を現す。
「面倒事が立て込んで起こるな。今年は厄年か」とロイドがその身分に合わない言動で頭をがりがり掻くと、カルフは「厄年は数年前からだろう」と返事を返す。
「兵の指揮を頼む。ってか、調査隊組んで送ってくれ。念の為に討伐隊も。奥地ってなると、ストーンベアの縄張りだった筈だ」
「討伐隊は必要ない。おれが直接出る。……時間的には、三時間ほどかかりそうだがな」
付近は危険度指定Bのストーンベアの住み処があり、縄張りだ。
故のロイドの判断だったが、「なら、任せていいか」と先の言葉を撤回した。
「んじゃあ、任せた。期待してるぜ、『火炎のカルフ』殿」
「書類仕事、頑張ってな。『賢王ロイド』」
そう言い合って、カルフは兵を連れて王室を後にした。
その顔に、優しい笑みを湛えながら。
「成程……これをこうすれば……よし。出来た」
分厚い鈍器に使えそうな本を床に置いてぺらぺらと読み飛ばすような勢いで見てから、かたかたかた、とキーを叩く。その動きは淀みなく、どちらが機械なのか判断に困る。
ぷしゅー、と音を立てて満ちていた黄色い液体は抜け、中で浮かんでいたMDはしっかりと立っていた。中には液体が満ちていた筈なのに怖いくらい濡れていない。
(……どういう事かしら。まあ、拭く物を探す手間が省けたと考えればいいか)
そう考えを打ち止めて主任は何も着ていないMDに自身の白衣を被せた。「ぅあ?」と声を上げるMDに「ごめんね、今はそれしか服が無いの……」と言うと慣れていない動きで袖を通す。
主任はこの日、“MDの衣の確保”を誓った。
「さて……どうしよ――」
どうしようかしら。その言葉が最後まで紡がれることは無かった。
ウー! ウー! とサイレンがLBA室に響く。何事かと思い、モニターの存在を思い出した主任が見ると、外には武装した十数人の人間が居るようだ。
その身なりは、昔小説などで見た盗賊を連想させる。
「……うぅ」
「MD……?」
のろのろとした足取りで何処かに向かおうとするMD。その進行方向にある物、機体を見て主任は迷った。
確かに自身は戦闘能力なんて塵に等しい。でも、親として子を戦場に送り出すのはどういう物か……。
「……うぁう」
「MD……行きたくなければ、行かなくてもいいのよ?」
その問いに、兵器は迷わず首を振った。それを見た主任は決心したように溜息を一つ。
主任は、機体の傍にある台座に手を掛けると声を出した。
「『システム機動』、『胸部搭乗スペースオープン』」
ただそれだけの言葉。それだけで機体の胴体が縦にスライドし、MDだけが乗り込めそうなスペースが出来上がった。
MDは近寄り、鎧のようなそれを纏ったのを確認した主任は「『スペースシャット』」と呟くと、スライドした胴体が下がった。
「ヴウゥ……」
「弾はまだ無いみたい。だから、接近戦しか出来ないけど……私達のしる場所じゃない以上、警戒していてね。MD」
「ヴォオウ!」
返事を返したMDにほほ笑むと、MDは中央の光の輪を出す装置――テレポーターに乗った。
それだけで、MDの姿は掻き消えてしまった。
「……気を付けて」
「親方ぁ……。おれあそこ行くの勘弁願いたいんですけどぉ? 規模から言って怪しさとかぷんぷんじゃあないですかぁ」
「なに、心配は要らない。中に誰か居るかどうかの確認だけをしてくればいい。誰かいりゃあ殺せばいいだけだろうがよ」