木下賢
木下賢くんの家は2階だての戸建てだった。
ピンポーンとインターホンの音がなる。
「はい」
中から女性の声が聞こえた。
「あ、わたくし、近所で探偵業を営んでいる里水光一と言います。木下賢くんと関わりがありそうな話なんですが…」
すぐに奥さんが飛び出してくる。
「賢がどうかしたんですか」
「いえ、私に依頼された、金部さんのお孫さんも、同時にいなくなられたというお話を伺って、こうして来たということです。少し、お話を聞いてもよろしいですか」
「ええ、上がってください」
奥さんが家にあげてくれたおかげで、ゆっくりと聞くことができた。
「では、いなくなった時の状況を」
「あの日は、公園で遊ばしてました。公園の隅に、黒フードでダッフルコートを着た人が立ってたんです。すこし不気味な感じがしましたが、その時はあまり気になりませんでした。でも、公園の中に入ってきて、賢に声をかけた時に、私はその人に声をかけたんです。その時は、そのままその人は去ったけれど、10分後ぐらいに、同じような格好をした人を2人ほど引き連れて、公園に来たんです。砂場を遊んでいた二人のところへ3人のうち2人が向かい、私や他の母親たちが見ていたベンチのところに、名刺を持ってきてこう言ったんです。怪しいものじゃない、ちょうどいいモデルになるので、すこし連れて行きたい。ここで写真を撮るだけだって。どうしようかと考えている間に、賢がいたはずの砂場を見ると、市代ちゃんと一緒に消えたんです」
「その時の名刺、持ってませんか」
涙をハンカチで拭き取っている奥さんに聞くと、ジップロックに密閉して入った一枚の名刺をくれた。
「これをくれた男も、すぐにいなくなりました。お願いです、
どうか賢も見つけてください」
「依頼ということなら、本当なら正式な手続きが必要なんですが、今回は特別にその辺りをかっ飛ばして承りましょう」
俺は奥さんに一言礼を言ってから、その名刺の住所へ向かうことにした。