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密室推理ゲーム・イミテーションズ  作者: DF946
密室推理ゲーム・イミテーションズ
4/12

ハガネの爪と床下の疾走者

※山村美紗さんの「花の棺」のメイントリックについて言及しています。未読の方はご注意ください。

 真っ黒だったウィンドウの一つに映像が点った。映された人物は黒装束に覗き穴だけが空いた三角頭巾で顔を隠している。

 ここはネット上のチャットルームだ。他の四つあるうち、二つのウィンドウにも奇抜な格好をした人物等が映っている。その映像も別の何処かからリアルタイムで送られてくる、それぞれのウェブカムが捉えている、PCの前の様子だ。

ヒカル〈【お。来ましたね】

〔こんばんはー教祖様〕

 既にログインし、ウィンドウに映っていた二人が挨拶をする。

 このチャットに集まる者は各々で仮装をし、顔を見せずに〝ゲーム〟をする。五人同時にテレビ電話で通話するようなこの仮想空間は、そのゲームの為の会場だった。

『……あとの二人は?』

 黒ずくめの怪しい人物が呟いた。彼の映るウィンドウのタイトルは〈オルテガ〉と書かれている。その声は、ボイスチェンジャーで声を変えた、電話越しで誘拐犯が使うような低いものだった。

ヒカル〈【まだ来ていないみたいですよ。映像が動きませんでしたから】

 〈ジャスティス☆吉田〉のウィンドウで、打ち込まれた文字が表示された。彼は音声入力を行っているのか、レスポンスが早い代わりに変換ミスのような誤字が目立つのが特徴である。その画面にはシミュレーションゲームのプレイ画面のようなものが映されており、ヒロインの左横に立つ主人公と思しき男性キャラクターのフキダシ部分に、入力された文字が表示されている。源氏物語をモチーフにした恋愛シミュレーションゲームらしい。

〔ヒマだから、俺達だけで始めちゃおうよ。教祖様なんか問題出して〕

 もう一人の〈DF:946〉と書かれたウィンドウに映る人物が声を出した。

 その姿は袖を捲ったYシャツの上にベストを羽織り、首にヘッドホンを掛け、顔は目深に被ったキャップ帽で見えなくなっている。カメラを斜め上から俯瞰するように置いている為であろう。声も機械を使って加工しているのか、カラカラと音程の変わる少年のような声だ。

『私は前回出題しています。なのでまだ問題が出来ていません』とオルテガ。

『順番から言って次は〈コウくん〉さんでしょう。それに、まだ時間になっていと思いますが』

と、そこに示し合わせたかのように、黒かった二つのウィンドウに映像が映った。

[こんばんわー。いいあくしゃらむるー]

「あれ? 何、俺遅れてないよね」

 一方にはパンダのパペット、もう一方にはガスマスクの大写しが動いている。

ヒカル〈【コンマ何秒に差でキックさんがビリです】

〔おせーよガスマスク〕

「ア? 遅れてねぇじゃん。オメーらが早いんだろ?」

 と〈kicracker(キックラッカー)〉のウィンドウ内で、ガスマスクを着けた人物が挨拶する。

 黒いウィンドブレイカーのフードをマスクの上から被っている様子は、とても不気味な印象を与えている。その声から察するに中・高校生くらいの若い男であろう。それ以外の事は分からない

ヒカル〈【5分前行動という言葉があります。彼女との待ち合わせ等の機会があったときの為に、覚えておいたらどうかな】

「ウルセェよ。お前らみたいな暇人じゃねえんだよ」

[僕だったらデートには遅れて行った方がいいと思うな。だって待ったら気を遣わせるじゃん]

 パンダの人形が口をパクパクさせる映像の下で、音声レベルメーターが揺れた。腹話術をしている人物の声は、ヘリウムガスを使ったかのように甲高い。ウェブカムの前に、人形をつけた手だけを映しているのだ。ウィンドウタイトルは〈コウくん〉だった。

「お前には一生縁が無さそうだけどな」とキックラッカー。

『そろそろゲームを始めませんか? 全員揃った事ですし』

[さっそくだね]

〔みんな頭脳ゲームに飢えてるんだよ〕

『出題者は誰ですか』

 四人が顔を見合わせるまでもなく〈ジャスティス☆吉田〉が文字を出していた。

ヒカル〈【では次は私が】

ヒカル〈【場所はある豪邸で、その家の主人が殺されました。屋敷はーー】

「え、もう始まってんの?」

ヒカル〈【】

 ジャスティス吉田が一旦、テキストを閉じる。

ヒカル〈【事前に撃ち込んでおいたやつをコピペするので、各自で読んで下さい】

 もう一度文章が消えると、また同じ文面の長文が表示された。

ヒカル〈【場所はある豪邸で、その家の主人が殺されました。屋敷は築うん十年数十坪の木造日本家屋。被害者は70代/男性で、同居している家族は一人もいません。ある日その娘が父を訪ねに行くと、人の気配がない。寝室の襖が閉じられ開かない事を不審に思い襖の一つを壊して中に入ると、そこには変わり果てた父の姿が。娘は驚愕し、直ぐに警察に通報。駆けつけた鑑識の調査によると、ミイラ化したその死体は死後数週間経っていて、死因は中毒死だということが分かりました。部屋全体は内側から鍵が掛かる襖により閉じられ、密室状態でした。さて犯人はどうやって殺したでしょう】

 真っ先に読み終わったキックラッカーが声を出した。

「お前が犯人っていう設定なんだから、一人称にする努力くらいしろよ」

ヒカル〈【すみません】

[娘さん怪しい]とコウくん。

[でも犯人はヒカル君なんだから、共犯でもない限り関係ないよね]

「当たり前だろ。実行犯は必ず出題者一人ってルールあんだから、忘れんな」

〔うん。死体がミイラ化してるって事だし、早業殺人も無理だよね〕

「アァ? ちょっと待てよ、数日でミイラになんてなるのか?」

 キックラッカーの質問に〈ジャスティス☆吉田〉は少し考えてから答えた。

ヒカル〈【気候条件が合えば出来ます。でもこの問題で重要なところはそこではないのでスルーして下さい。別に腐乱死体でも構わなかったんです。要は顔が判別できないくらい皺くちゃで酷い有様だったって事です】

〔顔が判別……〕

ヒカル〈【それも関係ありません】

 なんなんだよ。とキックラッカーがペプシコーラの缶を持ち上げる。が、口許まで持って来て、今日はガスマスクをつけている事に気付いて缶を置いた。

『襖に鍵が付いているというのは、どういった?』

 オルテガが質問する。

ヒカル〈【ネジ締まり錠っていうんですかね。とにかくそういうのが昔の家にはよくあったんです。今の人には分かんないかな】

「オメェは何歳のつもりだよ」

〔はいはい〕

 オルテガがさらに質問する。

『その鍵は被害者自身が閉めたのでは? 鍵や部屋の中に、犯人ーーあなたの指紋を残したりしていませんか?』

ヒカル〈【被害者には確かに、就寝時には寝室に鍵を掛ける習慣がありました。部屋の中には一応家の主人の指紋しか見つかりませんでしたが、わざわざ聞く事ですかね】

 言われれば、被害者との繋がりがなくとも犯人が自分の指紋を残しはしないだろう。犯人が鍵を掛けたとしても、手袋をしたり指先をボンドで固めたりなど、指紋を消す方法は沢山あるのだ。

「犯人が指紋を拭き取ったて事だったら、襖を破って出て外から和紙を貼り直したかも知れないよね」

 〈コウくん〉のウィンドウでパンダの人形がパクパクする。

〔ミサミサの「花の棺」のトリックだね〕

「テメェあと一回でも山村美紗先生に変なアダ名つけたらブッ殺すからな」

 キックラッカーが一度、持っていた片側がノコギリのようになっているタクティカルナイフを上げて見せた。

「しかも襖ってそっち系かよ。俺はなんか茶室にあるようなん想像してた」

 コウくんの仮説にジャスティス吉田が答える。

ヒカル〈【確かに障子紙が貼られてる方の襖っていう設定でもいいけど、張り替えられた跡も無く、格子型だから人が通り抜けるのも不可能。格子を組み直したり襖ごと外すのもできません。

 それと、言い忘れていましたが、寝室の出口がある廊下全てに監視カメラが設置してあって、屋敷全体を警備会社のセキュリティシステムが監視しています。死亡推定時刻には通報も無く、カメラの映像にも犯人ーー私は映っていません】

「なんだよ。先に言いやがれ」

[日本建築だから、カメラでもなきゃ密室にならないんだね]

〔監視カメラを騙すトリックも色々あるけど? 映像編集とか〕

 と〈DF:946〉が疑問を呈する。

 ヒカル〈【そっちの方はしていません。監視を搔い潜っただけです】

『なら方法は一つでしょう』それまで考えていたオルテガが口を出す。

『犯人はーー』

[遠隔殺人だね!]

『……はい』

 言いたかった事をコウくんに先に言われ、オルテガが少し落ち込む。

『例えば飴玉の中に毒を入れておき、舐めている途中に毒に到達するような時限トリックを使えば、犯人は部屋に入らなくていい』

「わざわざ会って、『これ歯磨きの後で寝ながら食って下さい』って飴渡したってか? そんなジーサンなら死んで当然だわ」

[ははっ、自業自得だね]

「そんな上手く行く偶然なんてねーよ。しかも食ってる途中で死んだんなら、口ん中に溶けかけの飴が検出されるだろうが。あーマジレスしちまった」

 オルテガが冷静に答える。

『別に密室でなくてもよかったんです。セキュリティ万全な屋敷の中で死んでいればいいんですから。そこに偶然が重なったという話です』

 それに、とオルテガが付け加える。

『飴のトリックは例として用いただけです。他にもジメチル水銀を使ったり、フグ毒とトリカブト毒を混ぜて遅効性の毒を作ったりできます』

 〈DF:946〉が「おっ」と反応した。

〔それ知ってるよ〕

「何を」

〔実際にあった事件でね、アコニチンっていう即効性のある毒で殺された人がいたんだ〕詳しく説明を求めるキックラッカーにDF946が説明する。

〔容疑者の神谷って人が逮捕されたんだけど、その人は死亡推定時刻には別の場所に居たっていう鉄壁のアリバイがあったんだよね。で、よく調べると死体からテトロドトキシンが出て、アコニチンと同時に服用された事が分かったんだ。どっちの毒も細胞膜を破壊する作用があるけど、Na+チャネルを活性化させるアコニチンと不活性化させる力のあるテトロドトキシンが合わさると、拮抗作用っていって、中毒効果が抑制されるんだって。先にテトロドトキシンの半減期が来るから、被害者は即効性のあるアコニチンで殺されたように見えたってわけ〕

「マジかよ!」

〔本当にあった事件のトリックっていうのが凄いよね。しかも日本で〕

「ヤベェなソイツ! 天才か!?  ガチでイカレてんじゃん!」

 キックラッカーが目の色を変えて興奮する。ガスマスクの奥の顔は他のプレイヤーには見えていない。

〔杜撰なアリバイトリックだけど名犯人なのは確かだね。詳しくはトリカブト保険金殺人事件でググレカス〕

[ねぇそれだったら、もしアコニチン飲んじゃった時はテトロドトキシン飲めばいいてことだねっ]とコウくんがはしゃぐように言う。

〔もしそうなったら、定期的に毒飲まないと死んじゃう人になるのかな〕と〈DF:946〉もそれに乗って笑った。

『そんな事はどうでもいい。遠隔殺人の方法を推理すればいいのか、それを教えて下さい』

 出題者のジャスティス吉田が答える。

ヒカル〈【それはお教えできませんが、被害者は数日間外出していませんでした。部屋の中にも犯行に使われたような物は無く、郵便も配達されていません】

「じゃあ、その家の監視カメラっていつ設置されたの?」とキックラッカーが聞く。

ヒカル〈【十年程前かな。ちなみにカメラに細工はしてませんよ】

「その問題の題名は?」

ヒカル〈【え?】

「題名だよ題名。至音みたいに付けねぇの? タイトル、◯◯の密室とか」

ヒカル〈【ありますが、メイントリックと直結するので言えません】

「なら分かったけど、屋根裏の散歩者とかだったらマジでぶん殴るよ」

〔天井裏?!  十年間も?〕

ヒカル〈【違います。そんな所に隠れてはいません】

 〈ジャスティス☆吉田〉の文章のレスポンスが遅くなる。

「だからって床下とかじゃねえよな。まさか」

ヒカル〈【】

 返答が止まる。

「オイ? どうなんだよ」

ヒカル〈【】

「なんか言えよ」

ヒカル〈【】

ヒカル〈【正解です】

 その途端キックラッカーが鬼の首を取ったように笑いだした。

「ショッボ! 何ソレお前、マジで言ってんの!? 」

[え?!  十年も床下に住んでたの?]

〔まさか。地下に穴を掘って部屋の床下に通路を繋いだんでしょう〕

『それでも凄い大掛かりなトリックだと思いますが……』

 プレイヤー達の声に〈ジャスティス☆吉田〉の画面に映るヒカル君のフキダシが動かなくなった。

「どんだけ普通なトリックだよ。ここにいるミステリマニア舐めてんのか」

「手加減してくれたのかもよ」

〔サービス問題だね〕

 そこに突然、アニメっぽい女性の萌えボイスで

「ばっ、ばっかじゃないの!?  別にアンタの為にやったんじゃないんだからねっ」

 と共に、ヒカル君の隣に居た水色の髪の美少女キャラクターが頬を赤らめた。

〔あ。葵ちゃん喋った〕

[すごい! そんな事できんの?]

「ツンデレキャラかよ! 女の子を盾に逃げんなヒカル」

ヒカル〈【はい。細かい謎まだ残ってるけど答える合わせしていいの】

「負け惜しみか? 早く解説しろ」

〔解説どうぞ〕

 ヒカル君のフキダシにコピーアンドペーストしたらしい長文が出現する。

ヒカル〈【穴を掘って、被害者の寝ている部屋の床下に出ます。寝ているターゲットの居る畳の下から、ナーパスニードルを使った注射器でボツリヌストキシンを注射します。被害者は痛みも感じずに即死し、0.18㎜の畳の穴は鑑識でも見つけられません。あとは脱出して穴を埋めれば完成】

「ほらな」

『でも良く出来てはいましたよ。床板を外すのは、床下に人の入れるスペースがあって、基盤がコンクリートで固められていない日本建築でしか出来ませんし、朽ちて皺だらけになった遺体からは注射の痕を見つけるのは困難でしょう』

[すっごい時間かけて穴掘らないといけないしね]

「だからって、今更感ありすぎんだよ。必殺仕事人の焼き直しなんか見たくねーつの」

 キックラッカーが短剣のようなナイフをひらひらと動かしそっぽを向く。

ヒカル〈【温故知新ですよ。古典から学ばなければ新しいものを生み出せませんからね】

「負け犬の言い訳だろ? 思いて学ばざれば則ち殆しだ。創作意欲が無ければ模倣以上のものは創れない。古くさいお前のアタマは時代遅れなんだよ」

ヒカル〈【創作意欲? 創作センスの間違いでは? あなたにはそれがあるとでも言いたいんでしょうか】

〔まあまあ、そんなにピリピリしないでさ。次行こうよ〕

 いがみ合うキックラッカーとジャスティス吉田を〈DF:946〉が牽引し、次の出題を促す。

『次の出題者は誰ですか?』

 キックラッカーが指名する。

「次はパンダだろ。この石頭にクソ前衛的な超トリック見せてやれ」

[おっけーいいよ]

〈コウくん〉の返事に、何人かが苦笑する。〈DF:946〉がクスクスと笑い出した。

[ねぇなに? 何がおかしいの]

〔え? フフッ、だってさ。コウくんの前の問題、幽霊とか出て来たじゃん〕

 〈DF:946〉が帽子の鍔に隠れて、堪えきれずに笑い始める。

[何か問題でも?]

 〈コウくん〉がムッとした声で言ったかと思うと、画面からパンダのパペットが消えた。カメラの前で片手に填めていたパペットを下げたらしい。その後ろで白い顔の人物が、目元から下までが映像に映った。紫色のシャツにベストを着ていて、頭にはパンダのフードを被っている。顔は人相が分からないように紫色のウィッグを着け、白塗りの化粧をしているようだ。服装は、インガというアニメキャラのコスプレらしい。

『きっと待ちきれなくてウズウズしていたんでしょう。早く問題を出して下さい』

 オルテガが宥めると、コウくんはまたパペットを上げ腹話術に戻った。

[ならいいよ。いくね]

 どうぞ、と〈DF:946〉。

[場所はね、アメリカのドラマとかでよくある感じの、住宅地みたいな所の一軒。二階建てで、被害者の女の子は二階の部屋でベッドで寝てたの。

 一階では親戚がホームパーティーをしてて、二階に人が上がる様子は誰も見てないって事ね]

ヒカル〈【ホームパーティー(笑)】

[女の子の悲鳴があがって家族の一人が二階に上がると、そこには惨殺された女の子の死体が! 

 ベッドの上が血まみれで、女の子の胸辺りに三カ所、ナイフで斬られたような傷があって、部屋中に血が飛び散っていました]

 キックラッカーが手にしたナイフを肩に当てトントンと叩く。

[部屋の中の様子は入り口の向かいが大きな窓で、その下にベッドがある。近くに机とドレッサーがあって、ドレッサーの上にはお人形がたくさん並んでて、ドアの近くには服がいっぱい入った衣装箪笥があるかなー]

〔アメリカかよ!〕〈DF:946〉がツッコんだ。

『いいですよ。死体の様子等をもっと詳しく』

[うん。服の上からズバッと、一直線の傷口が三つ平行に並んでて、なんていうか、ジュラシックパークⅢのロゴみたいな感じだね。その一撃が致命傷になって死んで、部屋中スプラッタでお人形やぬいぐるみまで血がベットリ]

「ちょっと待て、〝一撃〟って事は、一回の攻撃で傷が三本ついたって事か?」

 キックラッカーの質問にコウくんは「やべっ」と一言洩らした。

[うん。そういうことになるね]

〔ウルヴァリンかよ〕

[その家族が駆けつけた時にはもう女の子は死んでいて、犯人と思しき人物はその場には居ませんでした。さて僕はどうやってその女の子を殺したでしょう]

 コウくんが言い終わると、他のプレイヤー達はしばらく口を閉ざした。

[あれ? 質問は? みんなちゃんと聞いてたの?]

 あまり真剣に聞いていなかったキックラッカーが質問する。

「えーと、なんだっけ。てか窓があるんだろ? そこから出入りしたんじゃねえの? 部屋の中に隠れてて、殺した後窓から出てった」

[違いまーす。窓は開いていたけど、落下防止用の鉄格子が嵌っていて人が出入りすることはできません]

 〝人が〟という言葉にキックラッカーが反応する。

ヒカル〈【なら、箪笥の中やベッドの下に隠れていたのでは?】

[家族の人達が探したけれど、部屋の中に犯人・・と思われる人物はいませんでした]

「あー……その女の子って寝てる間に殺されたのか?」

 キックラッカーがまさかという感じで確認した。

[うん。そうだよ]

「で、金属の凶器で胸に三本の傷をつけられたんだろ?」

[そうだね]

 「今までのお前の出題傾向から推理していいのか?」

[どーぞご自由に]

〔あ。もう分かった〕

 〈DF:946〉が呆れたように鼻で笑った。

ヒカル〈【なに。どう分かったの】

 〈ジャスティス☆吉田〉だけが、さっぱり分からないというような反応を示す。

「わかんねーんだったら、ミステリーって言う概念の枠を広げとく事をおすすめするよ」

〔カギ爪男でしょ?〕

「だろ。十三日の金曜日もヘルレイザーもジャンル的にはミステリーだしな」

[ヘルレイザーは違くない?]

ヒカル〈【何の事ですか。説明して下さい】

 〈ジャスティス☆吉田〉の焦っている様子が分かる。オルテガだけは覆面でポーカーフェイスを見せている。

〔エルム街の悪夢っていうホラー映画があるんだよ。知らない?〕

「絶対コイツ知らないだろ。モルグ街じゃねーぞ」

ヒカル〈【知りません。教えて下さい】

 オルテガが話し出す。

『その映画の中に、鉄の爪を付けたフレディという怪人が登場するんです。フレディは人の夢の中に現れて、その爪で夢を見ている人を殺します。それと同時にその夢を見た人は現実の世界で、夢の中で付けられたものと同じ傷を負って死ぬんです』

〔ナイスまとめ〕

ヒカル〈【と言う事はパンダさんは夢の中に現れる能力を使って女の子を殺したって言いたいんですか】

「そういう事だろ。ってか教祖様も知ってんじゃん」

『リメイクしか見ていませんけどね』

 プレイヤー達が盛り上がる中一人、パペットの後ろの人物が不敵に笑っていた。

[本当にフレディだと思った? ……残念! フレディの仕業に見せかけたミスリードだよー! 騙されたなばーか!]

「なっ……!」

 フザケんなとキックラッカーがナイフを持っていきりたった。

[僕の出題傾向から推理していいか聞かれたとき、いいとは言わなかったよね]

「ウゼー、マジウゼェこいつ」

〔フフッ、思ったんだけどここにいる人達って結構そういう系映画好きだよね。絶対SAWとか見てるでしょ〕

『そうそう』

ヒカル〈【so so(まぁまぁ)

「あ、俺あの人形のマスク持ってるわ……じゃなくてさ、どうやって殺したって言うんだよ」

 キックラッカーが噛み付き、コウくんがキョトンとした声で言った。

[あれ? それってみんな降参ってこと? じゃあ僕の勝ちでいいんだね]

「テメェ……」ガスマスクの中で、苦虫を噛み潰したように呟く。

『物理トリックを使ったんでしょうね』

 ん? と全員がオルテガに注意を向ける。

『窓際に対して対角線上、部屋の反対ですからドアかクローゼットの上辺りでしょうか。凶器は先端を研いで尖らせた、小型の熊手のようなものでしょう。その端に耐久性の高いゴムチューブ等を付け天井辺りにセットします。熊手に付けたゴムは天井の色にカムフラージュさせるかして天井に沿って貼付けてゆき、端を窓の外に出しておきます。熊手自体はある程度の力で粘着力が持続するテープでドアの上に貼付けておいたのでしょう。そしてターゲットが窓際のベッドで寝たのを確認した後、車等に括り付けたゴム管の一端を勢いよく引く。熊手はギリギリまで引っ張られた後粘着テープが剥がれ、強烈な勢いで引き戻された凶器が被害者の胸を切り裂いた後、窓の外へと飛び出していく。これで格子の嵌った窓から、凶器を回収して殺す事が出来ます』

 しばらくオルテガの推理を聞いていたキックラッカーは、その論理性に頷いた後、ゆっくりと拍手を送った。

「さすが教祖様だな。ちゃんと筋が通ってる」

〔そうか。前回の問題は、今回で理にかなった推理をさせない為の罠だったんだね〕

[ちょっと]

 〈コウくん〉が抗議する。

[教祖様のが正解なんて言ってないじゃん。ハズレだよ。正解は殺人鬼の人形]

 『人形?』

〔あっ、そっち〕

 キックラッカーは騙されたのを悟り笑った。

「映画違うじゃねぇかよ」

ヒカル〈【どういう事です?】

 ジャスティス吉田が解説を求める。

「ああ、コイツ。『お人形も血まみれ』ってとこで騙しやがった」

 オルテガが説明する。

『チャイルドプレイという映画で、殺人鬼の魂が人形に乗り移るんです』

ヒカル〈【……】

ヒカル〈【今の私のような状況を「鳩が豆鉄砲」って言うんでしょうね。全く話について行けませんよ】

ヒカル〈【コウくんは人形を操って殺したって言うんですか?】

[そうだよ。直接神経接続した体外式ヒューマノイドインターフェィスなら人の入れない狭い格子の間もくぐれるからね]とコウくん。

〔あれ。JPホーガンのミクロパーク? オカルトじゃなかったの?〕

「GTロボじゃね」

[RAIの風守だよ。セクサロイドじゃない方の。ほらっ]

 〈コウくん〉の映像からパペットが消える。代わりにもう片方の手が伸びて来て、掴んでいた別のパンダのぬいぐるみを見せつけた。薄いピンク色で、目が色違いのボタンでできている。

「わっかたか? これが新奇性ってやつだよ石頭」

 キックラッカーが挑発する。

ヒカル〈【なるほど。コウくんは現実味は全く無視なんですね】

〔それがこのゲームの特性だよね〕

ヒカル〈【理解に苦しみます】

「これを機にTSUTAYAで借りて来て、こういうミステリーの括りもあるんだなって事覚えろ。学びて時にこれを学ぶ、亦楽しからずや。だろ? 今のうちに独創性ってのを見習っとけ」

[じゃあ僕が1ポイントゲットだね]

 ジャスティス吉田がまだ納得いかないように呟く。

ヒカル〈【解せません。手掛りになる伏線が提示されてないなんてアンフェアです】

「ごちゃごちゃウルセーよ、出直して来い」

ヒカル〈【認められません。元ネタ知らないと楽しからずなんて。あと論語の引用の仕方も間違ってるし】

 ぶつくさと文句をたれるジャスティス吉田を尻目に、オルテガが呟いた。

『次のゲームを始めましょう』

 全員が議論を止める。

『次の出題者は誰ですか?』

un-goというアニメを知らない人には、何が伏線だったのかも分からない話でした。

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