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第 9 話  ゴング

 どこかで、クラクションが鳴った。


 闘いの開始を知らせるゴングにしては、安っぽい音だった。

 思わずニヤついたのが、相手には気に入らなかったらしい。

 黒光りする全身の毛を逆立たせて、牙を剥いた。


「悪いな、別にオマエを笑ったわけじゃないんだ」



 自分の利き目と相手の体の空間に、静かに右手の手刀を割り込ませた。 

 空中に、大きく五画の漢字を書くのを由香里は知っている。

 横に二本、縦に三本だ。


 彼女と私の呼吸が同調するのを感じた。



 相手は、十分に興味を持ってくれたようだ。

 私の指先に合わせて顔を上下左右に動かしていた。

 

 また笑いそうになったが、必死に堪えた。

 十画以上なら、たぶん無理だっただろう。

 


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