007――帰路
さて、そんな訳で、霧中要塞ベルメルグを破壊終了。
兵の一部は取り逃したので、恐らく本国へ報告していっただろう。
もっとも、「全滅させろ」とは依頼内容には入っていないし。問題は無いだろう。
これで『エクストラ』に反撃にでもきたら、全戦力で相手してやるが。
「お疲れさん。みんな」
残骸すら残らず破壊された砦から、戻ってくる仲間たちを労う。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
「お疲れー」
傷1つ、いや埃1つ被っていない仲間の姿に安堵しつつ、改めて戦力差という物を感じる。
「つい2時間前まで、ここに巨大な石壁があったなんて思えない、な」
文字通り更地となった砦の跡地へと目を向ける。
ノーリが地中から破壊したおかげで、下手な荒地よりよっぽど良い土地になっている。
これなら、下手に砦なんぞ建てるより平和交渉して畑にでもしたほうが両国の為になるんじゃないんだろうか。
まぁ、そこまで後の事はリーアも考えてないだろうが。
「さて、グラウとレウムももうそろそろ帰ってくるだろ。緋音は車に点火準備頼むわ」
グラウとレウムには一応、最後の偵察に出てもらっている。
この状況下でまだ追撃を考える人間はまず居ないが、忠国心とは時に肉体の限界を超えるものだ。
んでもって、車とは、ここに来るときにも使った大陸最速の移動手段、正式名称『灼熱サンダー魔導引式特殊点火車』。
なお、ネーミングセンスについては俺に言ってくれるな。名付けたのは俺じゃない。
まぁ、名前はいいとして、性能は抜群なので『エクストラ』のメンバーに重宝されている車だ。
緋音の『焔』を推進力として走るので、基本的に燃料要らずなところも良い。
緋音の方も、低温の炎でいいのであんまり疲れないらしい。
ちなみに、普通の燃料でやると、恐ろしく燃費が悪い。
大国屈指の大金持ちギルド『エクストラ』ではあるものの、それでも燃費が悪い。
外見は、屋根の無いトラックと言ったところか。緋音専用の運転席兼燃料席と、荷台に分かれている。
「旦那、偵察終わりましたよ。敵兵は全て撤退済みですよ」
「…………終了」
グラウとレウムが帰ってきて、車に乗り込む。
空から直接レウムが乗れたりするあたり、車はやっぱり屋根が無い方が良いな。安全性は無いけど。
「OK。んじゃ飛ばしてくれ、緋音」
「ああ、分かった」
緋音の足元から焔が出て、そのまま運転席の下にある穴へと吸い込まれていく。
その後、荷台がぶるっと揺れた後、猛スピードで動き出す。
既に辺りは暗くなってきていて、綺麗な夕焼けが霧に反射している。
「もう5時頃か」
「ふぁ~あ。そうだねー」
欠伸を手で押さえたリーアが、隣にずれてきた。
「なんだ、もう欠伸か。気が早いな」
「久しぶりだったんだもん。疲れたんだよぅ」
確かに、いつもより少し疲れた声色のリーア。
俺達は、依頼金の高さから基本的に1~2か月に1度ぐらいしか仕事をこなさない。
もっとも、今日の様に1日で終わる依頼も少ないのだが、それでも仕事数は相当少ないだろう。
「俺やグラウはサボってたからな。お疲れさん」
リーアの頭を右手で撫でる。
身長がコンプレックスなリーアにとって、頭を撫でられるのは嫌いらしいが、状況によりけり。
タイミングを計って、身長差を意識させぬよう、撫でる。
「あぅ……」
まぁ、なんだかんだ言って幼馴染。
んでもって一緒に異世界に堕とされて1年。
多少の事は許してくれる。
「わぁっ!?」
「おっと」
暗くなってきたからか? 急に荷台が揺れた。
「……黒鍍、ライトを付けてくれないか」
と、緋音が運転席から声をかけてくる。
まぁ霧こそ無いが、太陽は既に七割方沈んでいるのだ。
暗い中の運転は危険の極みだ。
「面倒だな。まぁこう暗くちゃしょうがないか」
リーアの頭から右手を引き揚げ、荷台の運転席寄りにある箱から、ライトを取り出す。
ちなみに、これもまた『エクストラ』特製品。
こっちに持ってきていた懐中電灯を分解して参考にし、こちらの技術を織り交ぜつつ作った代物だ。
これもまた、なかなかどうして便利な物で、明るい上に20時間は持つ。
「ほら、これでいいか」
ただ、仕様上車にライトは組み込めなかった。
というか暗闇の中での運転を意識してなかったので、ライトは荷台の誰かが照らすことになる。
一応、台座はあるのだが。揺れがひどくて落ちる事がある。
「ああ、ありがとう」
「あいよ」
「いいなー、緋音ー」
と、不満気なリーアがまたすり寄ってきた。
「別に嫉妬しなくても黒鍍は居なくならないのにー」
「ごほん。少し飛ばすぞ」
途端、アクセル全開。
「は? お前っ、ちょっ、スピード上げ過ぎじゃないかっ?」
「これ以上暗くなる前に着くためにはこれぐらい必要だろう」
いや、そのために今俺ライト点けたんだが。
「え、うわぁっ!?」
案の定、荷台ではリーアが転げている。
「ったく、ほらよ」
とりあえず影を飛ばしてリーアを受け止める。
「黒鍍。無駄に影を使うと疲れないか?」
「いや、緋音が飛ばしたからだろうに……」
「黒鍍ー、リーアは大丈夫だから離してー、胸が苦しいー」
おっと、締め付けすぎていたか。
「でも、胸なんて……」
グフ。
今、明らかに有り得ない動きのリーアの蹴りを喰らった。
いや、緩めていたとはいえ何故影から抜けられる。
「旦那ってホント駄目ですよねぇ……」
「…………朴念仁」
なんか後ろで声が聞こえるが無視。
というか、朴念仁は無いだろ。
まぁ、胸が無いネタはお約束だし。
反応してやるのが、幼馴染として正しきことだ。
まぁ、そんなこんなで『エクストラ』本拠地に向かって走る、俺達。
騒がしく賑やかに。
両手に濡れた血を、忘れるかの如く楽しく。
今日も、依頼を終らせる。
と言う訳で、
『ベルメルグ砦攻戦』依頼完了。