3
日曜日。多嶋達は約束通りの時間に、いつもの喫茶店の前に集まっていた。
「やあヨータロー。今日はすぐ見つけてくれたね」
「ああ」
眼鏡が無かったからな。と倉塚が自転車のストッパーを跳ね上げていう。
倉塚はベージュのカーゴパンツにモスグリーンのポロシャツを着ている。今日は猿原に会うと言ったからか、モッサリとした髪はいつもより撫で付けられているようだ。
「それより、猿原さんの住所……お前本当に分かるんだろうな」
「任せてよ。ヨータローは僕についてくればいいからさっ」
多嶋はそう言うとショルダーバッグを背負い直し、すでにマウンテンバイクを走らせていた。
倉塚はその斜め後ろから、並走にならないようについて行く。
「なあ良樹」
「なに?」
多嶋がペダルから足を離し、坂道を疾走しながら振り返る。
「ところでお前、アポは取ってあるんだよな」
「ん? 栞莉の?」
多嶋は下り坂の勢いのまま、緩やかな坂をぶうんと上った。
「ううん、何も言ってないよ。だって、電話番号知らないもん」
「なっ……」
倉塚はペダルを回し続けた。ママチャリの倉塚は、坂道ではすぐに置いていかれてしまうのだ。
「じゃあお前は、女子の家にいきなり押し掛ける気なのか!? 」
「そうだね。でも猿原だから大丈夫だよ」
と多嶋がにこにこしながら青信号を渡っていく。はぁ、と小さく溜め息を吐いて倉塚はそのあとに続いていった。
角を曲がると、意外と早く目的地が見えてくる。多嶋は「ここだよ」と片手でマンションを指し示し、入り口近くまで行くとギアを緩めた。
二人が到着したのは8階建てで、瀟酒な外観の大きなマンションだった。多嶋は壁際に自転車を止めると、「こっち」と言ってガラス張りの入り口に入っていった。
「良樹、ここ来た事あるのか?」
倉塚も後を追いながら質問する。
「まあね。四回くらい……あ、602号室の栞莉ちゃんに忘れ物届けにきました」
多嶋が受付に声を掛けると、人の良さそうな初老の監視員が「はあい」と微笑みながらエントランスの自動ドアを開いてくれる。このお爺さんならセキュリティなんてあってないようなものだなと、苦笑しながら倉塚もガラスのドアをくぐった。
多嶋はズンズンと先に進んで突き当たりのエレベーターのボタンを押す。倉塚は待っている間、多嶋の臆面も無く行動する様に落ち着かない気持ちになった。
「本当に突然入って大丈夫なのか?」
「心配性だね。大丈夫、猿原だよ? 長い付き合いじゃないか」
そうだけど。と倉塚が言い淀む。
「でも、今まで俺、あんまり会話してないぜ。それに最近は『倉塚君』って呼ばれるようになったし。前までは名前で呼んでくれたのに……」
多嶋が苦笑いする。二人は降りてきたエレベーターに乗り込むと、六階に上がるボタンを押した。
「だったら尚更じゃないかい? ヒロインがストーカーに困ってる時に話を聞きにいかなくてどうするんだ。男を上げるチャンスだよ! ま、僕はヨータローの岡惚れに手も口も出すつもりはないけどね」
「お、岡惚れとか言うな。そんなんじゃない」と、いつになく同様したように倉塚が言う。いくら隠しても、倉塚の意中の相手が猿原なのはバレバレなのである。
「そんな事より、僕の知りたいのはストーカー事件の方だよ。僕の灰色の脳細胞を存分に働かさせてもらうよ」
個人的野次馬根性じゃないか、と心の中で倉塚がツッコむ。
「灰色なのは、人生だけで充分だ」
エレベーターのドアが開くと、多嶋はすぐに廊下へと進んだ。倉塚は場所を知らないので、その後について行くしか無い。
多嶋は目的のドアの前に行くと、ピンポーンとインターホンを鳴らした。
扉の向こうから「はーい」と若い女性の声が聞こえる。
「やっぱ俺……」と、踵を返そうとする倉塚の袖を多嶋が引っ張り戻すと、扉が開き、女の人がドアの隙間から顔を覗かせた。
「あ、どうも。同じクラスの多嶋良樹です。栞莉ちゃん居ますか?」
「あら良樹くん、いらっしゃい。どうぞ上がって」
そう言って女性はチェーンロックを外して、笑顔で二人を招き入れた。どうも、と倉塚も会釈する。
顔を上げた時その女性を正視して、倉塚は驚いた。
美人過ぎる。猿原さんが大人になったら、きっとこんな感じになるのだろうと思い、倉塚はその女性が猿原のお姉さんであろうと推測した。
「栞莉ー、お友達来てるわよ。良樹くん」
お姉さんが家の中に呼びかけると、「ふわぁい」というような欠伸混じりの声が聞こえ、開いたドアの一つから寝間着姿の少女が出てきた。
胸元までボタンを開けたピンクのパジャマをだらしなく着崩し、いつもは後ろで結んでいる髪をボサボサに下ろしている。目を擦っていた彼女は玄関前に居る倉塚と目が合い、一瞬固まると、「きゃっ」と小さく悲鳴を上げて違う扉に飛び込んだ。
「ちょっと! なんでドア開けちゃうの!」
猿原の入った部屋からドタドタと音が聞こえてくる。
「あらあら。ごめんなさいね」お姉さんが頬に手をあてて、多嶋に微笑みかける。
「じゃあ栞莉ー、お母さんちょっと郵便局行ってくるから、留守番お願いね」
ゆっくりしていってね。とお姉さんが靴を履いて外に出て行くと、「お邪魔しまーす!」と多嶋が勝手知ったるかの如く靴を脱ぎ捨てて上がり込んだ。倉塚は今のが猿原の母親だと知ってさらに唖然とした。
「待って待って! まだ入っちゃダメ!」
猿原は両手いっぱいに何かを抱えて部屋を飛び出し、別の部屋に飛び込んだかと思うと、また大量に何かを抱えて元の部屋に戻った。
「栞莉の部屋に突撃ー」と言ってドアノブを掴もうとする多嶋の前でバタンと扉が閉じる。
「片付けるまで待ってて! 絶対に入ったらダメだから!」
扉の向こうからまたバタバタと片付けの音が響いてきた。
「こんな事だろうと思ったよ」倉塚が多嶋に続いて扉の前に立つ。
「ヨータローも猿原の部屋に入りたいくせに」
多嶋がにやにやする。
「否定はしないが、それで俺が嫌われるのは御免だ」
ムスッとする倉塚の前で多嶋が「カモン!」と別の部屋を覗きに行こうとする。その途中で、多嶋は廊下の向いにあるトイレをちらっと見た。
「最後に来たの中2の時だったから、すっごいリフォームされてる!」
そう言って向ったのは猿原の部屋の隣にある、さっき彼女が荷物を抱えて飛び込んだ部屋だ。
中を垣間見ると、暗い部屋の壁に、色々な海外ロックアーティストのポスターが貼ってあるので、兄弟の部屋だと思われる。猿原は自分の部屋で見られたくない物を、弟の部屋に放り込んだのだろうと、多嶋は勘ぐった。
そのとき猿原の部屋の鍵がカチャリと開き、息を切らせた彼女が顔を出した。
「……いいよ。入って」
招かれるまま遠慮なく女子の部屋に入っていく多嶋の後ろから、申し訳無さそうに倉塚も続く。あんなに忙しく片付けていたから、着替えでもしていたんだろうと思ったが、猿原の格好は、パジャマの上にカーディガンを羽織っただけだった。
「散らかってるけど、文句言わないでね」
猿原が部屋の奥に歩いて行く。この部屋はさっき覗いた部屋に比べて全然明るかった。
女友達の部屋に入るのは初めてだった倉塚は、思ったより殺風景な部屋だと感想を持った。
女の子らしい小物が少なく、シンプルな部屋だ。断然倉塚の部屋の方が散らかっている。
「本当に散らかってるね。これで片付けた後だったら、片付ける前はどんなに散らかってたのか分かる気がするよ」と多嶋が冷やかす。
倉塚はお菓子の空き箱を踏みつけてしまい、滑ってよろけた。
「ああっごめんね。もう、多嶋は文句言わないでって言ったでしょ」
猿原がリッツの空箱を拾ってゴミ箱に投げ込むと、多嶋に聞いた。
「でー、何しに来たの?」
猿原が両手を腰に当て多嶋に向かい合う。その姿があまりにもコミカルだったので倉塚は萌えた。
「何って、ただ遊びに来ただけだよ」
多嶋が飄々として答える。
「こんな早くから?」
「うん。午後から来ても居ないかもしれないからね。あとストーカーの事教えて」
多嶋がサラッと言った本題に、
「えっ、まさか倉塚君にも言っちゃったの!?」
「もちろん。おさるさん日記も全部見せたよ」
猿原の顔が、かぁぁっと赤くなった。
「何で! 誰にも見せないでって言ったでしょ!」
猿原が本当に猿のお尻みたいに顔を赤らめて抗議する。
そうか、と倉塚は二人の会話から理解した。前からブログの事を知っていた多嶋はストーカー事件の事を知りたくて、倉塚にもブログを見せたのだ。倉塚と一緒に居れば、猿原もけんもほろろに追い返したりは出来ないと踏んだのだろう。
「それは熱湯風呂の前で押すな押すな言ってるみたいなやつでしょ? 『俺の事は構わず、行け』的な意味なんだと解釈させてもらったよ。本当は助けて欲しいのに、誰にも言えないみたいだったから、助けに来てあげたんだよ」
多嶋がえへんと胸を張って言う。
「良樹には関係ない事でしょ!」
「ん? 友達が困ってるみたいなのに、助ける理由が必要かい? 別にどうしても嫌って言うなら帰るけど」
「う……」
意外にも、それに対しての反論は彼女の口から出なかった。
それもそのはずである。彼女は本当に助けを求めている。だが他人に弱みを見せる事が出来ないのだ。
「何でも言ってよ。出来る限り協力するからさ。ヨータローもそうでしょ?」
「えっ」
突然二人から視線を送られた倉塚が慌てて頷く。
「うんうん、勿論。なんでもやるよ」
「うぅん……」
猿原が俯く。少しのあいだ間が空いたあと、彼女は顔を上げた。
「……分かった。何か飲み物持ってくるから、適当に座って待ってて」
猿原は笑顔を取り繕うと、扉の方に歩いて行って、部屋から出て行った。
猿原が居なくなってドアが閉まった途端、「いえーい」と多嶋が猿原のベッドに飛び込み、ばふんとウサギのクッションにヒップドロップをかました。
倉塚は「い」の形の口のまま多嶋から目を逸らすと、猿原の部屋を見渡してみる。
あまり広くはないが家具の置き方が上手く、狭さを感じさせない。部屋に小さいテレビがあるのにも驚いた。きちんと整頓された机の上にはチョコエッグのフィギュアが飾ってあり、本棚には少年漫画が並んでいるのを見て倉塚は、案外男の子っぽい趣味があるのだなと思った。
机の上とは対照的に、詰め込まれた本棚にはカーテンのようにタオルが被せられた所があり、棚の上に着けられたプレートには〈しおりの本棚〉と書かれていた。
倉塚はちらっと、ベッドの上で跳ねている多嶋を見る。また本棚に向き直ると、彼女がどんな本を読んでいるのか気になって、カーテンになっているタオルを捲ってみた。
参考書だらけの本の一画は、ほとんどが「〜事件」や「〜の殺人」というようなタイトルの推理小説だった。
「猿原さんも、意外とこういうの読むんだ」
「ヨータロー知らなかったの?」と多嶋がトランポリンをやめて本棚を見る。
「あいつ、ミステリー小説の知識なら僕より遥かにいっぱい持ってるよ。それに僕が中学生の時にミステリーに嵌り出したのも、栞莉に影響された所為だからね」
「そうだったのか……」
道理で多嶋と話が合う訳だ、と倉塚は思った。
そのときガチャンとドアが開いて、ジュースを載せたお盆を持った猿原が部屋に入ってきた。
「ねえ、勝手にベッドの上に座らないで」
見咎められても多嶋は、「適当に座ってて、って言われたよ」と言って立ち上がった。
「適当って意味、辞書で調べてみたら?」
猿原は盆をテーブルに置き、男二人にグラスを手渡すと、机の回転椅子に腰を下ろした。
「どうでもいいね。それより、ストーカーの事教えてよ」
単刀直入に本題に入られ、猿原が溜め息を吐いた。
「……わかった。そこらへんに座って」
猿原が座ったのを了承の合図と取り、多嶋はまたベッドに腰掛ける。倉塚は取り敢えず壁に背を凭れた。
「じゃあ質問するよ。まずは、どんな事されてるのか教えて」
多嶋が急に真剣な目になって質問すると、猿原はそれを見て、漸く重い口を開いた。
「うん……、実際に何かされた事は一度も無かったの。ただ学校から帰るときになると、必ず後ろから視線を感じるようになって……。それが家に帰るまでずっとついてくるの……」
まだ彼女は言いたい情報があったようだが、自分が被害者だという立場が恥ずかしいのか、そこから床に視線を落とし、黙ってしまった。
「〝一度も無かった〟って、過去形になってるのはどうして?」
自分から聞かなければ話は聞き出せないと分かり、多嶋が質問を続けた。
「それは……木曜日まではそうだったの。でも、四日前は違って……。帰ってきたら、玄関のドアノブにビニール袋がかかってたの」
多嶋と倉塚は、無意識に顔を顰めていた。
「コンビニの袋で、『栞莉ちゃんへ』って書いてあって……。中には……プリンが入ってた」
その話は、聞いていた多嶋の心胆を寒からしめた。
確実にそれは、犯人の仕業だ。宅配便を装う等して、あの警備員に入れてもらったのだ。プリンを食べられた恨み言が書いてある[無題]のブログ記事が更新されたのは、[やめてください]の二日前だ。それを読んだ犯人が行動を起こしたに違いない。
多嶋は、事が思った以上に深刻だったのを知った。
「犯人の姿は見てないの?」
気付くと、倉塚も質問を口に出していた。
「うん。怖くて、後ろ振り返えれなかったから、どんな人なのかは分からない」
「それって、いつからストーカーにあってるの?」多嶋が聞く。
「先月の終わり頃、くらいだったと思う。吹奏楽コンクールが終わった頃だったから。……それから、つけられる間隔が段々狭くなって……」
猿原の様子が、目に見えて暗くなっていた。
彼女の証言はブログの内容と一致する。おそらく[吹部♬]の記事と、その打ち上げ会について書かれた[女子会(笑)]が更新された後の事であろう。
知らない男に付き纏われるという恐怖を一ヶ月間も体験した猿原の心境を思って、多嶋は気が重くなった。
「そのプリンって、窯出しとろけるプリーー」
そのとき突然ガチャンとドアが開き、中学生くらいの少年が顔を出した。
「姉ちゃんのモウカザル進化させて……、あれ? 友達来てんの?」
話を中断させて三人の視線を集めてしまった彼は、キョロキョロと二人を見回した。
「あーもう、今大事な話してるから、あっち行ってて」
と猿原が少年を追い返す。
「でもここ」
「いいから」
姉にじっと睨まれ、少年は不服そうな顔をする。
「ねえ、せっかく俺、防音ガラス貸してやってんだからさあ、あっちの部屋で話すればいいじゃん」
「防音ガラス?」
少年のその言葉に反応して、多嶋が猿原に顔を向ける。
「そう、防音ガラス。隣の部屋の壁に設置してあるんだけどね。私、ユーフォの練習とか家でする為に、こいつから借りてるの。マンションだと、すぐ苦情来るから」
と猿原がすぐに答える。猿原は以前吹奏楽部にも顔を出していたのだ。
隣の部屋と言えば、さっきの暗い部屋である。壁の全面を防音ガラスで覆っている為に薄暗かったのだ。
「でも今は吹いてないからね。姉ちゃんはあそこで毎日一人カラオケやってるんだよ」
「ちょっとフミア!」
猿原が立ち上がると、少年は「やべっ」と言ってドアの前から逃げようとする。
「余計な事言わないで。こっちの部屋来ないで」
「わかったよ」姉に追われて少年がその場から立ち去る。
「あと姉ちゃん、お客さんに飲み物出せよー」
「もう出したし! ドア閉めてっていつも言ってるでしょ」
バタンと扉を閉めて、猿原が二人の元に戻ってくる。
「あの愚弟が」
「猿原さんの弟くん?」と倉塚が聞いてみる。
「そう。私、お姉さんなんだ。意外でしょ」と猿原が少し照れくさそうに笑った。
年下の兄弟がいたのか、と倉塚は、猿原がたまに見せる母性の正体が分かった気がした。
「ねえ、防音ガラスって文章くんが買ったの?」
「うん、あいつエレキギターの練習するから」
「すっげえ……」ブルジョアだ、と多嶋が感嘆する。
「そんな事より、事件の話に戻るよ。質問を続けてもいいかい?」
多嶋はグラスを机の上に置いて続けた。
「……うん」
「じゃあ、ストーカーの犯人について、心当たりのある人物とかは居る?」
「別に、居ない……と思うけど……」猿原が考えながら答える。
「でもあのブログを見てる人の中には居るんでしょ? 最後の記事が、犯人に向けてあるみたいだったからね」
「え……っ」
その質問で猿原は答えに詰まった。多嶋は思いのほか自分が探偵っぽい事を言えたので、楽しくなってきた。
「それに、僕の見解だと犯人の行動は、栞莉に対しての変質的な好意から来てると思うんだ。仮説を言わせてもらうと、犯人は十中八九あのブログの通読者だね。まずあのブログ中に散在する個人を特定できるような情報を掻き集めて、あのブログを書いた女子高生がどんな人なのかを知りたくてストーカーをしてるんだよ。あのプリンを食べられたとか書いたのが投稿された後日に、ドアにプリンが掛けられてたっていうのが決定的だね」
多嶋の話を聞いていた猿原が、あぁ……と締念したような息を吐いた。
「やっぱり、そこまで考えてるんだ……」
猿原が打ち明け始める。
「私も、そうだと思ったの。実は前からブログに変なコメントする人がいて……。ちょっと、今パソコン持ってくる。見せるから待ってて」
そう二人に言い残すと、猿原は一旦部屋から出て行った。すぐにノートパソコンを持って戻って来ると、二人の前のテーブルに置いて、それを起動する。
「その人だけハンドルネームを使わなくて、それに、私がブログに書いた事ないような事まで知ってるの」
家族で共用のパソコンなのだろう。猿原が急いでパスワードを入力し自分のアカウントを選択する。現れたスクリーンからインターネットエクスプローラーを立ち上げると、すぐにブログのホームページに繋がっていた。
「これの……ずっと前のプリンのページ」
猿原が指差したのは、〈(おなかが)プリン親父〉と〈泰然寺 寂〉のコメントに挟まれた〈・管理者の承諾待ち〉という一文だった。
「待ってね、今見せるから」
二人が見ている中、猿原は管理者コードで再ログインし、承諾待ちのコメントを表示させた。
・名無しさん:毎日ブログ拝見させてもらってます。
蚊取犬ちゃんとお話がしてみたいです。
気が向いたら来て下さいね。待ってま→す♡
http://chat.blackwidow.df.jp/xxx……
「……どういう事?」
読み終わった倉塚が猿原に聞いた。
「このURL、同じ人が何回も書き残してくみたいなの。その先で待ってるって言ってるんだけど、変な所に飛ばされたりしたらと思うと、検索するのが怖くて……」
「なるほど」
そう言って多嶋が彼女からマウスを攫う。そしてそのURLをドラッグして選択したかと思うと、アドレスバーにコピーアンドペーストした。
「ちょっと待て」
もしウイルスサイトだった場合、感染するのは猿原のパソコンだ。倉塚が止めようとする暇もなく、多嶋はそのURLの先に飛んでいた。
カチッ。
「あ……」
三人は一時、現れた画面を見つめて、何も言わなくなった。
画面が映し出したのは、真っ暗なチャットの画面だった。
いくつものウィンドウの中には、何も映っていない。
「何……これ」
猿原が訝しげに眉を寄せ、真っ暗な画面に目を凝らす。
「おい良樹、変なサイトだったらどうするんだよ」
多嶋が倉塚に答える。
「大丈夫 。このURLは見覚えがあったから……」
「えっ?」
「これは…………密室殺人ゲームの会場だ」
URLの構成がよく分からなかったので、適当にそれっぽく書きました。パソコンに詳しい方、どうすればいいか教えて下さい。